帰国
「ねえ、本当にこっちは三人でいいのかな? あっちは四人だと狭くないかな?」
「いいのよ、ジャスミンは気にしなくても」
「そうですわ。男性と一緒に乗ると、車内がむさ苦しくなりますもの」
「そ、そう?」
うーん。なんていうか、ミザールとヴィーって男の人が嫌いなのかな?
それにしては、みんなとっても仲良しに見えるし、よくわかんないなあ。
ふむむと考えながら、クッションを何個か重ねて踏み台にすると、走り出した馬車の窓からお外をのぞいた。
物語に出てくるような、豪華な馬車はとっても素敵だけど、こっちはミザールとヴィーとネズミの私。
あっちはカイドとリオトとファドとメルクの四人。
なんだか申し訳ないよね。車内は広いけど、ファドの体は特に大きいし。
でもメルクはやっぱり可愛かった。
背はヴィーと同じくらいで、柔らかそうな淡い金色の髪に真っ黒の大きな瞳。
そのコントラストが魅力的で、思わずまた「可愛い!」って叫んで、傷付けちゃったみたい。うん、反省。
男の人に可愛いは、あんまり言っちゃダメだって聞いたことあったのに。
しばらく窓の外をのぞいていたら、馬車のスピードが落ちてきた。
するといきなりヴィーに後ろから抱っこされて、お外見学は中止。
ヴィーもミザールもお外の気配に集中してる。
慌てて私もと思ったら、馬車の扉がノックされてビックリ。
スピードは遅いけど、まだ走ってるのに。
ミザールがお外の誰かとお話して、扉にある小さい板を少しだけ開けた。
それから折りたたまれた紙を受け取って、すぐに開いて見てる。
読み終わると、ミザールは小さな紙をヴィーに渡して、私に真剣な顔を向けた。
何かあったのかな?
不安になってきた私に、ミザールはゆっくり説明してくれた。
「これからジャスミンは、私達と一緒にひとまず聖城の隣にある神殿に向かうことになったの」
「神殿? じゃあ、そこで私の家族に会えるの?……お父さんやお母さん、お兄さんと?」
なんだかすごくドキドキしてきた。
だけどミザールは、少し困ったように微笑んだ。
「ジャスミン、あのね……。残念ながら、ジャスミンのお母様はずっと前にお亡くなりになってしまったの」
「……そうなんだ」
お母さんのこともまだ思い出せないけど、やっぱりすごく悲しい。
きっとこの世界の家族にいっぱい心配かけてるはずだから、ちゃんと謝ろうと思ってたのに。
しょんぼりした私を励ますように、ヴィーが優しく背中を撫でてくれた。
ヴィーはとってもいい匂いで、ちょっとだけ元気が出てきた。
「神殿はジャスミンが生まれ育った場所ですのよ。それにジャスミンの養育係でもある女官長はお母君の従姉で幼馴染でもあったんですって。きっと今頃は、首を長くしてジャスミンの帰りを待っていると思うわ」
「……女官長?」
「ええ。もちろん他にも、馴染み深い方がいらっしゃると思うわ」
なんだろう。急に胸がぎゅってしてきた。
大切なことを忘れてて、それがすごく悲しくて苦しい。
お母さんのことかな? 女官長さんに会えば、思い出せるのかな?
そう思うと、すごく緊張する。
ううん、大丈夫。ミザールは一緒にって言ってたもん。
みんながいてくれたら頑張れる。
思い出せなくても大丈夫。思い出しても大丈夫。
大切なことならきっと……きっと……って、そうだ! 思い出した!
もう一つ大切なことがあった!
「ねえねえ! 騎士さんって六人なの?」
「……いいえ、もう一人いるわ」
「やっぱり!」
そうだよね、伝説では七人だったはずだもん。
でもなんだろう? ミザールもヴィーもどこか様子が変。
うむむ、と考えて思い当った。
パントレ国のお城では、みんな揃ってから出発って言ってたのに、私が飛び出しちゃったから、まさか置いてけぼりにしちゃった!?
これは大変って慌てたけど違ったみたい。
「……もう一人の騎士は、神殿で待っているのよ」
「神殿で?」
「ええ」
「なんだ、そっか……」
ほっと一安心した私に、ミザールは続けて教えてくれた。
「あのね、ジャスミン。もう一人の騎士は……ディオサ聖国のメグレズ王子、ジャスミンのお兄さんなの」
「私のお兄さん?」
ど、どうしよう? それはとっても予想外。
やっぱり緊張してきた。
今さらだけど、王子様がお兄さんなんて、すごくない?
前世のお兄ちゃんも優しくて大好きだったけど、私の前でも平気でおならするんだよ。失礼しちゃうよね。
そこでハッと気が付いた。
「私、ネズミだけどいいのかな?」
もう五日も人間になってないし、このままずっとネズミだったら?
それでも私は平気だけど、妹がネズミっていうのは受け入れられるかな?
ああ、せめて森で砂浴びしとけばよかったなあ。
身だしなみは大切なのに。
「あら、それは大丈夫ですわ。メグレズ王子も神殿の方達も、この可愛い姿はよく知っているはずですもの」
「もちろんそうよ。ネズミに変化したジャスミンの噂は私達もよく聞いたのよ。メグレズ殿はもっと色々知っているでしょうね」
「そ、そうだったね……」
ふむむむ。
ヴィーとミザールが優しく答えてくれたから安心はできたけど、今度は恥ずかしくなってきた。
なんとか名誉挽回しなくちゃ。
うん、ダイエットも勉強も頑張って、おしとやかに、落ち着いて行動する。
そうだ、前にも決意したんだから。
絶対、目指せ! 素敵なお姫様!!




