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104.ターニングポイント。

翌日の朝。


一泊したカーラは朝食を食べたあと

バイトに行くからと荷物をまとめて帰った。

俺は寝袋で寝たせいか節々が痛い。


コンコンコン...


玄関の扉をノックする音。

きっとあの子が来たのだろう。


「いらっしゃい」

「今日からよろしくお願いします」


ピンと立ったフサフサで大きな耳と

肩まで伸ばした艶々の黒髪。

年相応なあどけない色白の顔をしているけれど

落ち着きがあって礼儀正しい。


「ヨツ〜!待ってたよ〜(ギュゥ...)」

「カレン様おひさしぶりです」


部屋に入って毛皮の厚いコートを脱ぐ。

ちょっと大袈裟なくらいの厚着だけれど

南国育ちだから寒く感じるのだろう。

そう、この子はミトの双子の妹ヨツである。




この前の長い手紙。

母親のシャノさんからのお礼状だが

一つ頼み事が書かれていた。


“ヨツがアカデミーに入学するのですが”

“心配なので時々面倒を見ていただけたらと...”


アカデミーは他の街にも何校か存在するが

ウィンザー家のお膝元なだけあって

ここの校舎は比較的新しく規模も大きい。

訓練施設や講師陣もかなり豪華だったりする。


ヨツにはどうしても専攻したい学科があり

わざわざ遠いこの学校を選んだそうだ。

(俺は制服が格好良いからって理由だったけど)


それと家探しを手伝って欲しいとの相談も。

一応寮も併設されているけれど

部屋数が限られているから必ず抽選になる。


彼女は願書の提出自体が遅かったから

抽選にも参加できなかったし

部屋探しも難航していた。

この時期の家賃設定はどこも割高だ。


だからロフトを綺麗に改装して

一緒に住むことに決めたのだ。

俺にとってもその方が都合が良いし。


...というのも、前回のアップデート。

運営から次期システムの仕様変更が発表され

その中でも一番話題になったのが


“同一世帯の相互利用”


面倒な手続きが必要だけれど

同じ家に居住していると証明できれば

ガチャで手に入れたモノの共有が可能になる。

もちろん精霊や魔獣、魔物も。


以前からこの要望は多かった。

ケニーの時みたいに魔力供給源がいなくなると

魔術家電があっても動かせない状態に陥るのだが

一緒に暮らす家族間では特に深刻な問題だ。


コト...「はい。温かい飲み物をどうぞ」


引っ越したら住所変更が必要。

だからヨツがここを居住地に登録すれば

同一世帯として申請が通るはずだ。


「ありがとうございます」

「ふぁ...美味しい」


GCS Ver3.0への大型アップデートは明日。

前回のようにバグが起こる可能性があるから

俺は伯父の屋敷で様子を見てからにする。


それにしてもあれだけ過保護なシャノさんが

ヨツの進学を許すなんて意外だ。


「ケモミミ族の女は強いので」

「可愛い女の子には旅をさせよって言いますし」


昔は狩も女性達だけでしていたから

女の子の教育は幼少期から厳しいそうだ。

男は家を守るのが仕事なのだとか。

(だから男の子には甘いんだな...)


「イト兄様がお勉強を見てくれたり」

「ミトちゃんはニト兄様にべったりだったけど」


ギリギリ推薦が通ったのは

彼女の成績がとても優秀だったからだ。

育てる兄が違うだけでこうも差が...


「でもニト兄様のおかげなんですよ」

「私なかなか言い出せなくて...」


優秀なだけあって彼女が抜ければ

コテージの運営に影響が出る事は間違いない。


願書の提出期限が迫るなか

家の都合であきらめようとしていた時に

ニトが“旅に出る宣言”をしたのだ。


「兄様カッコいいなって初めて思いました」

「私も一歩踏み出さなきゃって」


ダメ兄貴の方に感化されたらしい。

でも丁度良いタイミングだったのだろう。


一連の流れで貧乏クジを引いたのはミト。

大好きな兄は冒険の旅に出ていき

頼りになる妹も離れてしまった。


(コテージの将来もニトに押し付けられていたし...)

彼女の心労は計り知れない。


「そうなんです。ミトちゃんには反対されて...」

「きっとまだ怒ってると思います」


なんだか大変そうだけど

結束力の強い一族だから大丈夫だと思う。

ヨツだってすごく悩んだ末の決断なのだから

そのうちミトも理解してくれるはずだ。


「部屋はそこを上がったとこだよ」

「.....うわぁ!すごく可愛くてピカピカですね」


改装したロフトを気に入ってくれた。

さっそく寝床のハンモックを設置したヨツ。

午後には入学手続きも無事に済ませて

彼女の新しい生活が始まった。

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