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死に戻りの皇妃は困惑中~私を殺せと命じたはずの夫がなぜか執着強めな過保護ヤンデレと化した件~  作者: 桜祈理


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15 回帰の真相②

「あのー、いつまで経っても陛下が皇宮に戻ってこられないので、ちょっと様子を見にきたのですよ。そしたら部屋の前にいたラリッサや侍女たちが、何やら言い争う声が聞こえると心配そうに右往左往していたものですから、仕方なく」


 突然私の部屋に闖入してきた言い訳を並べたアルベルト殿下は、諫めるような視線をリナルド様に向ける。


「リナルド、だから言っただろう? ちゃんと話し合ってみたほうがいいんじゃないかって」

「兄上……」

「お前の気持ちはわからないでもないが、お前一人でできることなんてたかが知れてるんだよ。なんでもかんでも一人で背負い込もうとしたから、前回だって失敗したんだろう?」


 すべてを理解し尽くしているような口調のアルベルト殿下に、私はもしかして、と気づく。


「……アルベルト殿下も、回帰されていたのですか……?」

「いえ、僕は回帰していませんが」

「はい?」



 ちょっと待って。


 今の流れは完全にそうだったと思うんだけど?



 反射的に眉をひそめた私に、アルベルト殿下は至極真面目な顔つきになる。


「僕は回帰していませんし、前回の人生の記憶というものもまったくありません。ただ、陛下からすべて話は聞いているのです」


 そう言って、殿下は再び皇帝陛下に諭すような視線を向ける。


「……フラヴィア様に、ちゃんと話すよな? リナルド」

「……ああ」

「フラヴィア様。愚弟の話を、聞いてもらえますか?」

「もちろんです」



 そうして始まったリナルド様の告白は、想像以上にとんでもない話の連続だった。



「先にお話ししておきたいのですが、実はリナルドもフラヴィア様が前回の記憶をお持ちなのではないかと薄々気づいていたのですよ」

「えっ……?」


 アルベルト殿下の信じられない暴露に、リナルド様は強張った表情をしながら話し出す。


「お茶会の一件で第一皇妃の処分が決まった話をしていたとき、お前は第一皇妃が『陛下やこの国に是非にと請われて嫁いできたと散々自慢していた』と言っていただろう?」

「は、はい」

「お前がルクレツィアと言葉を交わしたのは、あのお茶会が初めてだったはずだ。兄上の聞き取りでは、あの場でそんな話が出たという証言はなかった。それなのに、なぜお前がその話を知っているのかと思ってな」

「あ……」


 鋭い指摘に、二の句が継げない。


 確かに、その通りである。あれは回帰前、後宮で暮らした二年間の記憶なのだから。


 本来なら、入宮したての私が知っていることではないのだ。


「あの言葉で、ひょっとしたらお前にも前回の記憶があるのかもしれないと思った。どこまで覚えているのか気にはなったが、確かめることに迷いがあった。前回の人生は、俺の落ち度や不手際のせいで最後にはお前を失ってしまう。そんな自分の恥をさらしたくなかったし、お前に責められるのが怖かったんだ」

「落ち度や不手際って、なんですか……?」

「俺はお前を愛するあまり、遠ざけることで守ろうと必死だったんだ。政治的な事情でお前が後宮入りしたあとも、接点を持とうとしなかったのはどうしてもお前を守りたかったからだ。最初からヴィアしか見ていなかったからほかの皇妃たちとは関係を持つ気もなかったが、彼女たちと同じように距離を置いておけば、お前が危険にさらされることはないだろうと……」

「それは、どういうことでしょうか……?」

「そもそもの発端は、父上の暗殺事件だ」


 そう言って、リナルド様は強張った表情をますます険しくする。


「前回の人生のとき、ドミヌスとバルナバは共謀して先帝である父上を暗殺し、兄上にその罪を着せて早々に処刑した。なぜだかわかるか?」

「……先帝とアルベルト殿下が邪魔だったから、でしょうか? 動機や理由は公表されていませんので、あくまでも一般論というか、勝手な推測ですが……」

「そうだ。父上はな、実は兄上を立太子させるつもりでいたんだよ」

「え? ドミヌス殿下ではなかったのですか?」

「一般的にはそう噂されていたが、実際は違う。ドミヌスもバルナバも、表面上は非の打ち所がなく、温和で社交的な人間だと思われていたが、実は腹黒くて狡猾で、残虐非道な性格だったんだ」

