侯爵様の抱擁
本気で怒ったエルドの心境は……
「帰れ」
侯爵様のその一言で、令嬢は弾かれたように身を震わせた。その場に立っているのもやっとの様子で……
「も、申し訳……ありません……」
そう言うと、令嬢はほとんど逃げるように去っていった。
ぱたぱたと急いで遠ざかる足音と共に、中庭に再び静寂が訪れる。
「ッはーー!びっくりした!」
私はやっとまともに呼吸ができた気がした。だって今の侯爵様、本当に怖かったんだもの!
「もう!侯爵様いきなり本気で怒らないでくださいよ!私はあんなことしょっちゅう言われてるし、慣れてるし……」
「……ルシア」
侯爵様が言葉を遮るように私を呼び、あっという間にその腕の中に私を抱き込んでしまった。
侯爵様相変わらずいいにおいがする……
「すまない。ルシアを悪く言われてカッとなった」
「……侯爵様ったらそんなことで怒らないでくださいよ。それにさっきも言った通り私は言われ慣れてーー」
言いかけた途端ーー
ぐい、と顎を掴まれて、唇を奪われた。まるでその先を聞きたくないかのように。
「んっ……」
侯爵様……
「……私が、嫌なんだ。ルシアのことを悪く言われるのは……耐えられない」
ぎゅっと、私を抱きしめる腕に力がこもる。
ーー侯爵様、私のために本気で怒ってくれたの?本当に??
(……嬉しい、侯爵様……)
今まで私のために本気で怒ってくれた人なんていなかった。だけど侯爵様は……
ぎゅ……
「ッ、ルシア……」
私はもう何も言わなかった。代わりにその大きな背中を抱きしめ返した。
*
数時間後、私たちは本邸の中庭でお茶とお菓子を嗜んでいた。
「ところで侯爵様!先程はご令嬢と何の話をしてらしたの??お二人とも神妙な面持ちだったけども」
「ゴファ!!」
侯爵様はフウカが注いでくれた紅茶を盛大に吹いた。
何故かフウカも一緒になってズッコケた!
「お、お嬢様……それはまたの機会にお話ししましょ?エルド様は大人なんですから色々とありますよ」
「私も大人よ!」
「あ、そういえば私は少し残していた仕事があったのだ」
「あっ、侯爵様!!」
そう言って侯爵様は光の速さで逃げた。
どさくさに紛れてフウカも居なくなってるし。
「もう!一体何なのよ!!このサンドイッチ私が食べちゃうわよ!!」
エルド侯爵とご令嬢が何を話していたか。その内容はエルドによって箝口令を強いられ、ついぞルシアは知ることがなかったのである……
エルドと令嬢は一体なんの話をしていたんですかねぇ?(すっとぼけ)
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