その姿はまるで夜のように
さっきまで私の周りを囲んでいた人たちの空気もすっと変わった気がする。
まるで波が引くみたいにざわめきが止む。
「……」
「……失礼いたしました」
「侯爵様が……」
人々がハッと我に返り、慌てて道を開ける。
まるで見えない力に押されるみたいに、皆は侯爵様が通る道を開ける。
(わぁ……すごい……本でしか見た事ない光景だ)
そして全員が一斉に頭を下げたと同時に、さぁっと赤い絨毯の一本道ができる。
その場はさっきまでお祭りだったのに急に神聖な儀式みたいな雰囲気になった。
「え、えっと……?」
私が戸惑っていると、その道の向こうから、ゆっくりと歩いてくる人がいる。
黒の正装。
伸びた背筋。
静かな威厳。
夜のような落ち着きを纏った人。
ーー侯爵様……
侯爵様が威厳を纏って、まっすぐ私の元に近づいてくる。まるでお姫様を迎えにくる王子様のように。
(こっ、これもどこかの本で見た事ある景色だわ!!まさか自分が当人になるなんて……)
侯爵様が近付くたび、胸が高鳴る。
さっき踊った時よりもうるさく心臓が脈打つ。
まただ……
どうして私はこんなに緊張するんだろう。どうして私は侯爵様の前では色んな感情で忙しくなってしまうんだろう……
「ルシア」
「ひゃ、ひゃい!!」
優しい声に、意識が引き戻される。その声はいつものように優しい声なのに、今日は少しだけ低くて、真剣で。
「……」
私は気付けば、背筋を伸ばしていた。
侯爵様は私の前で立ち止まる。
そしてーー
すっと、片膝をついた。
「…………え?」
広間がどよめく。
え、え、え???
侯爵様が?跪いてる?私に???どうして?私はお姫様でもなんでもないのに!
「こ、侯爵様!?立ってください!?」
「いいから、黙って聞いて」
優しく、でも逃がさない声で。侯爵様はそのまま私の手を取る。
(あ、侯爵様の……大きくて、温かい手)
そういえば私、侯爵様の手をじっくりと見た事なかったかも……
侯爵様の手……ゴツゴツして、大きいな……//
「君はいつも悪役令嬢になりたいだとか、婚約破棄に憧れているだとか意味がわからない事を言うけれど……」
そう言って侯爵様はクスッと笑った。
ああああ忘れてください!私の夢なんて!!
「でもそれが私には新鮮で、誰よりも眩しかった」
「へっ?」
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
エルドの大人の魅力がたっぷり書けて幸せです。
ここまでされたらもうルシア様は受け入れるしかないよね!?
最後まで読んで頂きありがとうございました。




