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第九話 ネオイクリプス探索 レオンの影を追って

三週間にわたる探索は、ただ空白を積み重ねるだけだった。

廃区画を巡っても、戦っても、何ひとつ掴めない。

焦りだけが胸を締めつけ、時間だけが静かに削れていく。


それでもアルトは歩みを止めなかった。

折れる暇なんてない。

レオンを、仲間を、未来を取り戻すために。


そして——

絶望の探索線上で、ついに・・・

【 ヴァルカとアルトのネオイクリプス探索】

ネオイクリプスの本拠地を探すため、

アルトとヴァルカは毎日のように廃施設や地下区画を巡っていた。


探索一週目

スプロットの残党は相変わらず湧き続け、

どの施設も同じように黒い粘液と腐臭が漂うだけだった。


ヴァルカ「……ここもハズレだな。」


アルト「……っ……またかよ……」


アルトの声には、隠しきれない苛立ちが滲んでいた。


アルト「前方、五体……またかよ!」


ヴァルカ「密度が高い。突破するぞ」


スプロットの群れが、通路の奥から湧くように押し寄せてくる。

アルトは息を荒げながら斬り込み、ヴァルカは後方から正確に援護する。


アルト「くそっ、数が減らねぇ……!」


ヴァルカ「焦るな。動きは単純だ」


言葉とは裏腹に、アルトの腕は重くなっていた。

戦闘続きで、もう何体倒したか分からない。


しばらく進むと、またレーダーが反応する。


アルト「……嘘だろ。まだいるのかよ」


ヴァルカ「この区画は特に濃いな。巣が近いのかもしれん」


アルト「だったら何か痕跡があってもいいだろ……!」


アルトは苛立ちを隠せない。

戦っても戦っても、ただ数を減らすだけで何も得られない。


さらに奥へ進む。

しかし、状況は変わらない。


アルト「また空の部屋……。机も端末も、全部空っぽ」


ヴァルカ「撤収した後だな。生活感がない」


アルト「こんだけスプロットが残ってるのに、なんで情報だけ綺麗に消えてんだよ……」


ヴァルカは部屋を一周し、淡々と首を振る。


ヴァルカ「ここには何もない。次へ行くぞ」


通路に戻ると、またレーダーが反応する。


アルト「……もういい加減にしてくれよ……!」


ヴァルカ「アルト、呼吸が乱れている」


アルト「分かってる!」


アルトの声には、疲労と苛立ちが混じっていた。

セイレン化すらできない自分への焦りが、さらに心を重くする。


数時間後。

二人は本拠地の最奥に到達する。


アルト「……ここが司令区画か」


ヴァルカ「期待はするな。外と同じだ」


扉を開けると、そこにはやはり何もなかった。

机も、資料も、端末も、スプロットの痕跡すらない。


ただの空白。


アルト「……マジかよ。ここまで来て、何もなし……?」


ヴァルカ「初日はこんなものだ。敵の規模も、構造も、まだ掴めていない」


アルト「何か手掛かりはないのか……」


【アレサとイリス】

一方、アレサとイリスも同じだった。


スプロットの防衛線は終わらず、

イリスは矢を放つたびに焦りを募らせていた。


イリス「……僕だけ……何も掴めてない……」


アレサ「お前は伸びてる。焦るな。」


だがイリスの表情は晴れなかった。


【ルミナス区】

探索2週目

ルミナス区は、今日も眩しいほど明るかった。

噴水の水しぶきが光を反射し、観光客の笑い声が絶えない。

スプロットの影は薄く、レーダーも静かだ。


アルト「……平和すぎるな。ここだけ別世界みたいだ」


ヴァルカ「スプロットの密度は低い。戦闘は最小限で済む」


アルトは頷きながらも、どこか落ち着かない。

この明るさが、逆に胸をざわつかせる。


子どもたちが走り抜けていく。

手をつないで、噴水へ向かって駆けていく。


子ども「虹だ! 見て見て!」


別の子ども「早く早く!」


アルトは思わず足を止めた。


アルト「……レオンとイリスと来た時も、こんな感じだったな」


ヴァルカ「ああ。お前たち、三人で騒いでいた」


アルトは苦笑しながら、噴水の方を見る。


アルト「俺が一番はしゃいでたかもな。

     レオンが変なポーズして、イリスが呆れて……」


思い出すほどに、胸の奥がじんわり熱くなる。

あの頃は、未来なんて無限にあると思っていた。


屋台の匂い。

観光案内所の明るい声。

古い倉庫の静けさ。


二人は片っ端から調べた。


アルト「……ここも空っぽか」


ヴァルカ「この区画は元々、軍事的価値が低い。痕跡が残る可能性は低い」


アルト「分かってるよ。でも……何か一つくらい、あってもいいだろ」


アルトの声は、観光地の喧騒にかき消されるように小さかった。


夕暮れ。

ルミナス区の光がオレンジに染まり、街がゆっくりと夜に変わっていく。


二人は噴水の前で足を止めた。


アルト「……今日も手掛かりゼロか」


ヴァルカ「無駄ではない。範囲を潰せた」


アルト「そう言われても……焦るんだよ。

     ジコーズ復活まで、もう時間がねぇ」


ヴァルカはアルトの横顔を見つめる。

その目には、責める色はない。

ただ、静かに寄り添うような温度だけがある。


ヴァルカ「アルト。お前はまだ折れていない。それで十分だ」


アルト「……折れてる暇なんてねぇよ」


ヴァルカ「なら、進むだけだ」


アルトは噴水の水面に映る自分を見つめる。

昔の自分と、今の自分。

レオンとイリスと笑っていた日々。

