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呪縛の勇者 ~装備からは逃げられない!~  作者: 角鹿リン
第一章 呪縛の勇者の誕生
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第二話「二人の魔族」

 村を出発して十分ほど。

 旅は順調で、俺を消そうとする魔王の手先、それとは関係ない魔物や野生動物も今のところは現れなかった。

 ところが……


「街道歩いてるだけじゃあ、単調だよな……ん、どうした、ソフィ?」


 周囲を森林に挟まれた街道を歩いていると、唐突にソフィが動かなくなる。

 何事かと思い周囲を見回すが、取り越し苦労である。というより、もっとソフィを注視していればよかった。


「じ、じゃあロニード君。私は別の用があるから……」

「――は?」


 ソフィがどういう意図で言っているのか解らなかったので、思わず間抜けな声を出してしまう。


「だいじょーぶ! 私がいなくても君は何とかなるって、私の直感が告げている! と、いうわけで……じゃあね!」


 ソフィは早口で言うなり、森の中へと姿をくらます。

 時間にしておよそ三秒。やっと頭が状況を理解し、脳が「あの女を失うのは、今後の勇者生活としてヤバい」と全神経に囁く。

 焦った俺は、冷静な判断もできずにいた。そして消え去ったソフィの後を追いかけ、森の中へと迷い込んでいった。



===



 勇者になってから二年が経過した。

 俺は十五歳になり、勇者になって二度目の後悔をしている。

 一度目の後悔は、俺を勇者にした女を追って森に入り、迷った挙句死にかけた時だ。

 そういえば、あの時も森の中だったな。今は森の中でも、追われているのだが。


「見つけました、勇者よ!」


 森に透き通った声がこだまする。

 颯爽と現れるは二人の魔族だった。


 一人はイケメンの吸血鬼。吸血鬼は牙が鋭いこと以外は何ら人と変わりない外見をしているが、日光が大の苦手らしい。

 このイケメンは日傘を差していた。森の中だからそんなに日光もないと思うのだが、今も畳んだ傘を差しなおしている。きっと几帳面な性格なのだろう。


 もう一人はデュラハンだった。デュラハンとは、首なし騎士のことである。

 騎士の名にふさわしい高貴な鎧を装備しており、左手にはなぜか兜を抱えるようにしていた。


 はっきり言おう。この戦闘、勝てる確率はほぼゼロである。

 それくらいに、実力差がある。相手が二人だからとかそういう問題じゃない。

 魔王の刺客はレベル一くらいの雑魚モンスターから始まり、徐々に両者のレベルが上がっていく。

 しかし、なぜか今回は違う。一カ月前に戦った刺客とは比べ物にならないほどの実力を持っている。それこそ、まだレベル十三の俺でもわかるような。

 それになぜか期間も短い。普通、魔王からの刺客は二、三カ月おきにやってくるようだ。四カ月待っても来なかった時もあったが。

 兎に角、ここは先手必勝だ。


「……冥途の土産に、少し話でも――」

「〝ボルテージ〟ッ!」


 会話を無視して、雷魔法〝ボルテージ〟を唱える。

 この魔法は殺傷力こそ低めなものの、当たった生物の体を麻痺させる効果がある。実に使い勝手がいい。


「……ふむ。やはり、勇者というのは本当のようですね」


 しかし俺の掌から発せられた電撃は、いとも容易く日傘にガードされる。あの日傘、盾にもなるのか。

 〝ボルテージ〟はレベル十三になり、新しく覚えた魔法。要するに、俺の最終兵器の一つである。

 マナもそれなりに込めた先ほどの一撃を防がれてしまっては、もはや逃げる以外の手段はない。


「勇者なら手加減は要りません。叩き潰してあげなさい、クロム!」

「……久しく剣を振るう時が来たようだな」


 吸血鬼が呼びかけ、それに応えるかのように相方のデュラハンは騎士兜を頭にのせる。

 デュラハンが剣を抜刀し、少しづつこちらに歩み寄ってくる。騎士兜の隙間から見える内部は暗く、空ろで、俺の恐怖心を掻き立てるには十分だった。


「――う、うわぁあああああ! く、来るなぁあああああ! テ、〝テレポート〟ッ!」


 視界と思考が真っ白になり、俺は文字通り瞬間移動(テレポート)した。



===



「くそっ、私達の相手がよりにもよって〝テレポート〟使いとは……」

「厄介極まりないな、スタンリー」


 スタンリーと呼ばれた吸血鬼が嘆き、デュラハンのクロムは会話しながらも木の枝の上からあたりを見渡す。


「クロム、どうです?」

「……少し遠くに行ったのだろう。見える範囲ではいないようだ」


 スタンリーの問いに、忠実に答えるクロム。

 それならば、とスタンリーは目を瞑り魔法を展開し始める。


「不可視の侵略、不可避の捜索。盲目の第三の目よ、今こそ開眼の時。〝魔術探知〟!」


 目を瞑るスタンリーの網膜には、誰にも見ることのできない第三の目により勇者の捜索が始められていた。

 時間にしてわずか一分。魔法を解いて目を開けたスタンリーは、勇者を見つけた旨をクロムに伝える。


「ダンジョンか……。そこに逃げられたら、探すのも一苦労だな」

「ええ。無駄口をたたいている暇はありませんよ」


 言うや否や、スタンリーは傘をたたんで走り始める。

 クロムも兜を片手に抱え、スタンリーの後を追い始めた。



===



 俺は今、最悪の二択を迫られていた。

