ヴァルターの思惑
今回はヴァルターの独白です。
ルシアの見事な踊りを忘れられない男、ヴァルターは屋敷の一室で一人想いに耽っていた。
森の奥、高い塔と重厚な鉄門に囲まれた屋敷が聳え立っていた。
それは歓迎よりも威厳を語る造りで、名門クロイツ家の揺るがぬ力を無言で示している。
その屋敷の高い塔の一室。広すぎる静寂の中、ひとり悩む男がいた。
ヴァルター・クロイツ。威厳と伝統を重んじるクロイツ家の次期当主である。
ーーしかし。
この男は先日、とある女と出会った日から様子がおかしかった。
【ヴァルター!】
あのむせかえるような赤い髪の間から覗く琥珀色の光。澄んだ声。
どれほど振り向きたかったことか。
だがそんな俺の気持ちを認めたくなくて、無理矢理その声を引き剥がした。
だってあいつは、エルド侯爵の……
「……だからなんだ。俺には関係ないことだろ」
そうだ。あいつが誰とどんな関係だろうと俺には関係ない。
それにあいつは、あの一族は俺の一族の仇のはずでーー
因縁以上の感情など……あるはずがない。
【ヴァルター!】
「…………」
わかっているのに。なぜ次の瞬間にはルシアのことを考えている。
「クソッ……埒が明かない!」
それもこれも全部、あの女のせいだ。あの女が俺の前で、あんな風に楽しそうに踊るから。
そうだ。俺は悪くない。あの女の踊りのせいだ。
王すら惑わせたという踊りに、俺も魅了されて狂わされたに違いない。
「そういえばあいつは俺の感想を聞きたがっていたな……ここはひとつ手紙を書いてやるか」
俺は机に向かい、ルシアに向けて手紙を認た。
――筆が、やけに軽い。
その事実から目を逸らしながら。
すみません短めでした。
果たしてヴァルターはどんな手紙を書いたのでしょうか!?
最後まで読んで頂きありがとうございました。




