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呪縛の勇者 ~装備からは逃げられない!~  作者: 角鹿リン
第一章 呪縛の勇者の誕生
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第一話「名もなき辺境の村の勇者」

「あなたは選ばれし勇者なのです!」

「……はい?」


 目の前にいる、自称前勇者の仲間(笑)は告げる。

 俺は意味が分からずただ呆けた顔をして数秒後、やっとこの女性が人類にはまだ早すぎる言葉を発しているのに気づく。


「だから~、君は勇者だって言ってるでしょう!」


 頬をぷっくりと膨らませながらまたもや意味不明な言動をとる女性。

 へその見えるタンクトップと短めの外套、そして下はゆったりとしたズボンをはいているこの女性。

 服装から察するに、勇者の仲間としての職業は盗賊あたりだろうか。

 まだ十代後半、あるいは二十代前半にしか見えないが、本当に前勇者の仲間なのか。そもそも前勇者って、いつ頃の時代の人間なのだろうか。


「……じゃあ、仮に百歩譲って俺が勇者だったとしても、あなたはなぜ俺を勇者だと決めつけるのですか?」

「えっ、本当!? 勇者になってくれるのね? ありがと~!」


 仮に、という部分を強調して言う俺に対し、女性はその部分をすっ飛ばして早々に決めつける。

 百歩譲ってとも言ったんだが……って、これは聞こえないな。


「……とりあえず、名前を教えてくれませんか? 一応名乗っておきますが、俺はロニードです」

「あ、そうだよね! 私はソフィだよ。よろしくね、ロニード君」


 互いに短い自己紹介をする。差し出された手は取らずに、俺はさらに質問を続ける。


「で、ソフィさん。あなたはそんなことを言いに来ただけなんですか?」


 名前を知ったからか、少しだけ砕けた態度と口調で俺。

 するとソフィは、椅子の横に置いてある巨大なバックパックから何かを取り出そうとする。

 布団の上で座りながら見守っていると、徐々にその何かの正体が判明していった。


「服……それに鎧?」

「じゃーん! 新米勇者の装備セット!」


 目の前にどんと置かれた装備の数々。

 一番左には白いチュニックと普通のズボン。

 真ん中は革の胸当て(チェストプレート)と革のズボン、そして右端にはでかでかとした鎧が置かれていた。


「まさか……こんな紙みたいな装備で悪の大魔王を倒してこいとでも?」

「だいじょーぶ! 最初は野生動物やダンジョンの弱い魔物を倒せば何とかなるから!」


 勇者といえば魔王を倒す英雄。そう考え、言葉を口にする。

 ソフィはというと、親指を立てた握りこぶしを突き出し、期待のこもった眼差しでこちらを見ている。

 魔王といえば、本で読んだ程度の知識しかないが、魔族を統べる悪の頂点みたいな存在だ。

 勇者になったともすれば、その魔王から刺客が送られてくるのは当然だろう。

 そして最初に送られてくる刺客も、当然のようにスライムのような雑魚なのだろう。

 その刺客や野生動物たちを倒して、レベルアップして、お金を稼いで、新しい装備を買って……


「誰がやるかよ、そんな危険な人生……」


 そっぽを向いて、途方もなく危険な人生を回避するために言う。

 俺の生まれ育った特に名前のないただの村は、正直なところド田舎だ。

 故に、俺も小さい頃は勇者みたいな英雄になりたいと妄想したこともある。

 だが、今考えれば勇者なんて大層な役柄は俺に似合ってない。それに俺の父親と母親を心配させるわけにも――


「話は聞かせてもらったわ、ロニ」


 キィ、と木製のドアを開けて入ってきたのは、俺の母親と父親だった。


「母さん、父さん。二人からも何か言って――」

「これ、着替えとなけなしのお金(ルブ)。旅に出ても、しっかり食事と睡眠はとるのよ。行くのは明日でいいかしら、ソフィさん」

「もちろん、そちらの都合に合わせてもらって構いませんよ~」


 俺の言葉を遮って、母さんは着替えやお金、その他旅の道具を進呈してくる。

 そしてソフィは俺達の都合に合わせて結構とのこと。そもそも、俺は勇者になるなんて承諾していないんだが……。

 そのことを伝えようと口を開くが、またもや俺の言葉は遮られてしまう。


「ロニード。身だしなみには気を付けろ。いい女を捕まえるには、まず見た目からだ」

「……」


 開いた口が塞がらない。何故この両親は、さも俺が勇者になるかのように事を進めているのだ。

