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侯爵様の悪役令嬢(自称)  作者: 杉野みそら
第十五章

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それは最初から、きっと

エルドとルシアの踊りを見たヴァルター。その胸の内は……

 二人はそのままキスしてしまいそうな距離で見つめ合っていた。


 熱っぽい視線はそのままにーー


 * * *


 ――息が、止まった。


 音楽が終わったことにすら、しばらく気づかなかった。


 ただ、目の前の光景だけがまぶたに焼きついて離れない。


 絡み合うように踊る二人。

 触れるか触れないかの距離で揺れる身体。

 視線を外さないまま、互いを捕らえ合うあの空気。


(……なんだ、あれは)


 理解が追いつかない。


 いや、違う。


 ――理解したくない。


 あれはただの舞じゃない。


 ただの“上手い踊り”なんかじゃない。


 もっと生々しくて、もっと近くて、もっと……踏み込んではいけない領域のものーー


「……は」


 乾いた笑いが、喉の奥でこぼれた。


 負けた、などという言葉では足りない。


 最初から、勝負にすらなっていなかったのだ。


 俺は距離を測り、節度を守り、踏み込みすぎないように、雰囲気や音楽の旋律を壊さないように。

 ただ、"踊っていた"だけ。


 だがあの男は違う。


 ――奪いにいっている。


 触れていいのかもわからない距離を、躊躇なく詰め、視線で縫い止め、呼吸すら奪うように。


 そしてルシアは――


(……あんな顔、するのか)


 知らなかった。


 いや、知ろうともしなかった。


 無邪気に笑って、くるくると回るだけの女だと、

 どこかで決めつけていた。


 だが違う。


 あれは。


 あんなものはーー

 目の前で踊るルシアのダンスはまるで命の踊り……カルミナートの血の踊りだ!


『そうでなくては』


 ルシアの力強い、挑むような声が聞こえる。


「……反則だろ」


 ぽつりと、誰に向けるでもなく呟く。


 胸の奥が、じくじくと熱を持って痛む。


 奪えないと分かっているものを、目の前で見せつけられる感覚。


 手を伸ばせば届いたかもしれない距離にいたのに、自分は“伸ばさなかった”。


 その結果が、これだ。


(……笑えるな)


 視線を逸らそうとして、できなかった。


 ルシアから目が離せない。


 離した瞬間、何か決定的に終わる気がして。


「……最初から、わかっていたはずなのに」


 呟きは、誰にも届かない。


 ただ静かに、胸の奥へ沈んでいく。


 ――完敗だ。


 俺はそれでもなおーー目を逸らすことだけは、できなかった。


ダンスの描写が書けてとても楽しかったです!


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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