28 皇后になる日
運命のお茶会から、数週間が経った。
あの日、ユスティナ様はすぐに拘束され、皇宮の地下牢へと連れていかれた。
直接聴取をしたアルベルト殿下によれば、ユスティナ様はさほど抵抗することなく、カッシアン王家の策略や内部事情について証言しているらしい。
そのほとんどは、私たちが推測した通りの筋書きだったとのこと。
「ユスティナ様にとっては、あの魔導具で会話を録音されていた事実が相当こたえたようでして。カッシアン側の魂胆が自分の失態で暴露されただけでなく、周到に隠し続けてきた裏の顔がことごとくバレてしまったことですっかり戦意を喪失したらしいです」
カッシアンの陰謀を打ち砕く最重要アイテムとして、魔導具が大活躍したことにご満悦な様子のアルベルト殿下。
そもそも、あの魔導具を使おうと言い出したときから、アルベルト殿下のテンションはずっと高かった。「古代魔法文明の恩恵に与る日が実際にやってくるとは! 生きててよかった!!」とか、「古代魔法文明に全財産をつぎ込みたい!」とか、「まじでこの魔導具、全人類に見てほしいんだが……!!」とか、興奮した様子でしきりに叫んでいた。
帝国民ではないキシルはもちろんのこと、帝国皇族に従属する立場のラリッサでさえ、何かやばいものでも見るかのような顔をしていたことは言わないでおきたい。
ユスティナ様の自供から数日後、カッシアンの王族で一連の陰謀の黒幕でもある現王と王太子がともに帝国へと移送されてきた。
彼らはカッシアンの王城に突然現れたリナルド様に応戦する暇もなく、あっさり捕らえられたらしい。
ただ、二人にとっては寝耳に水の展開である。はじめはだいぶ抵抗し、反発し、抗議を繰り返したという。
「なのでこちらに来てから、あの魔導具で記録したユスティナ様の会話を聞かせてやったのですよ。そのときの二人の顔、フラヴィア様にもお見せしたかったですね。いやー、傑作でした」
アルベルト殿下、完全に面白がっている。
諦めの悪いカッシアンの王と王太子はその後も聴取を拒んでいたらしいけれど、リナルド様はお構いなしでカッシアンの王城の強制捜索を騎士団に命じた。
捜索隊が到着するや否や、ユスティナ様の侍女のように家族を人質に取られて仕方なく指示に従っていた暗部の人たちが我も我もと殺到して、王家の闇について積極的に供述してくれたらしい。
そのおかげもあってか、王城からは数々の物的証拠(例えばダロッセの毒とか、暗部の人たちがいざというときのためにとっておいた指示書とか)が押さえられ、カッシアン王家の罪はほぼ確定的となった。
ちなみに、私の襲撃に関しては、戴冠式に出席していた王太子が急遽策を練ったらしい。リナルド様の後宮廃止宣言に危機感を募らせ、以前からコルヴァス公爵家に潜入させていた暗部の人間に私を抹殺するよう命じたとのこと。
こうして、カッシアンの王族三人の罪が次々と白日のもとにさらされ、その処分については帝国皇帝であるリナルド様に委ねられた。
数々の物的証拠や証言などの人的証拠、何より魔導具の記録もあり、リナルド様は即座に判断を下した。
「全員処刑。当たり前だろ」
……血も涙もないとは、このことである。
「いや、でも、ユスティナ様が素直に聴取に応じてくれたおかげで明らかになった部分もありますし、多少減刑を考えてあげても――」
「は? 何言ってんだ?」
そう言ったリナルド様の目は、はっきりと狂気を孕んでいる。
「言っただろう? ヴィアの殺害を企てた時点で、あいつに生きてる意味なんかないんだよ」
「いやいや、でも――」
「あいつの一番の罪はな、今回も前回も、ヴィアを裏切ったことだ」
「え……?」
思いがけない言葉に、私は耳を疑った。
黙ってリナルド様を見返すと、よく知る気遣わしげな瞳がじっと私を見据えている。
「前回の人生で、ユスティナはお前にとって唯一心を許せる友ともいうべき存在だっただろう? でもあいつの優しさや思いやりは最初から偽物で、それもお前の命を奪うためだったんだ。到底許されることじゃない」
「……ということは、前回の罪も上乗せさせたうえでの、極刑という判断なのですか……?」
「そうだよ」
「……で、でも、前回と今回とは、切り離して考えるべきでは――?」
「そんなの、俺の気が済まない」
