oudannhodou
ズベシャ。
「大丈夫!?」
「うん!大丈夫!ありがとう!」
必要以上に大きな声で、私の無事を横断歩道を渡りゆく人々にアピールする。
「なんか段差とかあった?」
「ワンチャンあったかも」
嘘である。人口500万人を超える規模の大都市の中心に可能性単位の段差などない。
「あ、信号変わりそう」
「あ、急ご!」
友人のあたたかな心配に感謝しながら、意識が自分から逸れたことにそっと息を吐く。
正直、めっっっっっっっっちゃ恥ずかしい。よかったあああ今日ファンデ厚塗りで!!!!薄づきだったら、発熱を疑われて帰宅を促されたであろうほどの赤みを頬に帯びている謎の自信がある。しかも今日はチークをほとんどしていない。よって漏れ出た赤みも人々の視覚情報にはチークとして処理されるだろう。
それに、私が著名人でなくてよかった。もし著名人なら一瞬でSNSに晒されるどころか、多くの人の記憶に横断歩道のど真ん中で倒れ込む大人の図が私で残ってしまうところだった。よかった、押しも押されぬ一般人で。そう、私は一般人である。ウォーリーよりも見つからないしコンビニよりもどこにでもいる存在である。宇宙人に一般人を差し出すように言われたら私を出せばいい。いつでも覚悟はできている。
ふぅ。
「落ち着いた?」
「え?」
「顔、百面相してたよ」
のぅぅぅぅぅぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!爆裂!爆散!四捨五入で切り捨てられたい!
涙目になりながら友人を見ると右目に慈愛、左目に軽蔑が浮かんでいる。
全く器用な友人である。そんなとこも好きだぜ、ビッグラヴ。
「あはは」
笑いってすごい。どんなに複雑な感情も閉じ込めて、風に乗せて停滞した空気を少しだけ動かすことができる。言い換えれば、キャッチボールの一環として投げられた球をさも当然かのように転がして返せる。これを『お茶を濁す』と表現する界隈があるらしい。今まで存在してなかった飲み物を急に登場させるなんて、全く風流なことで。
「やっぱり転んだ時頭打ったんじゃない?さっきからなんか変だよ。私の話、半分も聞いてないし、顔は茹蛸みたいに真っ赤だし、1人でうんうん唸ってるし。かと思えば急に覚悟決めた顔するし。」
だめだ全然だめだ。何もかも全て私のこうだったらいいなーっている希望的観測だった。顔の赤さも、希望と野望でいっぱいの自分の脳内に入り込みすぎてさっきから話半分にしか聞いていないことも、1人脳内会議で一般人代表に立候補したことも、全部バレてる。どうしよう、私は次にどんな言動を起こせばいい?
教えて、おじいさぁぁぁぁぁん。
もちろんおじいさんはこんな街中にはいないし、そもそもハイジの疑問にしか答えないのでこの呼びかけは全くもって無意味である。それに、さっきから友人の右目にあったはずの慈愛が抜け落ちて軽蔑に侵食され始めている。どうしよう!急いで何か言わないと。このままでは行動力のある友人が対私の悪の組織を作り始めてしまう。いや、私にとって悪なだけで、世界にとってはノーベル平和賞ものかもしれない。やばい泣きそう。
こうなったら仕方がない。
私も最終奥義を使わせていただこう。
フゥ。いざ尋常に、
茶を濁す。
「よくみてるね。私のことそんなに好きだっけ?」
「やかましいわ」
友人に乾杯☆




