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29 嫉妬?

「ソフィア!!!」



私と王太子殿下を見るアレックスは、何故だかショックを受けたような顔をしていた。



(前も思ったけど、どうしてあなたがそんな顔をするのよ)



アレックスを視界に入れた王太子殿下の目が瞬時に冷たくなった。先ほどまでの優しい顔が嘘のようだった。



「アレックス・・・どうしてここに・・・」



「ソフィア!」



アレックスはツカツカと歩いて来て、いきなり私の腕を掴んだ。そしてそのまま引っ張ってどこかへ連れて行こうとする。



(え、何!?)



私はアレックスの行動の意味が分からず、困惑した。



「ちょ、ちょっとアレックス!何するのよ!ウッ・・・!」



アレックスが私の手首を強い力で握ったため、握られた箇所に痛みが走り思わず顔をしかめた。



(痛ッ!!!)



振りほどくことも出来ず、私はアレックスに無理矢理連れて行かれそうになった。



そんなアレックスの腕を掴んだのは王太子殿下だった。



「勇者アレックス、一体何の用だ?」



「・・・!」



王太子殿下の姿を見たアレックスの顔が強張った。



「お、王太子殿下・・・」



王太子殿下の冷たい視線に気付いたのか、アレックスの顔色が悪くなっていく。しかし、アレックスはそんな殿下の視線に怯えている様子を見せながらも引かなかった。



「お、俺はソフィアに話があって・・・」



「ならここで話してみろ」



「そ、それは・・・」



アレックスはばつが悪そうに黙り込んだ。そんなアレックスを見て、私は今までこらえていた彼に対する怒りが少しずつこみ上げてきた。



(話って何?私はあなたと話すことなんて何も無いのだけれど)



私も殿下と同じようにアレックスを冷たい目で見た。もうアレックスに対する未練は少しも無いようで安心した。



「何だ?ソフィア嬢に話があるんじゃなかったのか?」



「ここでは言いにくいというか・・・」



「それでソフィア嬢の腕を掴んで連れて行こうとしたのか?」



「そ、それは・・・」



「いくら同じ村で育った幼馴染とはいえ、それは無礼ではないか?お前はもうソフィア嬢の婚約者ではないだろう。誰かに見られて変な噂が立ったらどうするつもりだったんだ?」



王太子殿下はアレックスの無礼な行動を厳しく非難した。



それに対してアレックスは何かを言いたそうにしていたが、結局最後は自分の非を認めた。



「は、はい・・・王太子殿下のおっしゃる通りです・・・」



王太子殿下の言っていることがまともすぎて反論の余地も無いのだろう。アレックスはそう言うしかなかった。



(殿下・・・本当にすごいお方・・・)



王太子殿下とアレックスのやりとりの一部始終を見ていた私は素直にそう思った。



(ダグラス公子のときもそうだったけれど、殿下は物凄く威厳があるというか・・・)



性格に難アリなアレックスやダグラス公子をこうも簡単に圧倒してしまうとは。



まだ若いのに本当に凄いなと思う。流石は未来の国王陛下といったところだ。やはり殿下には王の器がある。そのことを改めて実感した。



「お前はこの国唯一の王女であるアンジェリカの婚約者なんだ。分かっているのか」



「もちろんです・・・殿下・・・」



王太子殿下の言葉にアレックスは悔しそうな顔をした。



しかし彼もまたダグラス公子と同じく言い返すことは出来ないようで、黙り込んだまま俯いた。そんなアレックスを一瞥した後、殿下が私に声をかけた。



「行こう、ソフィア嬢」



「あ、はい・・・」



殿下がくるりと背を向け、私も彼について歩く。



「!」



そんな私たち二人にアレックスが物凄い勢いで顔を上げた。



私を連れてこの場を離れようとする殿下に対して彼は声を張り上げた。



「―待ってください!!!」



「・・・まだ何かあるのか?」



王太子殿下が不快そうな視線を投げてそう言った後、私の視界を遮るようにして前に出た。私をアレックスから守ろうとしてくれているのだろうか。そんな彼の優しさに胸が高鳴る。



その光景を見たアレックスは怒りを滲ませた声で言った。



「殿下は・・・ソフィアとどんな関係なんですか・・・何でそこまでしてソフィアを庇うんですか・・・!」



それに対して殿下が向けたのは絶対零度の視線だった。



「私とソフィア嬢がどんな関係なのか・・・それがお前に何の関係があるんだ?」



「・・・ッ」



「さっきも言ったがもうソフィア嬢はお前の婚約者ではない。彼女が誰と親しくしていようと、それはお前には関係の無いことではないのか?」



「・・・」



何も言えなくなるアレックスに、殿下はハッキリと告げた。



「―お前に、彼女について口出しする権利はない」



「・・・ッ!!!」



私はアレックスのことが気になって、殿下の背中から顔を出した。そこには、グッと唇を噛んで俯いているアレックスの姿があった。



(・・・!)



アレックスがこれほど弱気になっているところは初めて見た。何だか胸がすいた。



「・・・その通りです。申し訳ありませんでした、王太子殿下」



「・・・」



王太子殿下はしばらくの間アレックスを冷たい目で見つめていたが、突然振り返って私に声をかけた。



「ソフィア嬢、今日は部屋まで送っていこう」



「あ、ありがとうございます・・・」



そして、アレックスを一人その場に置き去りにして私たちは歩き出した。



「・・・」



私は歩きながら考えた。アレックスが何故あんなことを言ったのかがどうしても分からない。王太子殿下の言った通り彼は今アンジェリカ王女殿下の婚約者で私との縁はもうとっくに切れている。縁を切った理由はアレックスが王女殿下を選んだからだ。婚約者であった私を捨てるほどなのだから心から王女殿下のことを愛しているのだろうと思っていた。だけど、さっきの彼の姿はまるで―



まるで、嫉妬でもしているかのようだった。恋人同士だった頃は一度もそんな素振りを見せてはくれなかったというのに、今さら何なのだろう。



(・・・アレックスの気持ちがどうであれもう私には関係の無いことよ)



私はもうあの浮気者に未練など少しも無いのだから。



考え込んでいた私に、ふと隣を歩いていた殿下が話しかけた。



「そういえば君は明日から三日間休みだったな」



「あ、はい、そうなんです。久々にお休みを取ることが出来て・・・」



「何をして過ごすんだ?」



「教会に行こうと思っています」



「そうか、せっかくの休みだ。思う存分楽しんできてくれ」



「はい、ありがとうございます。殿下」



そして私は王太子殿下に送られて部屋まで戻った。



(うわぁ・・・アザになってるよ・・・)



アレックスに掴まれた手首に目をやるとくっきりとアザが出来ていた。相当強い力で掴んだようだ。本当にアレックスは一体何がしたいのだろうか。



私はそう思いながらも光魔法を発動させた。



―ボワァ!



それからしばらくして光が消え、アレックスに掴まれたことによるアザもすっかり消えていた。



(今はアイツのこと考えるのやめよう。明日はせっかくの休みなんだから)



私は気持ちを切り替えて次の授業へと向かった。




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