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「おお! 君がイブキか!」
一軒家を出てすぐ、なぜかザシェーバが待ち構えていた。イブキのツノをちらり見て、でも何も言わない。
にこりと笑った。
「先程、挨拶をしたが、俺はザシェーバだ。よろしく頼む」
「あ、ああ」
妙に親しくされたからか、イブキは気圧され気味だ。
でも、イブキは遠慮がちだから……ザシェーバみたいに強引に踏み込んでくる人の方が付き合いやすそうに感じる。実際、リスガやダデラと仲がいいし。
俺ももっと踏み込んでいこうかな?
「そちらのツノ」
「! ……なんだ」
ザシェーバがようやくイブキの頭部のツノについて触れる。イブキは身構えるように距離を取ったけど、すぐにザシェーバは豪気に笑った。
「なかなかカッコイイな! 強そうだ」
イブキは拍子抜けしていた。「……ありがとう」とぼそぼそとお礼を言うイブキの背中を、ザシェーバはバシッ! と力強く叩く。
「改めてよろしく! いやぁ、陛下から相当に強いと聞いている。いずれ、お手合わせを願いたい」
「俺でよければ。構わない」
「楽しみにしてる」
じゃあ、とザシェーバは颯爽と立ち去っていった。さほど会話をしたわけじゃないけど、でも。
--ありがとう、ザシェーバ。
俺はザシェーバの幅広くがっちりとした背中に、心の中でお礼を伝える。やっぱり、ザシェーバほど博愛という言葉が似合う者を俺は知らない。
俺ももっと……あんな風に誰にでも優しく笑いかけられるコミュ力が欲しいな。
ふいとイブキのことを見やる。イブキもまた、頬を緩ませていた。嬉しかったんだろう、
やっぱり。
ほら、イブキ。お前は絶対に一人じゃないんだから。
「イブキ」
俺はイブキの右手をそっと握り掴んだ。
「な、なんだ? ラーシヴァルト」
「リスガたちのところに行こう」
驚きに目を見張るイブキを引っ張っていく。オルドゴたちが雑談している輪の中に向かって。
***
「彼らを行かせてもよかったのですか。ウーシュ兄上」
一方、その頃。
アルヴェルス王国、王城内。
国王室で政務中の兄王ウシュベルーナの下へ、エリューハニスはつい顔を出していた。
アルヴェルス王国王立騎士団第五師団の副団長を筆頭に、十人が兄ラーシヴァルトがいるライリーレ王国に移動するとたまたま聞いたからだ。
ウシュベルーナも言わんとする話を察したらしく、確認をしてくる。
「ザシェーバたちの件か?」
「はい。彼らに王立騎士団を抜けられては困るのでは……」
「十数名だ。問題ない」
書類から顔を上げもしないまま、ウシュベルーナは素っ気なく答える。
エリューハニスはむっとした。相変わらず、この陰キャ王は人と目を合わせるということを知らない。
「ウーシュ兄上。僕の顔をちゃんと見て下さいよ」
「……」
「聞いているんですか」
「……やめてくれ。苦手なんだ。人と目を合わせて話すのが」
正直に本音を吐露したウシュベルーナの主張に、エリューハニスは虚を突かれた。
「え? 僕のことがお嫌いだからじゃないんですか?」
「そんなわけない」
ようやくウシュベルーナは顔を上げた。ぎこちなく目線を合わせ、続ける。
「お前は俺の可愛い弟だ。生まれた時から今の今まで嫌いだと思ったことは一度もない」
腹立たしく思うことなら何度もあるがな、とウシュベルーナはあくまで真顔で最後に付け加える。
不意を突かれたエリューハニスは、呆気に取られてしまった。
(嘘だろ? ウーシュ兄上が僕のことを……)
今の今まで厳しいばかりで冷たかった兄が、まさか自分を可愛がってくれていたなんて。にわかには信じられなかった。
だが、こんなことを口下手なウシュベルーナが世辞でさえ言えるわけがない。ということは正真正銘の本心なのだ。
「すまない。以後、気を付ける」
「あっ、うっ……い、いいですよ。苦手なら無理をしなくても」
エリューハニスは慌てて返し、笑顔を返した。ちょっと照れ臭いけど、満面の笑みを。
「僕になら構いません。僕はウーシュ兄上の可愛い弟ですからね!」
「!」
ウシュベルーナは驚いて目を見開く。が、すぐに笑みをこぼした。
「ありがとう。エリュー」
「--失礼いたします。お話し中のところ、大変申し訳ございません」
そこへ、宰相になりたての壮年男性が部屋に入ってきた。
少し慌てている様子だ。ウシュベルーナはすぐに表情を引き締め、顔を向けた。それが頑張って目を合わせているのだと知る者は……ここではエリューハニスだけ。
「どうした。ハバゼ宰相」
「それが……例の貴族の件ですが。どうやら、彼ら一家は--」
続く言葉に、ウシュベルーナもエリューハニスも目を軽く見開いた。
***




