生きるべきか、死ぬべきか
純歴1840年 ベステル合衆国が禁酒法を制定。
犯罪撲滅、治安維持を名目に、アルコールの製造、販売、輸送を全面的に禁止した。
そこに商機を見出したマフィア組織 The Irish(ジ•アイリッシュ)
彼らは隣国に酒の密輸ルートを作り上げ、多大な利益を上げた。
そして多額の資金源を得た彼らは、遂に自分たち独自の醸造プラントを作る計画を立てる。
その立地先として目をつけたのがエンゲル島。
和西戦争での混乱に乗じて進行を開始。
原住民の土地を侵略し、計6ヶ所の醸造プラントを作りあげる。
そのうちの一つが、エンゲル島北西部デパルマ地方。竜尾たちが上陸した土地。
エンゲル島の開拓及び紛争平定部隊のリーダーとして、竜尾が700人の部下を連れて上陸した初日。
その日の内から、全員がこの島の洗礼を受けた。
この街では、マフィアが絶対的な権力を握っている。
原住民たちに与えられた選択肢は3つ。プラントで奴隷のように働くか、慰み者になるか、逆らって死ぬか。
エンゲル島平定のための最初の任務 デパルマ地方の平定。
島について3ヶ月が経つが、未だに全面抗争にまでは及んでいない。
数名が犠牲となる小競り合いは何度かあったが、互いに抗争は避ける形での「手打ち」を続けていた。
「竜尾様。また死体が発見されました。」
部下の一人が酒場の裏で死体となって見つかった。
死因は窒息死。
睾丸を切られ、口に含まされての窒息。
奴らマフィアの常套手段。
またあの場所に行かなければいけないのか。また奴らと会わなければいけないのか。
また激情を抑えなければいけないのか。
憂鬱な気分と殺意を抑えて、今日も彼らのボスに会いに行く。
デパルマ街大聖堂ゲストハウス
「すみませんね。内の若い衆が。」
男の名はゲイル•ベル•ベック。このプラントにおける最高幹部。
高い身長と金色の髪。まさに象徴的、アイコニックな白人男性と言わざるを得ない。
今月に入ってから3度目の講和会議
互いの部下が問題を起こした時に、「手打ち」を決めるための顔合わせ。
互いのリーダーと部下数名が出席する重要な会議。しかし、その議場には緊張感が微塵もなかった。
「若い衆の報告書曰くですねえ。酒を飲んでたら
そしたら向こうが殴ってきた。警告しても暴行を止めようとしない。そのため、命の危険を感じてやむを得ず拘束。その後も暴れたために気が動転し、誤って金玉を切り…wいやっ、すいません。えー。誤って睾丸を切り落としてしまい、その後、石で転んだ弾みに偶然たまたま睾丸が口の中に入ってしまい窒息死してしまった。というわけです。」
「まあ不運な事故というやつですね。元はと言えばそちらが先に手を出したみたいですし、手打ちはこの前と同じでいいですかね?」
完全に舐められている。
上陸以来、5度目となる不運な事故。
本来ならばこの場でぶった斬りたいところ。
しかし、その感情を押し殺して言う。
「ああ。問題ない」
部下一人につき200mlの酒と少しの食料。
それが毎回の手打ちの条件。
「では、私はこれで失礼します。」
彼らが椅子を立ち、外へ出ようとしたその時。
「納得出来ません!」
竜尾の部下の一人が声をあげる。
「仲間を殺しておいてこの程度で手打ちなど!実行犯の処刑。これが最低限の手打ちの条件!」
ゲイルは頭を掻きながら、気だるそうに答える
「不幸な事故だとさっき確認したはずなんだがなあ...未開の地の猿どもはこれだから」
「貴様ッ」
「やめろ」
激情のままに斬りかかろうとする部下を、竜尾が抑える。
「ですが!」
「やめろ」
男は目を細め、上官に向かい不満を隠そうともしないまま、渋々刀を納める。
「お話の分かるかたが頭領で我々も助かります。では私たちはこれで。また近いうちに会うかもしれませんがね」
マフィアたちは笑いながら、足早にその場を去った
街から少し離れた場所にある野営地。
そのテントの中で、竜尾は毎晩のように苦悩する。
奴等の一挙手一投足全てに苛立つ。
奴らを斬りたい。斬首したい。
だが行動には移せない。
理由は単純。
今全面抗争を起こせば、この町にいる全員が死ぬ。
このプラントを管轄するIrishの構成員は500名程度。銃器を持っているのは50名程度で、残りの武器はメリケンサックか警棒。しかもそのほとんどが戦闘経験のないチンピラ。毎晩のように酒を飲み、女を抱き、気も緩み切っている。
一方竜尾の部下たち700名。その全員が頑強な肉体と相当な剣の腕を有しており、殺る気も十分。
夜中に奇襲をかければ、奴らを殺すことは容易い。
だが、問題はその後。
この街は、6つあるプラントの内の一つ。
彼らに異変が起きれば、他のプラント、引いては本国から増援が来る。そうなれば自分たちははどうなるか。殺されるならマシな方。
マフィアの報復、拷問は常軌を逸している。
我々から攻めることは出来ない。
それを奴らも理解している。
だから余裕の態度を取っていられる。
悪夢だ。
打開する手段思いつかないが、自分が死ぬ選択肢は無数に思いつく。
一つ目は援軍。
もし奴が援軍要請を出していた場合。どのプラントに要請するかにもよるが、遅くとも3~4ヶ月で援軍が到着する。そうなれば、数の暴力によってすり潰される。
二つ目は謀反。
仲間が殺される事件が、この島に来てから16件起こっており、「奴らを殺すしかない」という空気が充満している。部下たちもバカじゃない。奴らを倒しても本隊が別にいることも。報復を受けることも分かっている。
しかし、多くの部下はそれでいいと思っている。
仲間たちの恨みを晴らし、後はみんな仲良く腹を切る。そんな考え方が広まりつつある。
仲間が殺されても弱腰の上官など邪魔なだけ。
いつ謀反が起こり自分が殺されてもおかしくない状況。
部下たちの気持ちは理解できる。
3ヶ月前の自分なら、間違いなく彼らと同じ考えをしていた。
しかし、自分はまだ死ねない。
自分にはまだするべきことが残っている。
あの女の言う「結果」が何を指しているのか。又、「結果」を出したとして、本当に遺体を丁重に葬るのか。
もう考えるのが面倒くさい。
今すぐに奴らの首と胴を両断してやりたい。
命を投げ出せないことが、これ程までに辛いことだとは思わなかった。
自分が生きているのは偶然としか言いようがない。自分たちだけではどうしようもない。
来るかも分からない転機を、ひたすら待ち続けるしかないのだろうか。
酒に浸りながら、そんなことを思っていると
「助けてあげよっか?」
それは突然やってきた
ガチャ
竜尾が刀を抜いたのも無理はない。
その女はあまりに怪しく異質だった。
女は子供の姿。
だが、節々の所作からは、大人のような妖艶さが感じられる。
香水の匂いと落ち着いた声質、幼女のような外見。
肌の色から見ても、原住民ではない。
何よりその立ち振る舞いは、弟たちを殺した「あの女」を彷彿とさせるものがある。
体の節々から感じる悪寒を抑えながら問う。
「お前は何者だ」
女は薄ら笑いをしたまま口を開ける。
「私はベル。ヴィヴィエル・ベル•キュート。お兄さんをプロデュースしてあげる」