というわけで、カッシアン王家の面々はあっさりと極刑が決まり、衆人環視の中で刑は執行された。あっけない最期だった。
王族のいなくなったカッシアン王国はそのまま帝国に併合され、長きに渡って悪政にあえいでいた旧カッシアン国民は歓喜に湧いているらしい。
◇・◇・◇
その後、後宮制度廃止の動きも一気に加速して、あっという間に後宮は解体となった。
もちろん、ルクレツィア様もカリスタ様も、なかなか後宮を去ろうとはしなかった。いろいろとすったもんだがあったそうだけど、先に後宮を去ったのはカリスタ様のほうだった。
「ヴィアの襲撃にかかわったと疑われていたコルヴァス公爵が、やっと釈放されただろう? 今回の一件で、自分は長いことカッシアンに利用されていただけだと思い知ったらしいんだ」
「カッシアン王家と裏でつながっていたことは事実ですが、あっけなく切り捨てられたうえ、濡れ衣を着せられてひどい目に遭ったわけですからね。無理もありません」
「頼みの綱だったカッシアンの王族が早々に処刑されたこともあってか、公爵はすっかり毒気を抜かれてしまってな。人が変わったように大人しくなって、『皇家には今後一切逆らいません』なんて言い出して、カリスタのこともさっさと回収していったんだよ」
「回収」
「カリスタ本人はまったく納得していなかったらしいが」
「ルクレツィア様はどうなったのですか?」
「あいつはどうあっても後宮に残りたいとか言って、子どものように駄々をこねていたよ。最後には、ヴィアの侍女になってもいいとか言い出して」
「え」
さすがに、元王女を侍女にするのは無理があると思うのだけど。
というか、ルクレツィア様に侍女が務まるのだろうか。甚だ疑問である。
「まあ、ちょうどよくネルヴァの使者が迎えにきたから、とっとと連れ帰ってもらったけどな」
「カリスタ様にしてもルクレツィア様にしても、皇室が責任をもって新たな縁談を用意すべきではありませんか?」
私がそう言うと、リナルド様はちょっと面倒くさそうな顔をした。
「……なんでだよ」
「彼女たちは国や家門の思惑で後宮に上がり、数年の間その身を帝国に縛りつけられただけでなく、今度は帝国の都合でいとも簡単に放り出されてしまったのですよ? これから縁談を探すとなってもそうすんなりとはいかないと思いますし、貴重な時間を奪ってしまったことへの償いはすべきでしょう?」
「……償い、ねえ」
不満そうにつぶやきながらも、リナルド様の目には諦観の色が乗る。
「ヴィアが言うなら、仕方ない。なんとかするよ」
「ありがとうございます」
「ほかならぬ皇后の言うことだからな。無下にはしないさ」
「……まだ皇后ではありませんけど?」
「何を今更。時間の問題だろう?」
なぜか焦がれるような表情を浮かべながら、リナルド様が私を抱き寄せる。
後宮制度を廃止し、ほかの皇妃たちが後宮を去ったことで、私は事実上の皇后と目されることになった。
すでに皇后としての執務を任されるようになったのはいいのだけど、リナルド様が皇后の戴冠式を開くなんて言い出したものだから、現在皇宮はその準備に追われている。困ったものである。
「皇后戴冠式なんて、わざわざ開かなくても……」
「俺にとってはヴィアが唯一無二の存在だってことを、国の内外に知らしめたいんだよ」
「……知らしめなくても、もうみんな知ってると思うんですけど……」
「俺は何度でも宣言したい。お前は俺のもので、俺はお前のもので、俺たちを引き離そうとする者は何人たりとも容赦しないと」
「……だから、私たちを引き離そうとするものなんて――」
「『死』以外はあり得ないとでも言いたいのか?」
リナルド様のその声は、真剣そのものだった。というか、ある意味鬼気迫るものがあった。
否応なしに、死んだ私を取り戻そうとして、迷いなく自分の命を差し出したリナルド様の激重な愛情と執着を思い知る。
「……『死』すらも超越してみせる、と言いたいのでしょう?」
「よくわかってるじゃないか」
「死に戻ってみたら、リナルド様がただのむっつりだったというのは十分わかりましたから」
「は?」
可笑しくなって、ふふ、と笑ったら、リナルド様がそっと耳元でささやいた。
「死んでも、放さないからな」
これで完結です!
最期までおつきあいいただき、ありがとうございました!




