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アメリカ人の驚愕

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

有人宇宙飛行計画は総理の肝煎りで、アメリカと密接に連携している。

日本のロケット射場はスケジュールがいっぱいなのに、総理案件で無理して割り込んだ。

新型H-3ロケットは移動しての打ち上げが出来るが、完成はまだ先である。

そこで、JAXAの本来の計画で「もう無理!」という時期は、アメリカから打ち上げる。

「ジェミニ改」や「こうのとり改」の仕様をアメリカが何度も求めて来たのは、嫌がらせではない。

共通仕様だからこそ、アメリカのアトラスやデルタを使う事が出来る。


「なんか、日本きみのとこ意識変わった?」

小野がNASAの職員から聞かれた。

「さて?」

彼は日本にしばらく帰っていないので、外出自粛で「狭い空間に二ヶ月半閉じ込められる」宇宙飛行士の気持ちに初めて(やや過剰に)に気づき、機能重視から、より快適さ重視に設計を変えたのを知らない。

NASAの検査官は、宇宙ステーション輸送機「こうのとり」の与圧モジュールだけを使う、中間多目的機「のすり」を調べている。


「こうのとり」は与圧モジュール、暴露モジュール、機械船モジュールの3パーツで成り立っている。

「のすり」は与圧モジュール、予備モジュール、機械船モジュールと全く同じ構成、全く同じサイズで打ち上げられる。

(ジェミニ改とドッキング後、予備モジュールのドッキングポートを使う為、機械船モジュールは分離、廃棄される)

予備モジュールは、「こうのとり」とは違い、与圧モジュールとハッチで結合して、中に宇宙服無しで移動も出来る。

だが予備モジュールは居住区ではなく、以前は船外活動をし易くする拡張型エアロックの実験パーツであり、今回はロシアのソユーズ宇宙船とのドッキングパーツである。


アメリカとロシアのドッキングポートの規格は違う。

アメリカのドッキングポートは、凹凹ドッキングなので、ソフトタッチのドッキングとなる。

それに対しロシア式は凹凸ドッキングなので、自動でのドッキングがし易い一方、衝突に近いドッキングの仕方をする為、ドッキングポートはある程度の強度や衝撃吸収する仕組が必要となる。

日本は今までアメリカとのみ組んで来たが、ISSの延命に伴い、日本の宇宙ステーションがバックアップステーションとしての役割を担わされる事に決められた。

勝手に決めておきながら、最近アメリカは新型有人機を打ち上げ、ロシアのソユーズ宇宙船頼みにならない運用が可能となった。

にも関わらず、いざという時のソユーズ宇宙船での避難計画は残り、日本もロシア式ドッキングポートの運用試験を行うのは変更無し。


ドッキングポート、衝撃吸収装置、標的ターゲットマーカーを取り付けたドッキングモジュールと居住用与圧モジュールが連結されている。

その与圧室が、様変わりしていた。

今までは、荷物がコンテナで縛り付けられていて、無機質な白色LEDが灯り、一部の壁からベッドスペースが引っ張り出される程度であった。

しかし、今回は宇宙ステーションに寄らないから、貨物コンテナが無いとは言え、食糧は保冷剤囲みのパックではなく、冷蔵庫の中に荷崩れしないように入れられている。

居住区には窓が無かったのが、数ヶ所に飛行機型の窓、一ヶ所はブラインドで彩光量を変えられる大窓となっている。

LEDはやや黄色味を帯び、ツマミで光量を変えられ、オンオフ以外の薄暗さも作れる。

ディスプレイも引き出す事が出来る。

また、タッチパネルも用意された。

シャワーも全金属から樹脂を一部使ったものに変わった。

そして壁面は、無機質なツルッとしたものでなく、エンボス加工されたもの(不燃物で壁紙では無い)になっていた。

不要な荷物が無い分、いつもの2.1メートル四方よりも広く、ストレスを感じさせない。


「昔、爺さんに聞いたんだが……」

とNASA職員が語る。

「大日本帝国海軍の軍艦は、兵器を大量に積み、機関も強く大きいものを積んだ為、生活空間は劣悪だったそうじゃないか。

 宇宙船でもその癖が出ていたと思ったが、自力で直したのかい?」

(知らんし)

軍艦系オンラインゲームにも無関心な小野は、アメリカ人から感心されても、ピンと来なかった。

「ジェミニ改」及び「ジェミニ改2」の担当でB社に居ついていたのが、そのまま「日米露共同飛行」にも駆り出された為、逆に「ジェミニ改」との開発コンセプトの違いに戸惑っている。


「確か、訓練機だから贅沢を廃するのじゃ無かったんですかね」

「ジェミニ単独ならそれで良いだろ。

 だが、ロシア人を迎えるとか、宇宙ステーションに科学者送るとかなら、快適な空間の方が良いだろう。

 宇宙飛行士だけが宇宙に行く時代じゃないぞ」

「はあ……」

「アメリカじゃ、富豪も宇宙に行きたがってるからな」

(まあ、そういう事なんだな)


小野が関わっている「ジェミニ改2」は、「ジェミニ改」を無理矢理4人乗りにした為、居住性は最悪に近づいた。

今後も訓練だけなら2人乗りで運用する事になる。

宇宙ステーションへの移動で最大4人乗りにしたら、「のすり」の重要度は増すだろう。


「どうだい?

 アメリカが打ち上げた新型機を、人員運搬用に使わないかい?

 最大7人乗りだし、中間機と2機一緒に打ち上げなくても居住性は良いし、輸送量も大きいぞ」


(俺に言われてもなあ……)


元々単機で宇宙飛行士の訓練するだけなのから、どんどん野放図にやりたい事が増えていったのを、太平洋の対岸から見ていた為

(秋山さんは総理に逆らえないし、政治家クラスで一回全計画見直せる人が必要じゃないのかな)


そう思う下っ端職員であった……。

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