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復讐の始まり

瞬き数度の後に天を仰ぎ見た。太陽が昇ってギラギラと輝いていた。あたりを見回すと、町中らしく人々が活気にあふれていた。屋台で野菜を売る商人と目が合う。きゅうりを見せられて首を振った。だんだんと記憶が鮮明になって来る。まず、戻ってきたのは強烈な復讐心だ。それから妻を亡くしたことを思い出した。そして、そんな妻を殺した者の名前と顔が鮮明に思い出される。

マルス・へールース

金髪金目に肌は白くいけ好かない顔をしている男。ちらりと人ごみからその男の顔が見えた気がして歩き始める。人ごみをかき分けると広場に男の顔があった。剣を携え、白いマントに貴族風の衣装の男は町人に囲まれ話し込んでいた。彼らの話に耳を傾ける暇もなく、懐にしまっていたナイフに手を伸ばす。強烈な嫌悪感と復讐心が、頭の中を支配していた。冷静な判断などなく男の前にズカズカと歩み出た。男と目が合った。むき出しのナイフを取り出すと周りから悲鳴が上がった。男は目を丸くしてこちらに手を伸ばした。それを躱して、男の懐に潜り込む。男ともみ合いになった。必死にナイフを男の心臓に突き立てようとするが、上手くいかず逆にナイフを取り上げられた。取り返そうともみくちゃになる。気づくとナイフはいつの間にやらか己の心臓に刺さっていた。後ずさる。男は驚いたような顔をしていた。目の前がかすむ。死ぬのかと思ったとき、青い蝶が目の前を通り過ぎ目の前に光が散った。意識が薄れていく中思い出す。妻が聖剣で突き殺されたことを。




光が落ち着いて来ると、意識がはっきりし目の前に少女がいるのがわかった。銀髪銀目透き通るような白い肌。白いローブを身にまとっていて、見惚れるほど美しかった。見つめていると少女の口が開く。声は、小鳥のさえずりのように可愛らしい。

「失敗してしまいましたね。いきなり切りかかっては警戒されてしまいます。相手は力も強いですし、あなたにとっては不利でしょう。人ごみというのも、移動範囲を狭めてしまいます。もっといい環境を探して、相手の隙を狙うことをお勧めします。」

キョトンとする。いきなりさっきの殺人未遂の感想を並べられるとは。

「あんたは誰だ?」

そう問うと少女はローブの裾をつかみお辞儀した。

「ルーナと申します。この世界の女神です。」

「はぁ?」

「あなたは、この世界のためにも復讐を成功させる必要があるのです。」

「どういうことだ?」

「成功することを祈っております。」

女神?がそういうと、青い蝶が飛び光が散った。瞬きしていると、さっきの町中におり、屋台の方を見ると野菜を売る商人と目が合った。きゅうりを見せられて反射的に首を振った。

(戻ってきたのか?まさか・・・。)

人ごみに紛れてマルスの顔が見えた。その顔を見るだけで憎悪を感じたが、とりあえず自分の状況を整理しようと思い、広場に行きベンチに座った。ひとまず思い出したことがある。

1,自分がソル・キルクスであること。

2,妻が聖剣によって突き刺されたこと。

3,マルスが英雄王と呼ばれる人であること。

それから、いくつかの魔法を思い出した。そこで思案する。マルスを殺すにはどうしたらいいか。さっきのような考え無しじゃだめだ。マルスは腕っぷしが強く、返り討ちに遭う。ではまず最初に何をすべきか。・・・行動パターンを見る事。生活のリズムを探る。そこで隙を見て奴を殺す。ひとまずの目標が決まった。であればと、呪文をいくつか唱えた。姿を隠す魔法と存在に気づかれにくくする魔法と、暴かれない魔法。その三つを自身にかけて、マルスの方に聞き耳を立てた。マルスは人ごみの中、人々に称えられていた。

「この間の化け物退治はお見事でした。まさか、町中にまで化け物が表れるとは。」

「化け物?ああ、あやつの事か。王として、英雄として当然の責務よ。」

「英雄王の力があれば、この国は安泰ですね!」

そんな雑談がしばらく繰り広げられた。ここは人目も多いし、何よりマルスに隙がない。一定の緊張の糸が張り巡らされている。さっきの行動がいかに愚かだったか思い知る。慎重になるべきだ。マルスが立ち上がり、遠くに見える王宮だろうか。そこに足を運びだす。その後ろをこっそりつける。


