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日米露共同訓練

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「頭痛い……、自分の息が酒臭い、汗が酢の臭いする……」

最悪の気分で目覚めた高瀬飛行士だが、二日酔いを理由に飛行計画から抜けられない。

ここにはたった5人しかいない。

選ばれた5人なのだ。

酒に負けるのは許されない。


ロシア人もアメリカ人も、平然と作業をしている。

ロシア人の酒からの回復力は凄いものだ。

昨晩、あれだけ陽気にダバーイ、ウラーと叫んでいた癖に、今日は真面目な宇宙飛行士の表情に戻っている。


訓練は、主に避難訓練、救難訓練、補修訓練といった非常事態用のものであった。

火災が発生したと想定し、全員でソユーズに乗り移る訓練や、太陽電池パネル故障と想定しての補修訓練(船外活動では無く、「のすり」中間パーツに付いている小型ロボットアームの使用による)、貨物の受け渡しや病気や怪我を想定しての人の搬出等が行われた。

米露では普通に地上でもやっている訓練だが、最初ロシアとの共同利用が計画に入っていなかった日本では足りていない部分であった。

元々が日本独自で行う予定だったのだから。


シミュレーターモードにしたソユーズの操縦訓練も行った。

江口飛行士も高瀬飛行士も、ロシア語の練習はして来たが、訓練での管制センターとの受け答えは、ロシア人たちに笑われる事しきりであった。


訓練を終え、自由時間に。

自由時間とは言え、交代で船の運行に関わる飛行士はいる。

米露2人の船長がいる為、この辺は心強い。


「狭いけど、シャワールームが在るとか、凄いね」

「狭いけど、トイレが快適だな」

ロシア人が喜ぶ。

狭いのはロシア人がデカいせいではない。

今回の飛行士たちは、ロシア人にしたら小柄な方である。

いくら快適空間を意識した「のすり」とは言え、風呂トイレに大きく容量は割けなかった。


食事、また酒かと恐怖が襲う。

だがロシア人は宇宙慣れしている。

昨日はパーティーだから飲んだが、普段は飲まなくても大丈夫だ。

毎日酒とか、ふざけた宇宙飛行士ではない。


「宇宙勤務と潜水艦勤務はアルコールOKだが、極地勤務や流氷基地勤務はアルコール駄目ニェットなんだ。

 理由が分かるかい?」

不意にそんな事を聞いて来る。

「宇宙や潜水艦の方がストレスが溜まるからかい?」

「宇宙と潜水艦の場合、外に出られないからだよ。

 極地や流氷基地だと、酔って、外出て、裸になって凍死するからね。

 シベリアでの凍死者の8割は、酔って脱いでそのまま寝ての凍死者なんだ」

「酔って、エアロックや潜水艦のハッチ開けられたらどうするんですか?」

「酔っ払いには操作出来ないくらいに、難しく作られてるんだよ。

 それに、いざと言う時は強制酔い覚まし装置がある」

と、スパナを振り回すソユーズ船長。

へえ〜と感心している日本人飛行士2人に、笑みを浮かべて

「冗談だよ、半分嘘だから、信じない事だ」

と言う。

「半分って事は、本当の話も有るんですよね?

 どっからどこまでが本当なんですか?」

ツッコむ日本人に

「それは国家機密さ」

なんて笑う。

ソユーズの船長、意外に気さくな人だった。




4日目、ジェミニ改・ソユーズドッキング体は、日本の宇宙ステーション「こうのとり改」とランデブーする。

今、「こうのとり改」は、有人飛行計画のパートナーであるアメリカが利用していて、カナダ人飛行士と2人で乗り込んでいる。

ISSに4人(常駐クルー)、「こうのとり改」に2人、ジェミニ改・ソユーズドッキング体に5人と、宇宙には現在11人滞在している。

最多記録は12人で、その時はISSにスペースシャトル、ソユーズ、プログレス、「こうのとり」、欧州補給機の4機が同時にドッキングしていた。


「また、宇宙開発も活発になればいいな」

「全くだ」

米露の船長が語り合う。


この日は、ランデブーしている2ユニットが、それぞれを肉眼観測し、破損箇所の確認をしたり、ほぼ等速で接近飛行し、宇宙飛行士が乗り移る距離を維持する訓練を行った。

「やろうと思えば、乗り移れるな」

という、彼我の距離1メートルでの航行。

ロボットアームを伸ばせば、相手を掴める。

それを掴みながら、隣の船に行ける。

今回は計画に入っていないから、そこまではしない。

今後は訓練計画に入るかもしれない。


「そう言えば、映画ではソビエトの宇宙船が、木星で消息を絶ったアメリカの宇宙船に接近し、ランデブーからの乗り移りをしたんだったね」

「ああ、あの映画か。

 私も見たのだが、あれから言えば、我々は2010年には木星に居る筈だったな」

「いや、君たちは2001年には着いてないと駄目だろ」

「原作だと土星にな。

 それに、あの世界から言ったら、君たちはまだソ連じゃないか」

「小説にはまだまだ程遠いね」

「ああ。

 でも、いつか追い付きたいものだね」


ランデブー中の2ユニットは、こんな交信をしていた。


5日目、両機は分離する。

帰りは高瀬飛行士がソユーズに乗り、江口飛行士がジェミニ改に乗る。

船長キャプテンは中々厳しいからね。

 しっかり学ぼうな」

「ロシア側は……。

 言わぬが花です。

 あとはあっちの船長に聞いて下さい!」

「おい、気になるじゃないか」

「また日本で!」


分離後、江口飛行士は丸一日、さらに分離した「のすり」を標的にしたドッキング訓練を課される。

一方高瀬飛行士は、宇宙では何もする事は無かった。

ソユーズは訓練飛行日程無しで、分離後すぐに地球帰還シークエンスに入る。

居住モジュールを切り離し、機械船も分離し、帰還モジュールだけが大気圏再突入をする。

高熱に耐えて対流圏に到達、パラシュートが開く。

そして、最後の逆噴射で対地速度を落とし、着陸。


そして宇宙飛行士たち、回収要員たちが笑顔で言う。

「宇宙で飲むウォトカも良いが、やはり重力下で乾杯しよう!

 健康診断が終わったら、健康を損ねるまで飲もう!」


高瀬飛行士は江口飛行士の言わなかった事を理解した。

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