シオンベルクにて
今回のエピソードから新章です。
エルドが仕事で王都に行っている間、ルシアは街に来ていた。
今日は侯爵様が仕事で王都に出かけているので久しぶりにフウカと街へ買い物に来たの。
商店街は賑わっており、私は扇子を買いに来たあの頃を思い出した。
「ねぇフウカ!私がまだ悪役令嬢に憧れて見ていた扇子!まだあるか見に行きましょうよ」
侯爵様が、初めて贈り物をくださった扇子のことを思い出す。あの頃はお互いのことをあまり知らなくて、私は悪役令嬢に憧れて、婚約破棄されようと必死になって。
わざと濃い化粧を施して、侯爵様に嫌われようとめちゃくちゃやっていたのに、侯爵様は全然怒らなくて、むしろ優しくて。
「ふふ、フウカ。侯爵様って私以上におかしなお方よね!」
私の言葉を聞いたフウカは肩をすくめる。
「ちっともおかしくないです!エルド様が大人で、寛大なお心の持ち主だからです。エルド様でなかったら、今頃屋敷を追い出されていましたよ?」
「フウカったら!またそれを言うのね!」
「何度でも言いますよ私は。お嬢様が気を抜かないようにね!」
「もう!心配しなくてももう悪役令嬢になりたいだなんて言わないわよ」
私たちがやいのやいの言い合っていると、件のお店が見えてきた。
(この店で、侯爵様は扇子を買ってくださったのよね)
両面金の施しがされた扇子に赤い梅の花が舞い散る様子が描かれた品、覚えているわ。今でも鮮明に思い出せる……
「ん?」
私が思い出に耽っていたその時、見慣れた黒いスーツの男が目に入った。一目で貴族とわかる出たち。
尊大な振る舞い。
国王然とした金色の髪に青い瞳の。悠然とした立ち姿はまさしく。
ヴァルター・クロイツその人だった。
「ヴァルター!!」
私は思わず手を振った。
「こんなところで会うなんてびっくりしたわ!どうしてここへ?!」
* * *
商業都市、シオンベルク。
芸術と交易が交差するこの街には、他では手に入らない品が数多く並ぶ。
俺はヴァルター。今日はここシオンベルクにしか売ってないマカロンというものを買いに来たのだ。
あまり知られていないが、実は俺は甘いものが大好きだ。
幼い頃から厳しく育てられ、王に仕えるものが甘いものなど食べるな!と教えられてきたが。
(今となっては意味不明な教えだが)
これだけはやめられない。
昔国王陛下に勧められたマカロンの味。
そのとろけるような甘美な味つけに、すっかり俺は虜になってしまったのだ。
誰にも知られていない、俺だけの密かな愉しみだ。
以来、家族の目を盗んではこっそりと遠く離れたこの街に来ていたのだが……
「ヴァルター!」
最悪だ。そう言えばここシオンベルクは、エルド侯爵の治める領地でもあったのだ。
ヴァルター普段あんなに澄ましてるのに甘党なんだね(笑)
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