王宮。荘厳な空気漂うそこはマルスの居城であるらしく、中に入ると玉座に直行した。張り巡らされた警報魔法を避けながら、玉座の陰に隠れた。玉座から入口の扉までは距離がある。王のそばに近づく時点で騎士共に警戒されるだろう。気配を隠す系の魔法には制約がある。殺意を出さないことと、武器の類を持ち出さないこと。それによって、誰にも気づかれることのない魔法が完成する。王宮の中で襲うのは不可能に近いだろう。武器を出した時点で、この男の事だ。殺意に気づいて反撃されるのがオチだ。それなら、最初から自然に武器を抜ける環境で、相手が何かに気を取られている環境がいいだろう。王宮の中で英雄王は人々の相談ごとに乗っていた。人の出入りの激しさを見てもここでの殺しは厳しいだろう。殺せたとしても殺されてしまう。騎士もどんどん出入りするし、見張りもいる。しばらくすると、マルスが立ち上がり、従者に狩りに行く準備をさせた。狩りか。チャンスかもしれない。王宮の裏手の森まで移動し、マルスが弓を撫でた。鹿がピョンピョン飛んでいた。騎士などのお付の者も付けずに鹿にマルスが集中する。ビュンッと矢が飛んだ。鹿の首に見事に命中し、マルスが鹿を取りに行く。数秒の集中時間がある。意識が完全に鹿に行っている。阻害するものもなく、チャンスはここしかないだろう。数秒の隙が勝負。しばらく鹿狩りを楽しんだマルスが、王宮に戻る。政務をこなし、すっかり夜になった。夕食を摂っている。ここも隙かもしれない。作られた料理に毒見をしない。毒殺するなら食事時はチャンスだろう。しかし、出来れば自らの手で刺し殺してやりたい。しかし、なぜ毒見をしないのか?そこが引っ掛かった。その後は寝床に戻って就寝。眠りは最大の隙だが、今回に限ってはそうでも無い様だ。結界が張られている。強固なものだ。ベッド周りに近づくのも困難。その事実が分かった。隙は狩りの時か、食事時だ。一週間かけてマルスの生活を追ったが、概ね同じような生活を送っている。朝、食事を摂る。この際も毒見はない。言ってしまうと一週間一度も毒見はされていない。朝食が終わると、城下町に繰り出し町の様子を見て回る。この際、人々がぴったりついて回る。なんとなくマルスは緊張していて、案外隙が無い。それが終わると、王宮で相談窓口をする。その後に狩り。最大のチャンス。それが終わると王宮に箱詰め状態で政務を行う。お偉いさんやらが多くいて、騎士も一番多い時間帯。一番避けるべき時。その後再び食事からの就寝。これが一日のルーティン。変則はない。それがわかれば実行あるのみ。


王宮から、森の中に入る彼の後を追う。マルスは弓矢を構え、鹿狩りに夢中だ。魔法を解いて、ナイフを持ち、ゆっくりと背後に近づいた。意識が鹿に向いている。金色の目は揺れ動く鹿に合わせて、揺れていた。数秒。手早く首にナイフを突き刺す。一瞬。ナイフを薙ぎ払うようにして首が落ちた。胴体が少しの間をおいてどさりと崩れた。

やった。

喜びで、その後のことを考えもせずに首に近づくと、青い蝶が飛んだ。光がちらつく。記憶を思い出す。彼女がなかなか帰ってこなかったこと。


女神がこちらを見据える。

「殺しは上手くいったはずだ。」

出来るだけ冷静を務めていった。

「殺すことに成功するだけではだめで・・・。うにゅうにゅ。」

「どういう意味だ!」

強めに聞く。にらみを利かせながら。女神はあきらめたのかうにゅうにゅ言っていた口を開く。

「ループにはいくつか条件があるんです。」

「どんなだ?」

「まずソルが死なないこと。第二にソルにとっての大事な人が死なないこと。第三に殺しに成功しても、ソルがとある条件を踏まないこと。この三つが基本ルールです。それから、ループの発動時に記憶を取り戻します。自分の事、妻の事、それ以外の事。それが全てなくなったら、ループが出来なくなるという制約です。」