そして、今は――探すしかない。


ゆっくりと拳を握りしめる。


アルト「……見つける。絶対に。

     どれだけ空振りでも、何度でも探す」


ヴァルカ「ああ。共に行こう」


噴水の光が揺れ、二人の影が長く伸びる。

その日も手掛かりはひとつもなかった。

だが、アルトの胸には、静かに燃える決意が残った。


【グレアライン区】


探索3週目

潮風が錆の匂いを運んでくる。

グレアライン区は、倉庫とコンテナが迷路のように並ぶ港町。

昼でも薄暗く、スプロットの影がそこかしこに潜んでいた。


アルト「……また反応。三体、倉庫の裏だ」


ヴァルカ「行くぞ。ここは巣が多い」


スプロットが影から飛び出す。

アルトは斬り込み、ヴァルカが正確に援護する。

倒しても倒しても、次の倉庫からまた湧いてくる。


戦闘の合間、二人は怪しい組織を片っ端から訪ねていく。


アルト「ネオイクリプスについて聞きたい。何か知ってるだろ」


組織の男「知らねぇよ。関係ねぇって言ってんだろ」


アルト「お前らの倉庫、妙に厳重だよな。何隠してる」


別の男「スプロット対策だよ! こっちは被害者だ!」


どいつもこいつも無関係。

アルトの苛立ちは、潮風よりも重く胸にまとわりつく。


そんな中、ひとつの組織の反応が違った。


倉庫に入った瞬間、空気が張り詰める。


アルト「……ここ、妙に静かだな」


ヴァルカ「警戒しろ。気配が多い」


次の瞬間、四方から武装した男たちが飛び出した。


男たち「侵入者だ! やれッ!」


アルト「はぁ!? なんでいきなり……!」


ヴァルカ「応戦する!」


倉庫の中で激しい交戦が始まる。

アルトは近距離で斬り込み、ヴァルカは背後を守るように援護射撃。

男たちは数で押し切ろうとするが、二人の連携は崩れない。


数分後、床には倒れた男たちが転がっていた。


アルト「……で、なんで質問しただけで襲ってくるんだよ」


リーダー格の男が、肩で息をしながら吐き捨てる。


リーダー「お、俺たちは……ネオイクリプスの奴らかと思ったんだよ……!」


アルト「は?」


リーダー「断ったんだよ……勧誘を。そしたら報復で……この倉庫、半壊させられた……!」


アルトは目を細める。


アルト「……だから、俺たちを見てビビって襲ってきたってわけか」


リーダー「ああ……あいつらのやり口は異常だ。

      断ったら最後、徹底的に潰しに来る……」


ヴァルカが一歩前に出る。


ヴァルカ「勧誘に来たのはどんな連中だ。顔は見たか」


リーダー「フードで隠してた。顔は分からねぇ。

      でも……来た方向は覚えてる」


アルトが息を呑む。


アルト「どこだ」


リーダー「レイフォール区の方角だ。

      あいつら、あっちから来て……あっちに戻っていった」


ヴァルカが静かに頷く。


ヴァルカ「価値のある証言だ。方向性が見えた」


倉庫を出ると、潮風が二人の汗を冷やす。


アルト「……やっと、繋がった気がする」


ヴァルカ「焦りは捨てろ。だが、進むべき道は確かに見えた」


アルトは拳を握りしめ、港の向こうを見据える。


アルト「レイフォール区……次はそこだ。

     絶対に見つける。逃がさない」


潮風が強く吹き、二人の影が長く伸びた。

ようやく“敵の匂い”が掴めた。


【レイフォール区レオンの痕跡】

半月後探索の日々


スプロットの残党は相変わらず湧き続け、

施設を襲撃するたびに、

黒い粘液と腐臭が漂う戦場が広がっていた。


ヴァルカ「……ここもハズレか。」


アルト「手掛かり、全然ないな……」


半月以上、成果はゼロ。

焦りはあったが、諦める気はなかった。


【ある廃研究施設にて】

その日も、二人はスプロットの巣を一掃していた。


黒い残骸が床に散らばり、

ヴァルカが斧を肩に担ぎながら周囲を見渡す。


ヴァルカ「よし、片付いたな。次の区画を——」


その時だった。


消滅したスプロットから何かが落ちた


アルト「……ん?」


瓦礫の隙間に、

見覚えのある青いストラップが覗いていた。


アルトは息を呑み、

思わず駆け寄って手を伸ばす。


アルト「これ……!」


拾い上げた瞬間、

胸が締め付けられるような感覚が走った。


それは——

レオンがいつも腰に下げていたキーホルダー。


幼い頃、三人で遊んだ時に買った、

あの古びたメタルチャームだった。


アルト「……レオンの……!」


ヴァルカが驚いて振り返る。


ヴァルカ「おい、どうしたアルト!?」


アルトは震える手でキーホルダーを見せた。


アルト「これ……レオンのだ。

ずっと持ってたやつ……間違いない。」


古びた金属の感触が、

遠い記憶と今の現実を強く結びつける。


アルトはゆっくりと息を吸い込む。


アルト「レオン……待ってろ。絶対に、絶対に見つけ出す。」

決意を新たにするアルト


風が吹き抜け、

アルトの手の中でキーホルダーが小さく揺れた。


長い探索の果てに見つかったのは、

大きな証拠でも、劇的な発見でもなく、

ただの古びたキーホルダーだった。


けれど、アルトにとってはそれで十分だった。

それは“レオンが確かにここを通った”という、

何よりも強い証だったからだ。


物語はまだ続く。

だが、今日の一歩は確かに前へ進んだ一歩だった。

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