 街を目指して逃げ続けるか、目の前にそびえたつダンジョンに逃げ込むかである。

 現在地は迷宮都市ルミアージュのはずれの森だろう。この都市近辺は草原や森に囲まれているが、そこに年何回かダンジョンが造られることがある。

 一説では魔王が人族の数を減らすために、トラップとして強力な魔物が徘徊するダンジョンを生み出しているのではないかとささやかれている。

 前は危険、後ろも危険。マナも少ないので〝テレポート〟を使うこともできない。


 ……これほどまでに人生の選択を後悔した日はあっただろうか。


「……腹括るしかねぇか」


 扉を開け、俺は塔型のダンジョンに入っていった。

 中に入ると暗かったが、直後に一斉に明かりがつき始める。壁に配置されていたキャンドルだ。

 内部は大理石のタイルで敷き詰められており、ここがダンジョンだという事前情報がなければ、豪華な屋敷の一室にも思えるだろう。


 とりあえず奥の扉まで歩き、扉を開ける。まだ魔物はいないようだった。

 ダンジョンの魔物は外に住む魔物とは違い、その身に魔石を宿している。倒せば魔石も入手可能だが、ダンジョンの魔物は外の魔物より強いらしい。

 それにトラップなんかもある。見た目に惑わされず、慎重に進むのが堅実な冒険者といえよう。俺は勇者だけど。


 と、ここで違和感を覚え、何かを思い出す。

 そう、違和感とは腰に装備している剣だ。

 俺の今の恰好は、初期装備とはだいぶ違う。そこそこに良い防具を装備しており、武器は安値だがいい素材の武器を――


「あ……武器と一緒に買った防具、バックパックにしまったままだったな……」


 たったの五○ルブで投げ売りされていた剣だが、今のところ何ら不備はない。

 バックパックにある防具も一緒に買ったものだが、こちらも強度や素材の割には安く、正直疑って武器しか装備していなかった。

 おそらく今の防具より、投げ売りされていた防具のほうが強力だろう。プレートメイルなので、今までとは少し勝手が違うだろうが。

 荷を下ろし、中を覗く。プレートメイルは分解されているが、すぐに組み立てれば問題ない。ついでに同じくして投げ売りされていた鉄の靴(アイロングリーブ)もある。


「……よし、ここは一か八か――!」


 そうと決めてしまえば、あとは早かった。

 胸を守る板金、それから肩当て、上腕甲、肘当て、小手の順に留め金で留め、装備する。最後にグリーブも装備すれば、今俺の持ち得る限りの最強戦力が完成する。


「よし、完成……。まあ、一番は戦わずに終わらせることだが……」

「戦わずに終わらせる? そんな道、私には不可能だと思いますがね」


 声に反応して振り返る。入口のある部屋の中央には、先ほどの二人組の魔族が立っていた。


「……なぜ、お前はできないと決めつける?」


 震える足を堪えて、前に進む。


「なぜって? あなたと私は敵対しているからでしょう。勇者と魔族、それだけのことです」

「……ッ! なんでそうなるんだよ、このわからずやめ!」


 ……まずい。非常にまずい。

 ついカッとなってしまった。ここは慎重に対話をするべきだったが、時すでに遅し。


「クロム、やってしまいなさい」

「……お前に恨みはないが、これも運命(さだめ)……」


 吸血鬼の合図で、兜をのせたデュラハンがこちらに走ってくる。反射的に俺は剣を抜く。

 剣戟。何とか受け流すことができたが、体勢を崩してしまう。


「なかなかのパワーだ。だが、これで――!」


 上段からの鋭い一撃。体勢を崩した俺には、もう回避不可能である。

 狙いは左腕だろうか。きっと鎧ごと腕が斬り飛ばされて――


 ギィン、という金属音。

 せめて痛くないように、と目を瞑っていた俺だったが、何かおかしいと思い目を開ける。

 すると、なんということだろうか。鎧のほうが剣を弾き返しているではないか。


 数秒の間、誰も動けずにいた。その凍結をいち早く破ったのは、俺だった。


「――ッ! 〝ボルテージ〟!」

「――! ぐっ、がぁ……」


 残っているありったけのマナをつぎ込み、〝ボルテージ〟をデュラハンに命中させる。

 〝ボルテージ〟がヒットしたデュラハンは、その場に崩れ落ちる。これでしばらくは無力化できるだろう。


「ぐっ……装備を変えた程度で……! 魔力弾!」


 今度は吸血鬼と戦う番だった。

 傘の先端から白い魔法の弾が発射される。

 この魔法の弾は、マナを持つ者なら誰でも作り出すことができる。ただし、威力は物理的攻撃の威力を決める筋力の魔法バージョン、すなわち魔力に比例する。

 相手の吸血鬼の魔力は、決して低いとは思えない。のだが……


 パァン! と音が響き、鎧と接触した魔力弾ははじけ飛んだ。


「なっ!? 私の魔力弾が通用しない、だと!?」


 ……この鎧、魔法にも耐性があるのか。なんかすごい買い物をしちゃったみたいだな。

 ともあれ、俺は吸血鬼に向かって歩き出す。今更恐怖にとらわれたのか、吸血鬼はしりもちをつく。


「た、頼む……殺さないで……」

「殺す? 何のことを言っているんだ?」


 吸血鬼の下までたどり着くと、俺は剣を突き出し――


「さぁ、“まいった”と言え!」

「……は?」


 俺の言葉を理解できないと言うように、二人の魔族は口を揃えてこぼした。

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