告白
「カイドは……私と結婚するの?」
「それは――」
「はんたーい! 絶対、反対!! 姫は俺と――ッ!?」
「ファドはいい加減うるいのよ!」
「うん。もう、うるさいを超えて、ウザイよね」
ヴィーの隣に座ってたファドが大きな音と一緒に視界から消えちゃった。
けど、それはまあいいや。
今度こそちゃんと、カイドの返事を聞かないと。
カイドは一度大きく息を吐いてから優しく笑いかけてくれた。
「ジャスミンが嫌なら、無理に婚姻を結ぶ必要はない。だから気負う必要はないんだ」
「でも……カイドは嫌じゃないの? 私が結婚したいって言ったら、するの?」
「ああ。私は全く嫌じゃないからな。ジャスミンの望みが私の望みでもあるんだ」
「そっか……」
冷静に答えたつもりだけど、変じゃなかったかな?
ほっぺたはすごく熱いし、心臓はうるさいよ。
だって、結婚って、キ、キスしたり、一緒のお布団で寝たりするんだよね?
それって、すごくドキドキしちゃうよ。
カイドは私のこと好きなのかな? 結婚したいくらい?
あれ? でも好きとは言ってないよね? 嫌じゃないってだけで……。
うむむむ。
そうだよ。結婚は本当に好き合ってる人同士がしないとダメなんだよ。
「……ジャスミン?」
「え?」
呼びかけられて慌てて顔を上げたら、みんなが見ててビックリ。
いけない。今は大切な会議中だったのに、全然お話聞いてなかったよ。
「あのね、今は“恵みの種”の話をしていたのよ」
「恵みの種?」
「ええ、ジャスミンが産まれた時に、その手に握っていた女神様の証」
ミザールの言葉に、何かが胸につっかえる。
なんだろう。モヤモヤしてきた。
「私は一度しか見たことはないけれど、とても小さな星だったよ」
「……星?」
「そう、七色に輝く星だ」
お兄さんから「小さな星」と聞いて、思い浮かんだのは星の形をしたあの石。
もらった時には、すごく嬉しかったんだよね。
って、やっぱり違うな。うん、あれじゃないよ。
思い出せそうで、思い出せない。頭の中がグルグルしてる。
お腹の中もグルグルしてる。どうやら消化中みたい。
「……女官長が言うには、種はジャスミンが……」
ふむむむ。頭がいっぱいでもう考えられない。お腹もいっぱいですごく眠い。
でも大切なお話なんだから、寝ちゃダメ……。
シトシト降る雨は、まるでお空が泣いてるみたい。
そう。私もあの時、泣いてたんだ。
遠くに行っちゃうって聞いて、お別れするのが悲しくて。
ポロポロこぼれる涙を、あの子がぺろって舐めてくれて。
それから……それで……ん? んん? あれ? って……。
「チュ、チュウーッ!?」
「うん。かわいい鳴き声だね」
がばっと起き上がったら、リオトの笑いを含んだ声が聞こえた。
あれれ?
みんなと会議をしてたはずなのに、いつの間に長椅子で寝てたんだろう。
ううん、それよりも大変な夢を見てしまった気がする。
「ジャスミン、大丈夫か?」
うむむと考えてたら、カイドもみんなもジッと私を見てた。
それがなんだか恥ずかしくて、ちゃんと目を合わせられない。
「……ジャスミン?」
「わ、私……大丈夫なの! でも今はダメなの!!」
心配そうに立ち上がったカイドに驚いて、私は部屋から飛び出した。
だって、カイドは鋭いから、頭の中を見透かされそうで。
これはたぶん、運動不足で欲求不満なんだよ。
きっといっぱい走れば大丈夫。
「ジャスミン!」
お部屋まで走って戻ろうとしたけど、あっという間に捕まっちゃった。
カイドは走るの早すぎだよ。
「ジャスミン、急にどうしたんだ?」
「私、やっぱりカイドと結婚できない」
「……なぜ?」
だって、別の人とキスする夢を見るなんて、いけないことだよ。浮気だもん。
そう言おうと思って見上げたら、カイドの雰囲気が変わってて、思わず私は後ろに下がった。
でもすぐに壁にぶつかって行き止まり。
「け、結婚は……好き合った人同士がするんだよ」
「……ジャスミンは、私のことが好きじゃない?」
「う、ううん。大好きだよ。でも、カイドは――」
言いかけた私の口を、カイドの大きな手が塞ぐ。
いつものカイドじゃないみたいで、ちょっと怖い。
「私は、ジャスミンが好きだ。初めは使命でしかなかったこの気持ちも、今は本物だとはっきり言える。だが……」
カイドはビックリする私の口から手をどけて、ゆっくり顔を近付けてきた。
どうしたらいいのかわからなくて、ぎゅって目をつぶった私の唇に、カイドの息がかかる。
キ、キスするのかな?
このままだと心臓が破裂しちゃうよ。
「……今はまだ、ここまででいい。あと少し、この距離をジャスミンが無くしてくれるのを待っているから」
耳に心地良い低い声。
そろそろと目を開けたら、カイドの澄んだ蒼い瞳がすぐ近くにあった。
だけどそれは、触れられそうで触れられない距離。
それから急に体を起こしたカイドは、私に背中を向けて少し離れた。
「焦りすぎたな……」
「え?」
「いや……みんなきっと心配してるだろうから、ひとまず部屋に戻ろう」
「……うん」
カイドは何か呟いたけど、私にはよく聞こえなかった。
それでも振り向いた時の優しい笑顔にホッとする。
心臓はまだバクバクしてるし、頭の中はグルグルしてて、胸がギュって苦しい。
でもやっぱり私は、カイドのことが大好きなんだ。




