46.額で飾られた手配書。
帰省二日目の朝。
朝食に俺達が買ってきたウミブドウのタルトと
ミルクティーを出してくれた。
パウンドケーキは売り切れで買えなかったけれど
食べてみたらタルトの方が美味しかったので
“次からはこれを買ってきて”とお願いされた。
俺が歯を磨いて居間に戻ると
カレンがビビりながら壁の写真を見ている...
「レオ怖いよー。だれこの人」
「それね...親父」
だってそれ手配書だからね。
怖がるのは無理もない。
「ほら、母さん。居間に飾るのは駄目だって」
「そうかしら...凛々しくて好きよ?」
綺麗な装飾の白い額に入れてあるけど
WANTED!!って大きく書いてあるし
もの凄く睨みを効かせている。
親父は写真嫌いだったから
唯一残された写真がこれなのである。
俺が小さい頃に投獄されて、すぐに脱獄した。
だけど平和になった今も帰っては来ない。
優しかった気がする。
遊びに行った記憶も少しある。
時々手紙が届くけれど住所がなくて
消印はいつも様々な地方から出されていた。
「この前届いたのは...はい、これよ」
“親愛なるローズ、そして息子よ”
“凄いだろうこの滝!それに雄大な景色!”
“今年も会えないけど来年もよろしく”
“じゃあまたな”
(滝と橋の上から撮った景色の写真が二枚)
出だしから一行目までしかまともじゃなかった。
いつもこんな感じだ。
母さんは怒ってもいいはずだけどベタ惚れだから
“生きてるならOKですっ!”て感じみたい。
時々寂しいとは言うけれど...
今日は朝から薪割りをして
午後からは大掃除の手伝いとかをした。
普段は男手もないし、帰った時くらいは親孝行をする。
「これはそっちに置いておけばいい?」
「ええ、ありがとう。もう休んでくれていいのよ」
ひと仕事終え、庭のベンチに腰掛けて休憩。
カレンはピッピィ達を芝生の上に放して遊んでいた。
ピッピィ...ピッピィ...ピッピィ...ピッピィ...
広い場所に出されて楽しそうに踊っている。
コト...「はい、お飲み物。いい子なのに残念だわ...」
まだ言うか。
たしかにリリィーしか連れてきたことないけどさ。
俺の将来を勝手に悲観しないでいただきたい。
日も暮れて午後。
あっという間に時間が過ぎてしまうけれど
やはり実家は寛げるからいい。
今夜も盛り沢山の肉料理を食べた後
母さんが例の“イルミネーション”を見せてくれるという。
「さあ、少し離れていてくださいね」
長い髪がたなびく。
いつもの優しい感じではなく鋭い目。
大きく地面に描かれた魔法陣が青く光ると
深く息を吸って静かに詠唱を始めた。
“星々は今宵輝く”
“祈りと希望 そ して 、哀しみと共に”
“私達は最後の守護者”
“子供達に祝福を そして彼女を 孫の顔をー”
“眩しい朝日を闇夜に灯せ”
(途中で余計なこと言ってたよな...)
詠唱内容は一定の文言を守れば結構自由だったりする。
ブヲン...フォンッ!フォンッ!フォンッ!フォンッ!
飾りつけられたガラス玉の中に
様々な色のまばゆい光が灯って行く。
真っ暗だった森が明るく輝き、とても幻想的だ。
これは複数の魔法と魔術を組み合わせたもので
例えば“祈り”とか“希望”は単体の白魔法。
“星々は今宵輝く”などの詠唱が少し長くて
魔石とかを魔法陣に投げ入れて発動するのが魔術だ。
「レオもこれ出来るのー?」
「こんなの絶対に無理だよ。舌噛むし」
だけど少しは魔術の勉強もしてみようかと思った。
俺にもいつか出来るようになるだろうか...
「はい。これでおしまい」
来年はもっと省エネ化して夜通し付けると意気込む。
その顔はいつもの優しい母の顔に戻っていた。
「冷える前に戻りましょうか」
「温かいドラゴンティーでも入れますね」
魔力が強く、術を解いた後もチラチラと光が残る。
その輝きはゆっくりと薄れてゆき
最後には静寂と暗闇だけが残されていた。