「なぜ最初に言わなかった。」

「干渉を最小限に抑えた方がいいかなーと思いまして。」

「関わった時点で、今更無意味だろう。」

気まずい沈黙。

「大事な人ってのは?」

「五人の妻です。」

「五人?この世界は一夫多妻制なのか?」

「そういうわけでもないですが。」

「妻以外を愛する気はないのだが。」

女神の表情は何とも言えない。

「とある条件とは?」

「言えません。言ったら大変なことになってしまう。制約に盛り込んでいますから。」

「記憶はあとどれくらいある?」

「ストックはまだまだありますから、しばらくは安心です。油断はできませんが。わたくしは世界をリセットしたくないのですよ。慈しみ作った世界です。どうか、復讐を成功させてください。」

女神が頭を深々と下げた。多少の困惑は感じながらもルールはわかった。

「俺の記憶を差し出すことで、ループが出来ているんだな。」

「はい。」

「それが戻るたび世界は危機に瀕していると。」

「はい。」

「なぜ、俺も大事な人も死んではいけないんだ?」

「それは・・・。うにゅうにゅ。」

「言えないのか?」

「いえ。こちらは大丈夫なはず。英雄の父と母だからです。」

「英雄?」

「はい。死んだら世界の滅びが近づきます。現状魔王優位な世界なので。」

「わかった。」

「よろしくお願いします。漂白された大地を一から作り上げるのはきついので。」

「俺としても、世界には滅んでほしくないところではある。」

記憶にはないが、妻との思い出が世界に刻み込まれていると思うと愛おしかった。


青い蝶が飛んで光が散った。瞬き数度。屋台で野菜を売る商人とは目を合わせず広場のベンチに向かった。記憶を整理する。

1,彼女がなかなか帰ってこなかったこと

2,ソルは孤児だったこと

それから、いくらかの世界知識。聖剣で突き殺される前だ。彼女はしばらく家を空けると言って帰ってこなかったときがあった。なぜかまでは思い出せない。ひとまず、どうやって殺すかを考えてみる。狩り中を普通に襲うのは、第三のルールに抵触しているのだろう。この、第三のルールがわからないっていうのが厄介極まりない。とりあえず、狩り中を襲うのは無しだ。では、次に取れる手段はやはり毒殺か。毒見がなかったことは気になるが現状取れる最善手。毒を探し、盛る手段を考える必要がある。毒と言えば、トリカブトか。早速思い出した世界知識をフルに稼働する。後は未熟な梅、スイセンの葉とかが手に入りやすいか?未熟な梅は入手が難しいか。とすると、スイセンかトリカブトあたりなら入手できるか?スイセンは日当たりのいい斜面か海岸沿いあたりか。トリカブトは湿り気のある山かね。酒場で専門家でも探すか。アドバイスが欲しい。できれば、食事に混ぜ込む方法も教えてほしい。城下町をさ迷い歩くと酒場を見つけた。ヤマモモ亭。中に入ると、色んな人種が酒を酌み交わしていた。適当な席に座り、ポケットを漁る。金をいくらかは持っていた。それを確認し終わると、マスターに

「盗賊は居るか?毒に詳しいやつでもいい。」

そう聞くと、一人の女性を指さした。いかにも盗賊な雰囲気。赤毛に茶目に白い肌は、タトゥーが入っている。バンダナを頭に付け、腰には複数種類のナイフ。目が合った。軽くお辞儀すると彼女ははにかんだ。近くの席まで来る。

「あたしと飲みたいのおにーさん?」

「毒が欲しいんだ。」

声を抑えながら言った。

「殺したいやつでも?」

「ああ。」

「おにーさん、あたしの好みだわ。遊んでくれるなら付き合ってあげてもいいよ。」

「本当に?」

「いい女に二言はないんだから。」

彼女のためと、店への礼に酒を二杯注文する。

「ソル・キルクス。あんたは?」

「ムリエル・クラルス。いい名前でしょ。」

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