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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第三章

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告白


「カイドは……私と結婚するの?」


「それは――」

「はんたーい! 絶対、反対!! 姫は俺と――ッ!?」


「ファドはいい加減うるいのよ!」


「うん。もう、うるさいを超えて、ウザイよね」


 ヴィーの隣に座ってたファドが大きな音と一緒に視界から消えちゃった。

 けど、それはまあいいや。

 今度こそちゃんと、カイドの返事を聞かないと。

 カイドは一度大きく息を吐いてから優しく笑いかけてくれた。


「ジャスミンが嫌なら、無理に婚姻を結ぶ必要はない。だから気負う必要はないんだ」


「でも……カイドは嫌じゃないの? 私が結婚したいって言ったら、するの?」


「ああ。私は全く嫌じゃないからな。ジャスミンの望みが私の望みでもあるんだ」


「そっか……」


 冷静に答えたつもりだけど、変じゃなかったかな?

 ほっぺたはすごく熱いし、心臓はうるさいよ。

 だって、結婚って、キ、キスしたり、一緒のお布団で寝たりするんだよね?

 それって、すごくドキドキしちゃうよ。

 カイドは私のこと好きなのかな? 結婚したいくらい?


 あれ? でも好きとは言ってないよね? 嫌じゃないってだけで……。

 うむむむ。

 そうだよ。結婚は本当に好き合ってる人同士がしないとダメなんだよ。


「……ジャスミン?」


「え?」


 呼びかけられて慌てて顔を上げたら、みんなが見ててビックリ。

 いけない。今は大切な会議中だったのに、全然お話聞いてなかったよ。


「あのね、今は“恵みの種”の話をしていたのよ」


「恵みの種?」


「ええ、ジャスミンが産まれた時に、その手に握っていた女神様の証」


 ミザールの言葉に、何かが胸につっかえる。

 なんだろう。モヤモヤしてきた。


「私は一度しか見たことはないけれど、とても小さな星だったよ」


「……星?」


「そう、七色に輝く星だ」


 お兄さんから「小さな星」と聞いて、思い浮かんだのは星の形をしたあの石。

 もらった時には、すごく嬉しかったんだよね。

 って、やっぱり違うな。うん、あれじゃないよ。


 思い出せそうで、思い出せない。頭の中がグルグルしてる。

 お腹の中もグルグルしてる。どうやら消化中みたい。


「……女官長が言うには、種はジャスミンが……」


 ふむむむ。頭がいっぱいでもう考えられない。お腹もいっぱいですごく眠い。

 でも大切なお話なんだから、寝ちゃダメ……。

 シトシト降る雨は、まるでお空が泣いてるみたい。


 そう。私もあの時、泣いてたんだ。

 遠くに行っちゃうって聞いて、お別れするのが悲しくて。

 ポロポロこぼれる涙を、あの子がぺろって舐めてくれて。

 それから……それで……ん? んん? あれ? って……。



「チュ、チュウーッ!?」


「うん。かわいい鳴き声だね」


 がばっと起き上がったら、リオトの笑いを含んだ声が聞こえた。

 あれれ?

 みんなと会議をしてたはずなのに、いつの間に長椅子で寝てたんだろう。

 ううん、それよりも大変な夢を見てしまった気がする。


「ジャスミン、大丈夫か?」


 うむむと考えてたら、カイドもみんなもジッと私を見てた。

 それがなんだか恥ずかしくて、ちゃんと目を合わせられない。


「……ジャスミン?」


「わ、私……大丈夫なの! でも今はダメなの!!」


 心配そうに立ち上がったカイドに驚いて、私は部屋から飛び出した。

 だって、カイドは鋭いから、頭の中を見透かされそうで。

 これはたぶん、運動不足で欲求不満なんだよ。

 きっといっぱい走れば大丈夫。


「ジャスミン!」


 お部屋まで走って戻ろうとしたけど、あっという間に捕まっちゃった。

 カイドは走るの早すぎだよ。


「ジャスミン、急にどうしたんだ?」


「私、やっぱりカイドと結婚できない」


「……なぜ?」


 だって、別の人とキスする夢を見るなんて、いけないことだよ。浮気だもん。

 そう言おうと思って見上げたら、カイドの雰囲気が変わってて、思わず私は後ろに下がった。

 でもすぐに壁にぶつかって行き止まり。


「け、結婚は……好き合った人同士がするんだよ」


「……ジャスミンは、私のことが好きじゃない?」


「う、ううん。大好きだよ。でも、カイドは――」


 言いかけた私の口を、カイドの大きな手が塞ぐ。

 いつものカイドじゃないみたいで、ちょっと怖い。


「私は、ジャスミンが好きだ。初めは使命でしかなかったこの気持ちも、今は本物だとはっきり言える。だが……」


 カイドはビックリする私の口から手をどけて、ゆっくり顔を近付けてきた。

 どうしたらいいのかわからなくて、ぎゅって目をつぶった私の唇に、カイドの息がかかる。

 キ、キスするのかな?

 このままだと心臓が破裂しちゃうよ。


「……今はまだ、ここまででいい。あと少し、この距離をジャスミンが無くしてくれるのを待っているから」


 耳に心地良い低い声。

 そろそろと目を開けたら、カイドの澄んだ蒼い瞳がすぐ近くにあった。

 だけどそれは、触れられそうで触れられない距離。

 それから急に体を起こしたカイドは、私に背中を向けて少し離れた。


「焦りすぎたな……」


「え?」


「いや……みんなきっと心配してるだろうから、ひとまず部屋に戻ろう」


「……うん」


 カイドは何か呟いたけど、私にはよく聞こえなかった。

 それでも振り向いた時の優しい笑顔にホッとする。

 心臓はまだバクバクしてるし、頭の中はグルグルしてて、胸がギュって苦しい。

 でもやっぱり私は、カイドのことが大好きなんだ。




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