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88.眠らない女神。

寒いから部屋へと戻る。

ふかふかのソファーに腰掛けて紅茶をもう一杯。

それからフィオに旅の報告をした。


「遺跡のダンジョンとは...なかなか神秘的ですね」

「結局俺はあまり役に立てなかったんだ」

「それは経験の差ですから仕方がありませんよ」


確かに経験はものを言う。

でもそれ以外にも足りてないものがあるのだと

痛いほど思い知らされた旅だった。

また一から出直しだ。


「喋るんだよその子っ!」

「神性持ちの魔物や魔獣は賢いですから」


彼女もそういったモノのことを知っていたが

人の姿に変身すると言ったらさすがに驚いていた。


「ぜひお会いして色々調べてみたいです」

「研究熱心だねフィオは」

「いえ、まだまだ趣味の範囲ですよ」


精霊の寝溜めできるスキルをフル活用して

深夜に様々な分野を探求している。

だから魔導具にも詳しいし

その使い方も熟知しているのだ。


ティーカップを置いて少し外を眺めるフィオ。

時々こういった顔をするのは...


「いま寝てた?」

「レオナルドにはかないませんね(照れ笑い)」

「本当に良い観察眼をしています」


忙しくて休みが取れないから

こうして目を開けたまま数秒間の眠りに落ちる。

俺以外には気付かれないけど。


「最近はウィキログの編集作業に没頭していてー」


魔術ネットのポータルなんとかにアクセスして

データベースをなんちゃらしているらしい。

簡単に言うと辞書を作ってるのだとか。

説明されたけど俺は半分も理解していない。


「程々にして寝ろって言うんだけどさぁ〜」

「それはマスターが仕事を溜め込むからですっ!」


本当に嫌なら合意の上契約を解除して

亜空間に戻ることもできるけれど

屋敷には貴重な本のコレクションや

広くて綺麗な花々が咲く庭もあるから

結構ここでの生活に満足しているようだ。


「でもたまには冒険旅行に行きたいです(チラッ)」

「行っただろプロモーションでさぁ!」

「あれはお仕事ですから」


勇者の弟なのに伯父は全く冒険をしない。

ウォーリアとは真逆で戦いに興味がないのだ。


「兄さん...お前の父さんには敵わなくてさ」

「いっつも泣いてばかりいたんだ」


流れで親父との昔話を語り出す伯父。

あまり話したがらなかったから初めて聞く話だ。

子供の頃から周囲に比較されてしまい

悔しくていつも泣いていたらしい。


“腕の強さなんて関係ない。お前はお前だろ?”

“そんなに本が好きなら自分で書いてみなよ”


「それでいつか俺の冒険譚を書けってさ」

「まったく...兄さんはいつ帰ってくるのやら」


この危険人物(ロリコン野郎)、体力はないが頭だけは凄く良い。

頭が良い人はネジがぶっ飛んでいるの典型だ。

上級院に進学して難しい本を読み漁っていたから

それが随筆にも生きている...らしい。


「だから小説家になったのですね」

「ちょっと良い話だろ?自伝もアリだと思うぞ」


珍しく真面目な顔で話をしていた伯父は

その後書斎に戻ると言って部屋を出ていった。


親父が消えてからどれだけ経つのだろうか。

俺が実家を出てアカデミーに進学した時に

経済的に困らなかったのは伯父のお陰でもあるから

こんな奴だけど一応感謝している。


「フェルナンドも仕事に戻りましたので私も」

「うん。適当にくつろいで待ってるよ」


クライフさんにお土産を渡したいから

俺とカレンは昼になるまで待つことにした。


フォン...シュゥゥゥゥン...


(なにか魔術的な音が裏庭から聞こえた気がする)

不審に思い窓の外を見にいくと...


「ああっ!マスターがウィザーライドにっ!!」

「上手く逃げられちゃったね」

「これだから信用できないんですよ彼は...」


頭を抱えるフィオ。

感動的な話で油断させておいて見事な裏切り行為。

サボり癖は治りそうにない。


「でも今日はおふたりもいらっしゃいますし...」

「私もサボることにしましょう」


いつもならすぐ追いかけに行くのだけれど

働き過ぎの自覚がある彼女は休むことに決めた。

女神にも休息は必要だ。


「クライフ先生が来たらパイを焼きますよ」

「わーい!お肉のやつがいいなっ!」


オーブンの薪を足して予熱を上げていく。

最近は俺も何かと忙しくしていたから

こうしてゆっくりと流れる時間が心地よかった。

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