36.破壊と再生。
宿を出て西の森へ。
早朝の森は少し霧がかかっていて
空気がひんやりとしている。
昨日買った朝食のサンドウィッチを頬張りながら
俺達は脚を休めることなく草原まで向かった。
「この辺りだったような...」
「レオ!草原が見えて来たよ〜!」
少し前を歩いているカレンが嬉しそうに声をあげる。
彼女をガッカリさせたくないから
本当はポッカリ草原を通りたくなかったのだが
この道が一番の近道なので仕方がない。
どんな顔をするだろう...
「きゃわぁ〜モリジカいるいる〜!」
モリジカがいる!?.....というか草原まで元通りだ。
あれから一ヶ月もたっていないというのに
草は膝丈まで青々と茂っていた。
「早かったわね」
井戸の所でブルームが手を振っている。
ここまで迎えに来てくれたのだ。
「ひさしぶり。待っててくれたの?」
「それもあるし、そもそもここは私の庭なのよ」
井戸があったり手入れがちゃんとされていたのは
ブルームが管理している場所だからだった。
(でもどうやって...毒も残ってなさそうだ...)
毒の撒かれた付近の草を
モリジカがモリモリ食べている。
「コレを使ったの」
ブルームが手の平に乗せた小さな種を見せてくれた。
“ポイズナ”という草の種で、大地に広がった毒を
吸い上げて葉に取り込む特性があるらしく
何回か種を蒔いては草を刈ることで
毒を完全に“ろ過”したのだという。
「でもそれって...なんとなく気付いてはいたけど...」
「そう。私は植物の成長を操る事が出来る精霊」
「まあ、精々ツボミまでが限度だけど」
蔓を長く伸ばしたり、枝を無数に生やしたり出来るが
そこから花を咲かせたり種子を作るのは
別の精霊のスキルなのだと言う。
「その精霊さんにもあってみたいな〜!」
「え...?別に構いませんけど。知人なので。」
(知人って...その二人が揃ったら最強なコンビだよな)
「それと、ここには魔獣除けに結界を張っているの」
「だからこうやって動物が集まって来るのよね」
この前の奴はそれを破ったらしく
近くにいた彼女が気付いて助けに来てくれたのだ。
「ところでレオナルド」
「あの娘はなぜアレに乗っているのかしら...」
「え?ブルームは乗らないの?」
パカパッカ...パカパッカ...
「当たり前よ!」
「雄のモリジカなんて普通ムリだし」
「試そうなんて思いもしないわ」
たしかに精霊と動物は仲が良いけれど
それとコレとは話が違うらしい。
「天然...なのかしらね.....」
大きく一周回ってカレンが戻ってきた。
「ブルー!この子が乗せてくれるって!」
「い、いいわよっ!別にっ」
なんだか少しビビってる様子。
ブルームがこんな顔をするなんて
モリジカにトラウマでもあるのだろうか?
パカパッカ...パカパッカ...パカパッカ...
無事に合流して少し休憩もとれたから
そろそろブルームの案内で研究所へと向かう。
相変らず上手に乗りこなし後ろを付いて来るカレン。
ブルームが“なんで連れて来るのよ”って顔をしてるけど
荷物も乗せてくれているから俺的には助かる。
「ねえブルー?」
「何かしら?」
「カレンはね、ブルーのこと大好きだよっ!」
突然変なことを言い出すカレン。
“好き”とストレートに言えるのって凄いなぁ.....
じゃなくて、少し馴れ馴れしくはないか!?
「こらカレン。“ブルームさん”だぞ!」
「命の恩人(精霊)なんだからちゃんと呼びなさい」
人見知りしなくなったのは良いけれど
礼儀はちゃんと教えないとね。
「ああ、それは構わないわ」
「キミも堅苦しく呼ぶことないんだから」
「私も好きよ。カレン」
戦いの時とは違う優しい笑顔でそう応える。
(あれ...?なんだこの俺が入る隙がない会話は...)
そんなこんなしてる間に
俺とカレンと “ブルー” の三人は
西ノ森野生植物研究所にたどり着いたのだった。




