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死に戻りの皇妃は困惑中~私を殺せと命じたはずの夫がなぜか執着強めな過保護ヤンデレと化した件~  作者: 桜祈理


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27 更なる罪

「あ……」


 ユスティナ様は身動き一つできず、もはや蒼白を通り越して紙のように真っ白な顔になった。


「そ、それは――」

「先帝暗殺の際に使われたのもダロッセの毒なのですが、実は実行犯だった皇子二人の毒の入手に関する供述がかなりお粗末でしてね。ある日皇宮にやってきた得体の知れない商人風の男に、『世界最強の毒だ』と言われて渡されたとかなんとか」

「――っ」

「そんな怪しげな男の言うことを鵜呑みにするなんて、とも思うのですが、彼らは密かに先帝の排除を目論んでいましたからね。渡りに船とでも思ったのでしょう。躊躇なくその毒を使って、先帝陛下を亡き者にしたわけですよ。調査の結果、毒はダロッセの花から抽出された毒だということがすぐに判明したのですが、ダロッセの毒なんて誰にでも入手できるものではありません。ロルンの民も捜査にまったく協力してくれませんし、結局入手経路はわからず我々としてもお手上げ状態だったわけですが」


 そこで一旦言葉を切ったアルベルト殿下は、捕食者のようにギラリと目を光らせた。


「あの毒は、あなたが抽出した毒だったのですね?」

「ち、違います! あれは、あの毒は、私の花から抽出したものでは――!」

「では、誰が、どこから、どうやって入手したものなのですか?」

「え……」

「知っているのでしょう? 先帝暗殺に使われた、毒の出所を」


 決して威圧的な口調ではないのに、アルベルト殿下の声には有無を言わさぬ凄みがあった。


 追い込まれたユスティナ様はしばらくおろおろと視線を漂わせ、最終的には逃げ切れないと悟ったらしい。敗北を認めて、がっくりと項垂れる。


「……お、お兄様、です……」


 消え入るような声だった。


「ほう。あなたの兄上というと、カッシアンの王太子殿下ですか?」

「……はい。た、正しくは、お兄様が統括している暗部の人間が秘密裏にロルンの民の密売人と接触し、ダロッセの毒と種を首尾よく入手したと……」

「その毒をドミヌスたちに渡した商人風の男というのも、カッシアン暗部の人間ということでしょうか?」

「……お、恐らく……」

「なるほどねえ。さすがはカッシアン、やることが狡猾かつ下劣すぎて、ほんとに頭が下がりますよ」


 心底軽蔑した、とでも言いたげな口調で、アルベルト殿下が吐き捨てる。


 ユスティナ様の自室にダロッセの花があるとわかったとき、『先帝暗殺の真の首謀者もカッシアン王家なのでは?』という疑惑を最初に指摘したのは、リナルド様だった。



『父上の暗殺に使われた毒の入手経路がわからない、というのは前回も今回も同じだが、前回は毒がドミヌスの寝所から見つかったことで犯行が発覚している。それがどうにも、引っかかってたんだよな』

『……なぜ、物的証拠となる毒そのものを処分していなかったのか、ということですか?』

『ああ。真っ先に処分していてもおかしくないし、抜け目のないあいつらがそんな失態を演じるなんて不自然だなと思ってさ。もしかしたら、誰かがあいつらを嵌めようとして、ドミヌスの寝所に毒を隠した可能性も否定はできないなと』

『つまり、カッシアン王家はこの国のお家騒動を利用して、皇族同士がお互いを潰し合うよう画策していたことになりますね』

『実際、前回はカッシアンの思惑通りに俺だけが残ったから即位せざるを得なかったわけだし、この国も乗っ取られそうになっていたってことなんだろう』



 まったくもって、手段を選ばないカッシアン側の卑劣な手口には虫唾が走る。


「すべてが明るみに出た以上、カッシアン王家の方々にはそれ相応の報いを受けてもらうことになりますが」


 アルベルト殿下の言葉にユスティナ様はハッとして、即座に立ち上がった。


「ちょ、ちょっと待ってください! わたくしはどうなるのです!?」

「どうって、殺人教唆は立派な犯罪ですよ?」

「た、確かに、毒を使ってフラヴィア様を始末するよう侍女に命じはしましたが、フラヴィア様はこうして生きているではありませんか!? この場合殺人教唆罪は成立せず、わたくしが罪に問われることは――」


 必死で弁明しようとしていたユスティナ様は、次の瞬間口を噤んだ。


 なぜなら、自分の鼻先数センチのところに、突然剣先が突きつけられたからである。


「ひぃっ……!」

「お前さあ、ふざけたことを言ってんじゃねえよ」

「……へ、陛下……!!」

「ヴィアの殺害を画策した時点で、お前に生きてる価値なんかないんだよ。つべこべ言うなら、今ここで殺してやってもいいんだぞ?」


 ほとばしるどす黒い殺気に恐れをなしたのか、ユスティナ様はへなへなと椅子に座り込む。息も絶え絶えである。


「リナルド様、今ここでユスティナ様を殺してしまうと、あとでいろいろ面倒なのでおやめくださいね」


 いつのまにか私のすぐ横に立っていたリナルド様を見上げると、不服そうに眉根を寄せる。


「生かしておいたって意味ないだろ。どうせカッシアンごと潰すんだし」

「今はまだ、利用価値がありますから」


 さらりと答えた私に、リナルド様は「……仕方ないな」と言いながら剣を納める。


 アルベルト殿下はやれやれといった表情をしながら、半ば放心状態のユスティナ様に声をかけた。


「毒を飲んだはずのフラヴィア様がなぜぴんぴんしているのか、お教えしましょうか?」

「……え……?」

「もうお気づきかもしれませんが、あなたの侍女がこちら側についたからですよ」


 言われて、ユスティナ様は連れてきた侍女のほうにゆるゆると顔を向けた。


 キシルに宥められていた侍女は、とっくに泣き止んで落ち着きを取り戻している。でもユスティナ様と目が合って、決まり悪げに俯いてしまう。


「魔導具のおかげであなたの策略を知ったあと、ラリッサが琥珀宮に潜入して密かに侍女と接触したのです。そして、領地に軟禁されているという彼女の家族の救出と保護を条件に、毒の混入を思い留まるよう説得したのですよ」


 元諜報部隊のラリッサが琥珀宮に忍び込むのは、造作もないことだった。


 魔導具が記録した会話で侍女の事情を理解した私たちは、彼女の憂いを払う代わりに帝国側に協力してほしい、とラリッサを通じて交渉したのだ。


 恐らく、侍女にとっては容易に決めることのできない難しい選択だったと思う。それでも、家族の命を助けてくれるならと、帝国側に協力することを了承してくれた。


 彼女の家族を救出したのは、もちろん『死神皇帝』リナルド様である。


 数日前に皇宮を出立したリナルド様は、騎士団の精鋭十数人だけを引き連れてこっそりと国境を越えた。そこからカッシアン国内にある侍女の家門が治める領地を目指し、屋敷を占拠していたカッシアン暗部の人間を一気に制圧して、侍女の家族を救い出したのだ。


「家族を人質にして服従を強いるだけでなく、思い通りに操ろうとするなんて為政者の風上にも置けないとは思いませんか? どうせフラヴィア様の殺害に成功していたら、その侍女にすべての罪を着せて難を逃れようとしていたのでしょう? まさに鬼畜の所業ですね」


 アルベルト殿下の容赦ない言葉に、ユスティナ様は一言も言い返すことができなかった。











次話で完結予定です!





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