魔界より
「おお、ジューク、久しぶりだな。最近見なかったが、何をしていたんだ」
そこは魔界の最深部。
現在における魔界のトップであるアスタロトが座る玉座の目の前で、私——ジュークは跪いていた。
「すみません。人間界の方に野暮用がありまして」
「人間界? まさか、ジューク、お前は人間界で暮らしてたのか?」
「ええ」
「無事だったか?」
アスタロトが心配するのはよく分かる。大魔王ルシファーが封印されて以降、人間界は、悪魔にとっては大変危険な場所となってしまっていたのである。
「なんとか」
「……たしかにお前は人間に取り込むのが上手そうだもんな」
「お褒めいただきありがとうございます」
ジュークは跪いたまま、深々とアスタロトにお辞儀をした。
「アスタロト様、今日、私は朗報を持ってきました」
「朗報? なんだ?」
「人間界でアルマスのパーティーが壊滅したのです」
「本当か!?」
「本当です」
アルマスが率いる勇者パーティーは、人間界で最強であり、悪魔にとっては恐るべき存在であった。
そして何より、6年前に大魔王ルシファーを倒し、封印してしまった者がアルマスなのである。
ゆえに、アルマスのパーティーが壊滅したというのは、魔界全体が待ちに待ったニュースなのである。
「誰だ!? 一体誰がアルマスたちを殺したんだ!!??」
「それは分かりません」
私が同席した取り調べでは、犯人の最有力候補であるセノンが事情聴取を受けていたが、セノンは犯人ではなかった。
真犯人が誰であるのかは、おそらく現在もなお警察が捜査中なのだと思う。
——もっとも、アルマスたちを殺したのが誰かということは、魔物にとってはどうでも良いことである。
肝心なのは——
「アスタロト様、私は、人間からとても重要な話を聞いてしまったのです」
「なんだ?」
「ルシファー様の封印先です」
「本当か!!??」
大魔王ルシファーは、6年前にアルマスたちによって封印されてしまった。それにより、魔界と人間界の力関係は逆転し、魔界が人間界に影響力を及ぼすことはほぼできなくなった。魔界には冬の時代が訪れ、ルシファーの跡を継いだアスタロトも、いわば魔界に引き篭もるだけの状態となっていた。
魔界が待ち望んでいたのは、ルシファーの復活だった。
そのためにルシファーが一体どこに封印されているのかを明らかにすることこそ、魔界の至上命題だったのである。
「ルシファーはどこに封印されているんだ!? 一体どこに!?」
「アルマスたちが住んでいた家にある『勇者の紋章』の中に封印されています」
私が取り調べに同席したとき、セノンは「勇者の紋章」について色々と話していた。
セノン曰く、勇者の紋章はガラクタにしか見えなかったものの、アルマスはそれをとても大事にしていたのだと言う。
人間界において、ルシファーが実は生きていて、単に封印されているだけだと知っている人間はほとんどいない。なぜなら、ルシファーを封印した張本人であるアルマスが、世間に対して、「ルシファーは殺した」と説明していたからである。
その理由は私にはよく分からないが、善意に解釈すれば、世間を不安にさせないためであり、悪意に解釈すれば、単にカッコつけるためなのだろう。
普通、同じパーティーのメンバーにくらいであれば真実を共有すべき気もするが、セノンのパーティー内の地位を考えれば共有されていない可能性が高い。
私は、取調室で「勇者の紋章」についての話を聞き、それがルシファーの封印先であることをすぐに察した。そうでなければ、アルマスが「がらくた」をそこまで大事にし、それを盗んだことを理由にして「有能な雑用」を解雇する必要はないからである。
「勇者の紋章」の中には間違いなくルシファーが封印されている。
私が何より知りたかったのは、「勇者の紋章」がどこにあるか、である。
ただ、同時に、先に警察に場所を知られるわけにはいかなかった。
警察によって「勇者の紋章」が押収されてしまった場合、今の人間界と魔界の力関係を考えれば、魔物がそれを取り返すことはできないだろう。
ゆえに、私は、セノンが「勇者の紋章」の所在を知らない、と答えたことは嘘だと見抜いたとき、笑うのを我慢した。
ここで笑ってしまえば、グラナムはセノンが「勇者の紋章」の在り処を知っているものとして厳しく取り調べ、警察が魔物よりも「勇者の紋章」を発見してしまうに違いなかったからである。
私が笑わなかったため、グラナムはそれ以上セノンに対して追及をしなかった。
そして、これは魔物にとっては何よりの幸運だったのだが、セノンは、取り調べの席で、私に対して貴重な情報を流してくれた。
セノンは「勇者の紋章」の在り処について、こう話したのである。
「多分、家の中にあるとは思います」
と。
これはグラナムからすれば、セノンが単なる推測を述べたものにしか聞こえなかったはずだが、私には違う聞こえ方をしていた。
なぜなら、私は、セノンが「勇者の紋章」の在り処を知らないと答えたことが嘘であり、セノンが本当は「勇者の紋章」の在り処を認識していることを知っていたからである。
「多分、家の中にあるとは思います」というセノンの言葉には嘘の香りは一切しなかった。
ということは、つまり、「勇者の紋章」は家の中にあるということだ。
魔界に報告すべき情報としてはこれで十分だった。取り調べが終わるやいなや、私は魔界に帰り、今こうしてアスタロトと謁見しているのである。
「ジューク、でかしたぞ。大手柄だ。これから魔界の勢力を総動員し、人間界のアルマスの家へと乗り込む。すでにアルマスのパーティーは亡きものとなっているから、攻略は容易だろう。魔物を邪魔するものは、もういない」
