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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第四章

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会合


 いつからアマリは心の病気になっていたんだろう。

 どうして私は気付けなかったのかな?

 私がネズミに変化するたびに、アマリはきっと苦しんでたんだ。


「ジャスミン、お前のせいじゃない。考えるな」


「カイド……」


「後ろを振り返っても苦しいだけだ。ジャスミン、前に進むしかない」


「シリウス……」


「ほら、腹が減っただろう? もう昼なのに、朝飯もまだなんだから」


「むむ……」


「ほら、今日のデザートは、ジャスミンの好きなアップルパイだ。よかったな」


「むむ……って、私はそんなに食いしん坊じゃないよ!」


「……」


 なんで二人して黙り込むかな。

 ベッドの右と左に別れて座るカイドとシリウスをそれぞれ睨みつける。


「いつの間に、二人は仲良しになったの?」


「いや、仲良くはないぞ」


 って、二人声を揃えて否定するし。十分仲良しだよ。

 そもそもレディの寝室に入ってくるなんて、失礼じゃない?


「ミザールとヴィーは?」


「……今はちょっと二人とも、席を外している」


「……そっか。忙しいんだね。じゃあ、お腹すいたからご飯食べる」


 お行儀悪いけど、カイドが差し出してくれてるトレイを受け取って、膝の上にのせる。

 別に病気や怪我をしてるわけじゃないんだけどね。

 みんな心配性だから、あれから私はベッドの中。


「……あんまり見られてると、食べにくいよ」


「そうか? まあ、気にするな」


「ジャスミン、おかわりは?」


「パンならもう少し食べられるかも……。あっ、でもアップルパイもあるし、やっぱりいいよ」


 カイドとシリウスがお母さん鳥みたいに色々世話を焼いてくれるから、ちょっと恥ずかしい。

 だから、おかわりするのは遠慮して、アップルパイに手を伸ばす。

 その時、ドアが勢いよく開いて、ファドがにぎやかに入って来た。


「おっ、姫! 元気になったみたいだな!」


「ファド、せめてノックはしようよ」


「そうだよ。失礼だよ」


 呆れた様子でリオトとメラクが続いて入って来た。それにお兄様も。


「妹の寝室にこうもズカズカと入りこまれて、兄として僕は黙っているべきじゃないよね……」


 お兄様が何かぶつぶつ呟いてるけど、ファドは聞いていないみたい。

 アップルパイを食べかけてる私を見て、ニカッて笑った。


「やっぱり、姫は俺と結婚するべきだな。ワシとハクチョウってお似合いだろ?」


「いや、全然」


 シリウスとカイドが声を揃えて返す。

 うん、やっぱり二人は仲良しだ。

 しかもファドのお腹をお兄様の拳が、背中をリオトの右足が命中してる。

 うん、どうやらこの二人も仲良くなりそう。

 メラクは一人、困り顔で立ってる。その顔もかわいいなあ、もう。


 昨日のあの時――窓から飛び出した私は、シリウスを潰しちゃうと思った瞬間、ハクチョウの姿に変化したんだ。

 それでも上手く飛べなくて、結局シリウスの背中に落ちちゃったんだけど。

 それからのことはよく覚えていない。かすかにアマリの叫び声が聞こえたような気がしただけ。


「ワシの姿に変化しても、ジャスミンの助けに間に合わなかったんだから、本当に使えないよね、ファドって」


「うるせえ! そういうリオトは扉の前で焦ってただけじゃねえか。俺が窓から侵入してカギを開けてやったんだろ? 感謝しろよ」


「確かに、侵入だよね。いきなり裸の男が窓から入ってくるなんて、女官長もそりゃ驚いて失神するよ」


「メラク」


 カイドの低い声に、メラクがはっと口をつぐんだ。

 いいのに、気を使ってくれなくても。


「大丈夫だよ、メラク」


 気まずそうにするメラクににっこり笑って、アップルパイをもうひとかじり。

 うん、このアップルパイは本当に美味しい。美味しすぎて、涙が出ちゃいそうだよ。


「ご飯をちゃんと食べられたみたいで良かったよ。もし食欲がないなら、ビスケットだけでもと思って持って来たんだけどね」


 いつもとかわらないリオトの優しい声に素敵な言葉。

 ホントだ! ビスケットだ!

 でも今はアップルパイを食べたから……でも……そうだ!


「ちょっと待って」


 全部食べ終えたトレイをカイドが受け取ってくれる。

 そして、お布団をすっぽりかぶってごそごそ。

 別に見られててもいいんだけど、なんとなく恥ずかしいっていうか。


「あ、久しぶりだね」


「うん!」


 ネズミの姿になってお布団から出る。

 リオトはにっこり笑ってくれたけど、メラクは不思議そうな顔をした。


「急にどうしたの?」


「今はお腹いっぱいだから。ビスケットはあとで食べようと思って」


 むふふふ。名案だよ。

 リオトが差し出してくれるビスケットを受け取って、頬袋にしまう。

 ふむむ? 二枚しか入らない。……頑張れば、もう一枚はいけるかな。


「……ジャスミン、顔が台形になってるぞ」


「変わらないな、ジャスミン。以前はそれで、隠れ家から出られなくなったよな」


「ああ、シリウス王もご存じだったか……。僕が知っているのは、隠れ家に入れなくなった、ってことだけど」


「というか、みんなが知ってるなら、隠れ家じゃなくね?」


 もう、みんな黙っててほしいな。失礼なことばっかりだよ。

 非常食っていうのはすごく大切なんだから。


「ふぁたしのことふぁ、いいの! ふぉれひょり、ふぁなしをしないと!」


「うん、そうだね。じゃあ、ジャスミンも元気になったみたいだし、あっちで話そうか」


 リオトが頷いて、居間に向かう。

 だから私もベッドから飛び降りて、ぽてぽて歩いてついて行った。

 みんなも後から来たけど、なんで笑ってるのかな。

 まったく、男の人ってほんと失礼しちゃうよ。


「ミザールとヴィーは、アマリと一緒にいるの?」


 居間に集まったみんなの顔を見まわしての質問。

 うん。ちょっと動いたから、ビスケットがいい位置に収まったよ。

 みんなは私の質問に一瞬沈黙して、カイドが頷いて応えてくれた。


「女官長は明日、南神殿に移送されることになった」


「南神殿……旅の終着点だね」


「そうだな」


 世界中を旅して回ったら、アマリに会えるかな?

 ちゃんと世界中に恵みを与えることができたら、また優しい顔で笑ってくれるかな?

 胸を張って、私はお母様の娘なんだよって言おう。きっと、アマリも喜んでくれるはず。


 それからは、中止になってしまった旅立ちについての話し合い。

 結局、明後日出発しようって相談して決める。

 もう私は大丈夫だからって、ちょっと強引に言い張った。

 だって、くよくよしてられないもん。世界中を旅して回るんだから。


「あのね、ジャスミン……」


 決意を新たにしてたら、メラクが何か言いにくそうに口を開いた。


「どうしたの、メラク?」


「……ボクね、さっきまで森に住むウサギの長老に会っていたんだ」


「ウサギの長老? ローランに?」


「うん、そう。長老はもう二十年も生きてるからね」


「そうそう。もうあんまり目も見えないから、お散歩もしないんだよねえ。元気だった?」


「お元気だったよ。それで……聞いたんだ、十七年前のことを」


「十七年前?」


「うん。……彼女の言うことは支離滅裂だから。それで……王妃様とジャンガ王国の王子のことを聞いたんだ」




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