「えっ!? まさか……!」

「あいつらの裏の顔は、俺たち皇族とごく限られた上層部の人間しか知り得ないことだった。それだけで、あいつらがどれほどずる賢く抜け目のないやつらだったかがわかるだろう?」

「俄かには、信じられませんが……」

「父上はそれに気づいて、だからこそ兄上を立太子させようと考えていたんだ。ドミヌスたちは兄上の立太子を阻止すべく父上を暗殺し、その罪を兄上になすりつけて処刑した。俺がカッシアンとの戦争から戻ってきたときにはすべてが終わっていたが、ドミヌスが即位する前に父上暗殺の決定的な証拠を見つけ出して断罪し、処刑へと追い込んだんだ。そのことは、お前も知っているだろう?」

「はい。確か、先帝暗殺に使用された毒がドミヌス殿下の寝所から見つかったことで、皇子二人の関与が明らかになったと……」

「そうだ。ただ、あいつらの罪を暴いて処断したことで皇太后は辺境の地に幽閉され、彼女の生家であるベルム公爵家は俺や帝国を逆恨みしてあからさまな敵意を向けるようになった。そんな状況の中で、俺が後宮入りしたお前を寵愛しているとなったら、今度はお前の命が狙われかねないだろう? だから俺は、お前への想いをひたすら隠して距離を置き、冷遇し続けることでお前を守ろうとしたんだ」


 心なしか気まずそうに、リナルド様は目を伏せる。


 私は私で、明かされる怒涛の真実にただただ呆然とするばかりである。


「実際、ベルム公爵と皇太后はドミヌスたちの毒の入手を手助けした可能性があった。最後まで証拠は見つからなかったが、後宮はいつ何が起こるかわからない危険な場所だ。警戒するに越したことはないし、近づかないことがお前を守る唯一の方法だと思っていた。それなのに、お前はルクレツィアに殺されてしまった」


 リナルド様の声が、一瞬だけかすかに震える。


「ルクレツィアは、お前を殺したことを隠そうともしなかったよ。むしろ駆けつけた俺に、『陛下、お望み通りに始末しました』と誇らしげに笑ったんだ。俺はわけがわからないまま、ただお前の亡骸を抱きしめることしかできなかった」


 掠れた声で、絞り出すように話すリナルド様。


 その目には、絶望という名の闇が沈んでいる。


「事情聴取の中で、ルクレツィアは俺から幾度となく手紙をもらっていたと供述した。愛しているとかお前だけがいればいいとか、嘘みたいな愛の言葉がこれでもかというほど書き連ねてあったらしい」

「手紙ですか……?」

「ああ。もちろん俺は、そんな手紙など書いた覚えがない。でもルクレツィアは、長いこと俺と手紙のやり取りをしていて、俺の愛を信じて疑わなかったと言った。そして手紙の主が望む通りに、お前の排除を目論んだんだ。しかも手紙の主からの指示で、受け取った手紙は毎度毎度ご丁寧に処分していたらしい。証拠は何一つ残っていなかった」


 なんという、用意周到な犯人だろう。


 でも唐突に、謎が解けた気がした。


 完全に、腑に落ちた。


 ルクレツィア様を凶行に走らせたのはリナルド様が直接発した言葉ではなく、リナルド様になりすました人物からの手紙だったのだ……!


 それなら、たとえ直接会うことは叶わなくても、実際には一ミリも寵愛を受けていなくても、愛されていると思い込むことができる。愛されていると、思い込ませることができる。


「それから俺は、手紙の主が誰なのかを徹底的に調べ始めた。一番怪しかったのは、なんと言っても皇太后とベルム公爵だ。なんせ、お前を殺した毒は父上の暗殺にも使われた毒だったからな」

「そうだったのですか……?」

「ああ。俺がひた隠しにしていた恋情になぜか気づいたあいつらが、結託して母国のわがまま王女ルクレツィアを利用し、俺への復讐のためにお前を亡き者にしたのだろうと思った。でも残念ながら、証拠は見つからなかったんだ。俺は途方に暮れたよ。ルクレツィアはさっさと処刑したが、それで気持ちが晴れるわけはない」

「は、はあ……」

「お前を亡くして、俺の世界は途端に色を失った。近づけなくとも、話すことも触れることすらできなくても、お前がただ健やかに生きていてくれればそれでよかったんだ。それなのに、俺のせいでお前は殺された。お前がいない世界など、もはや生きる価値もないと思った。そんなとき、ふと思い出したんだ」

「何をですか?」

「かつて兄上が話していた、皇家に伝わる『時を戻す秘宝』のことをだよ」











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