「楽勝ですね。私も協力します」
「そして、封印が解かれ、大魔王ルシファーが復活すれば、こっちのものだ。ついに魔物が人間に対して、仕返しをするときが来たのだ。人間界は再び闇に包まれ、魔物にひれ伏すことになる。」
「楽しみです」
「感謝しなきゃな」
「誰にですか?」
「もちろん、アルマスたちを殺してくれた誰かにだよ。そいつにどんな目的があったかは知らないが、そいつは、人間界からすれば、もっとも殺してはいけない大事な人を殺してしまったんだ」
(了)
本作「雑用ばかりさせられていた魔剣士,パーティーから追放され」……えーっとなんでしたっけ(苦笑)
長いタイトルに慣れてないので忘れてしまいましたが,とにかく本作を最後までお読みいただきありがとうございました。
冒頭にも書きましたが,菱川は,なろうのマイナージャンルであるミステリージャンルの住人です。本作も,なろう主流のテンプレを用いりながらも,ミステリーテイストがかなり強かったのではないかと思います。
なろうに5年近く居座っているにもかかわらず,恥ずかしながら,菱川はライトノベルを読んだこともないですし,アニメ漫画も全然見ません。
推理小説しか勝たん!!という感じです。あと地下アイドルと競馬が好きです(小声)。
そんな菱川ですので,ハイファンタジーはとても縁遠いものでした。
ハイファンタジーの地には足を踏み入れられないな,とずっと思っていました。
いや,実を言うと,ずっと足を踏み入れようとはしていたのですが,異世界転生とミステリーってめちゃくちゃ相性悪いんですよね。ミステリーは因縁を扱うので,転生して一から始められるはちょっと……。死んでも生き返られるのはさらにちょっと……。
ところが,最近,異世界転生から追放ざまぁに移ろっていると知り,追放ざまぁならばミステリーアレンジができるのではないか,と思いました。
そうして考えついたのが本作ということになります。
ジャンルはハイファンタジーにするか推理にするか悩みましたが,どちらに投稿しても刺されそうだったので,刺されても被害が少なくて済むという観点から,知り合いの少ないハイファンタジーにしました。この作品を読まれて「ジャンル違い」と感じた方もいるかもしれませんが,どちらに投稿しても「ジャンル違い」なので多めに見ていただけるとありがたいです。
今回は,ハイファンとしては超テンプレです。これはかなり意識しました。
たとえば,1話目は,追放のシーンから始まりますが,このシーンはミステリー的には不要です。なので,本来の菱川ならば入れないシーンなのですが,テンプレっぽくしたくてあえて入れました。
そして,本作は一人称を用いてますが,これもミステリー的には三人称が正解です。視点がくるくる入れ替わるので。ただ,テンプレ=一人称というイメージがあったので,普段ほぼ使わない一人称を使いました(さっきから自分のことを「菱川」と書いてますが,それが普段の菱川です)。
そして,ミステリー的には,本作は,いわゆる三重底です。
食中毒死(一つ目の底)
「計画殺人」(二つ目の底)
魔界の逆襲(三つ目の底)
となっています。自分で言うのも難ですが,菱川的には王道展開の一つです。こうやってくるくるとストーリーをひっくり返すのが好きです。どんでん返しの偏執狂です。どなたかに刺さっていただけると嬉しいです。
さて,本作は,普段と違うジャンルに投稿しているということもあり,普段ミステリーを読まない人にも届いているものと思います。過去作の宣伝をさせてください。本作が微妙と思った方も、菱川を見限らず、菱川の「得意分野」の作品を読んで欲しいです。
まず,ステキブンゲイさんの方で,電子書籍化させていただいた作品があります。
「ANME〜スマホの中の失踪少女〜」という作品です。
こちらは昨月発売し,「すごい面白かった」「映像化してほしい」と実の妹から好評をいただいております(おい)
この作品は元々はなろうにアップしていたものの,なろうでバズるはずはなく,ステキブンゲイさんの方に避難したところ,すぐに見つけてもらい電子書籍化となりました。
現在はなろうでは削除済みですし,ステキブンゲイでも最初の数話しか読めないので,ぜひお買い求めいただき,菱川に印税をください。
なろうで読める作品でいうと,菱川の代表作として,「殺人遺伝子」というSF恋愛ミステリーがあります。
こちらはもう4年くらい前の作品になりますが,未だに多くの方に読んでいただいている作品です。
当時はあの「薬屋のひとりごと」を破り,ジャンル別月間1位もいただいたことのある作品です(今は「薬屋のひとりごと」がレベチなので絶対に勝てません)。
それから,今年アップした「殺意の論理パズル」という連作短編も比較的ご好評をいただいている自信作です。こちらはジャンル別月間3位をいただき,SNS上の反響も多かった気がします。1話完結なので,読みやすいと思いますので,ぜひ。
後書きが長くなりすみません。
ただのなろうの老害ではありますが,菱川には,なろうの推理ジャンルを活性化させたいという長年の夢があります。
本作を書いた動機も,普段ハイファンしか読まない方にも推理ジャンルに関心を持って欲しい,ということが大きいです。
もし本作を気に下さった方がいましたら,本作に評価やブックマークをいただけると大変ありがたいと同時に,ハイファンだけがなろうではないんだ,ということを心の隅においていただければと思います。
今後とも菱川を,そしてなろうのミステリーをどうかよろしくお願いいたします!




