表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

010_新しい小石

私は古書店に戻った。


いつもの場所、いつもの仕事。しかし、何かが決定的に変わっていた。


雲の階段で見た無数の可能性。作家として生きる私、冒険家として生きる私、教師として生きる私。どれも魅力的だった。しかし、最終的に私は「今の私」を選んだ。


この小さな店で、本と人を繋ぐ仕事。埃っぽい古書の間で、時折舞い込む不思議な謎を解く日々。それが、今の私には一番輝いて見えた。

店の入り口の棚の上に、小さな石を置いた。

雲の階段から持ち帰った、二十一段目の石。まだ誰も置いたことのない、新しい可能性の石だ。時々、客がそれを手に取り、不思議そうに眺める。何人かは、妙に懐かしそうな顔をした。


ある雨の日、一人の少年が店に入ってきた。

高校の制服を着て、肩には画材の入った鞄を下げている。

「あの……ここで、古い絵を買い取ってもらえますか」


少年が見せたのは、自分で描いた油絵だった。雲と階段を描いた、不思議な構図の作品。

「これは……」

「変な絵ですよね。でも、どうしても描きたくて」

私は入り口の石を見た。かすかに、光っているような気がした。


「素晴らしい絵です」私は言った。

「でも、売らない方がいい。これは、あなたの可能性の一つですから」


少年は驚いた顔をしたが、やがて納得したように頷いた。

「そうですね。もう少し、大切にしてみます」


少年が店を出て行った後、私は窓の外を見た。

山の向こうに、階段のような雲が浮かんでいた。夕陽に照らされて、それは黄金色に輝いている。

誰もが無限の可能性を持っている。ただ、それに気づくきっかけが必要なだけだ。私の店が、そんなきっかけの一つになれればいい。


棚の上の小石が、また少し温かくなったような気がした。

雨はいつの間にか止んでいた。雲の切れ間から差し込む光が、店内の本の背表紙を、虹色に染めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