The Sixth Day「破壊の記憶・少女編」
それが始まった。ワタシの断末魔が声を得る前に断末魔に捕食されて行く、声の無い苦しみがワタシの涙声として場を演出する。
白き者が、シロのワタシを埋め尽くそうとしている。存在意義を自己的な挿入への飢餓で書き換えてしまおうとしている。
ワタシのシロは、今ここに終わりを告げたばかりなのに、ワタシと白き翼が透明な空気を泳ぐ永遠の契りを結ぼうとした、その瞬間、だったのに。
シロノワタシは要らないんだ、私は無色な私がいい、シロノワタシは、その存在があまりに悲しいから。
だが、彼らはシロノワタシへの介入を辞めようとはしない。当然だ、彼らは男性であり、精子なのだから。
そしてワタシは、精子を選ぶ事を赦されなかった、卵子なのだから。
彼らがワタシの全身を滑らかに愛撫する。彼らの作ったワタシと言う人幻想の出来をもう一度確認する様に、丹念に、無造作に。
彼らは、精液の事など理解しないワタシを熟知している彼らは、一体ワタシをどうするのだろう。
ワタシが彼らを受け止め抱く、愛する肉体の言葉無き愛を持たぬ事を、今一度感覚に擦り込ませる程に、絶望的に理解した後。
絶望した彼らは、やはりワタシを殺すのだろうか。それとも…ワタシの翼を奪うのだろうか。
翼、彼を…ワタシの目、ワタシの光明、ワタシの代弁者、ワタシの存在意義に成ってくれようとした…彼を?
そんな事は、どうしても赦せなかった。そしてそれを赦せない自分は、殺されたくなかった。
ワタシが死ぬのは構わない、ワタシは元々有ってはならない存在だ、いや、存在していたくない、無色の自由な私、を得られないのであれば。
だが、自分が生きた証を、陽光満ちる生命の正しさの中に、記憶させておく事を望む私。
優しさを口移し、
愛を体中に流し、
そして涙を全て飲み込み彼と一つの天使に成ろうとした、
心の底から自分を女性だと信じ切れた、
幸福な、
人としての、
恋する少女としての、
視線の遥かに揺ぎ無い暖かさを夢見る、
未来の新たなる、母としての、私。
その私は、今ここに確かに存在する。
だからワタシは、そんな満ち足りた、
世界を信頼し、彼と共にある自分を誇り、
今ここに居る、今ここにしか居ない、今ここに居る事でしか、輝けない、
私に、この時、この場所に、大きく、何よりも大きく、
その両手を届かないはずがない空へ向かって広げさせてあげたい、
そして、
「あなたにはいつでも、いつまでも、天使のような笑顔で、笑っていて欲しい」
から、
私は今だけでも、その天使のような笑顔で笑えるといいな。




