↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/156

25.いるはずのないもの。

一泊して朝。


今日は一気に森の外にある村まで行き

冒険者用のシャトル馬車に乗って街に帰る予定だ。

他の冒険者達も先日の雨で大多数が離脱したのか

森の中には静けさが漂っている。


「もう帰っちゃうのかー」

ウェザーはつまらなそうに呟(つぶや)いた。


でも初めてにしては上出来だったと思う。

彼女は魔法を色々と覚えたし

俺も少しだけだけど強くなった気がする。


「また来ればいいさ。.......ん?」

「・・・・・・・」


無言で立ち止まるウェザー。

何故か剣を握ろうか躊躇(ちゅうちょ)する仕草を見せたが

俺はすぐにその意味を理解した。


木立の中に光る赤く大きな瞳。

吐息が空振となって身体の芯に響き渡る。

これは.....


「逃げるぞウェザー!!」


反転して全力で来た道を戻る。

村とは逆方向だがそれでも構わない。


(.....こんな奴は相手にしちゃいけない)

とにかく逃げた。

少しでも遠くへ行かなくてはならない。


間違いなくこれは低級とかじゃない。

中の上、もしくはそれ以上だ。

初心者向けの討伐になど居るはずがない。

上級者向けのダンジョンとかでならわかるが...


(息が苦しい...ターゲットから外れない...)


草原にまで戻って来た。

羽を休めていた鳥達が一斉に飛び立つ。

追いつかれた俺達はそいつと対峙した。


翼の無い竜 “リザードファフニール”


低身中型だが脚はとても早く、強い毒を持つ。

しかも執着心がもの凄く強くて

獲物なら何処までも追いかけて捉(とら)えるらしい。

...........つまりは戦うしかない状況だ。


左右に分かれて間合いを取る。

隙を突いてなんとか逃げる事が出来れば十分。

ウェザーに合図し、俺が先に仕掛ける。


ヴァルァァァッ!ゴォゥゥゥゥ!

ヒットしたが親指一つ切り落としたに過ぎない。

弱る事なく反撃を返してくる。

足場が悪いおかげで攻撃が外れたが

悪条件は此方(こちら)とて同じだ。


ピノラッドのように草に隠れながら背後に近づく。

幸い音には鈍感であるらしく

視界から外れるとキョロキョロと探している。


苛立(いらだ)った竜が草原に毒を吹きかけると

みるみるうちに草は枯れてしまい丸裸になった。


もう一度大きく息を吸って毒を吐こうとする。

今度は俺に向かってだ。

(マズイ...ミスったか...)


「ホワールウインドッ!」

その時、俺の周りに旋風(せんぷう)が巻き起こった。

ウェザーの新しい魔法だろうか。

毒を蹴散らすようにつむじ風は消えた。


グルリと大きくターンすると

今度は魔法を放った彼女めがけて走り出す。


次の瞬間.....




小さな身体は高く空を舞った。


俺の前にトスンと落ちた彼女はそのまま動かない。


頭の中が真っ白になる。


何が起こったのだろう。


その間にも竜はゆっくりと向かってくる。


どうしたらいい?




すごく怖くて。

とても悔(くや)しくて。

あまりにも情けなくて。

堪(こら)えきれないほど悲しくて。




(まだ名前だって...)

(名前だって付けてあげてないじゃないか!!!)




俺はなんて無力で馬鹿なのだろう。


体中の血がスゥっと引いていく。


これがきっと“絶望”というものなのだと思った。



「にげ....」


ウェザーが意識を取り戻し、力無くそう口にしたが

間合いなく近づいた敵に対して

俺にはもう彼女を抱きしめることしか出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。