 そもそも、何故こんな夜遅くに得体のしれない女性を俺の部屋まで案内したのだろうか。


「あらあら、私達の手腕に呆気にとられているみたいね、パパ」

「無理もないさ、ママレード。ロニードはまだ子供だ」


 その子供を旅に出そうとしている鬼畜親は、どこの誰ですかね。

 年甲斐もなくイチャイチャする茶髪の大男と灰髪の母親はさておき。こうなった場合、どう対処するのが一番なのか。

 行かないの一点張りで断固として拒否しても、引き下がってはくれそうにない。別にその案も悪くはないのだが、それだと俺が引きこもりみたいだからな。

 一番穏便に済ますためには……勇者として旅立った後、期間を開けて戻ってくればいいか。

 最終目標であろう魔王の討伐も、できなかったで終わる話だし。我ながらナイスアイディアだ。


「ロニード、ソフィさんと一緒に寝るからといって、変なことはするなよ」

「ぶっ!? へ、変なことなんかしねーし! つか、なんで一緒に寝ることになってんだよ!?」


 赤面しながら思考が一気に消し飛ぶ。くそっ、普段は無口な父親のくせに、ここぞとばかりに喋りやがって……。

 そして俺の発した疑問には、母さんが答えた。


「ロニ、うちは貧乏だから客室なんてないのよ……」


 にこやかに答え、最後に「おやすみ」とだけ言い残して、強引に部屋から立ち去って行った。


 仕方がないので各装備について解説を願おうとしたら、ソフィはもうすでに布団(俺の)で眠っていた。

 ……俺は胃が痛くなるのを感じた。


===



「おはようございまーす!」


 俺の部屋から出てきたのは、言うまでもなくソフィだった。

 俺は適当に挨拶をかわす。ソフィは隣の椅子に着席した。


「あれ、ロニード君、ちょっと眠そう?」

「ああ、誰かが布団を独占したおかげで、一睡もできなかったせいかな」


 ソフィの言葉に皮肉を込めて返す。事実、俺は寝る場所がなくて昨日から寝ていない。


「あれ~、ロニード君の場所も空けておいたんだけどなぁ……」

「なっ!? あ、あんな狭い布団で一緒に寝られるか!」


 ソフィの発言のおかげで、一瞬で目が覚めた。まるで眠気覚ましだな。


 しかし、勇者か。お伽噺の世界か何かの存在かと思っていた。

 二カ月くらいで戻ってくる予定とはいえ、その間は勇者だ。

 だが田舎者の俺に務まるのだろうか?


(……ま、ここは逆に考えて、見聞を広めるためにもちょうどいいと思うしかないな)


 勇者の件も、一応前向きに検討することにした。



===



 俺の名前はロニード・ウォーブ。母親譲りの灰褐色の髪をしている。

 現在の装備は、革の胸当てとズボンだ。もちろん私服も着てるが、魔物と戦うには正直無いに等しい。

 結局装備は中装備にした。動きづらくなく、尚且つある程度は体を守れるからだ。すぐに戻ってくるとはいえど、その間に危機にさらされないというわけではないからな。

 因みに武器は共通でショートソードだったようだ。


「たまには帰ってくるのよ? あと、歯磨きは毎日するのよ」

「わかってるって……」


 見送りに来たのは家族だけだ。別に俺に友達がいないわけではないが、知られると恥ずかしいのであえて話さなかった。

 村自体小規模なものだから、友達は少ないが。


「帰ってきたら土産も持って来い、ロニード。土産話は土産に入らんからな?」

「おいおい、ちょっとリラックスしすぎじゃないか? 旅する子供の心配をせずに、土産の心配をするなんて。俺が一発ぶん殴り療法を試してやろうか?」


 父親に向かって、親に言うセリフとは思えない言葉を発する。

 ぶん殴り療法とは、そのまんまである。ぶん殴っておかしくなった頭を元に戻すという、俺の一族に伝わる療法だ。


 俺は何の躊躇いもなく、あるいは何の策もなしに父に突っ込むが……


「可愛い子には旅をさせよ、だな」

「いってぇ! 手加減くらいしてもいいじゃねーかよ!」


 俺の頬に右ストレートが炸裂する。

 何がすごいって、実の子供に手加減しないのと残像すら見えないのがすごい。

 すると隣で傍観していたソフィが、くすりと笑う。


「仲いいんだね」

「別にそういうのじゃねーよ……。さ、もう行こうぜ」


 ソフィの少し羨ましそうな表情を不思議に思いながらも、俺は生まれ育った村を旅立った。

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