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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第二章
21/51

大人


 うーん。どうしようかなあ。


 結局、お昼過ぎにはネズミの姿に戻った私は、ソファの上でゴロゴロ転がりながら悩んでいた。

 みんなはまた大切な会議があるらしくって、今回はリオトの部屋でお留守番。

 このお部屋を出てからまだたったの二日なのに、もういっぱい散らかってる。

 食べ残しの食器はさっきリオトが自分で片付けてくれたけど、やっぱり臭いし。

 それでも落ち着くなあって感じちゃう私はかなりやばい気がするよ。


 で、なんだっけ? えーっと、そうそう。

 人間に変身する時、どうしようって悩んでたんだ。

 一応はムズムズって前兆はあるんだけど、着替えがない時だったら困るよねぇ。

 スッポンポンなんだもん。

 早く自分の意思で変身できるようにならないとなあ。


 うむむむ。

 ソファに置きっぱなしになってたシーツに包まって、ちらりとテーブルの上を見る。

 いいアイデアが浮かばないのは、お腹がすいてるからかも。

 それで集中できないんだよ。

 だって、目の前にはリオトが置いていってくれたビスケットがあるんだもん。


 ダイエットのことは誰にも内緒だから、お昼寝前には毎日ビスケットを用意してくれる。

 昨日とその前の日は、小鳥さん達にあげたんだけど、今日は雨だからみんないないし。

 このまま置いてたら、湿気ちゃって美味しくなくなっちゃうんじゃないかな?

 それはもったいないよねぇ。


 よし、もったいないから食べちゃおう。

 きっと一日くらいなら大丈夫だよ。

 あとでちゃんと運動すればいいんだし。


 自慢の毛はペッタリしちゃってるけど、気分は上昇。

 ご機嫌でビスケットに前足を伸ばした。

 ビスケットは全部で三つ。

 まずはひとかじり。


 いやーん! 超おいしい!!

 このサクサク感がたまらないよね。

 やっぱり湿気ちゃう前に食べて正解だよ。

 ウットリ幸せに浸って一個目を食べ、二個目をつかむ。

 その時、リオトが帰ってくる気配がした。


 たいへん!! 

 ダイエット中なのにって笑われちゃうかも!!


 焦って混乱した私は慌ててビスケットを隠した。

 そこにドアが開いたけど、もう大丈夫。

 何もなかったフリをすればいいんだもんね。


「……ジャスミン、どうしたの?」


 ううん、何でもない、何でもない。

 ビスケットなんて食べてないもん。

 首をどうにか振って答えたのに、リオトは不思議そうな顔をした。


「でも、すごく頬が膨らんでいるよ?」


 はむむ!?

 頬袋に隠したのがばれちゃった!?

 違うの! これはビスケットじゃなくて、大切な物なの!!

 言葉にして伝えることはできなかったけど、リオトはちゃんと理解してくれた。


「ああ、大切な物を隠したの?」


 うんうん!

 ほっぺたを両前足で押さえて大きく頷くと、リオトはクルリと回ってドアへと向いた。


「じゃあ、僕はしばらく部屋から出ているから、その間に別の場所に隠したらいいよ」


 そう言ってリオトは一旦部屋から出て行ってくれた。

 今のうちに、急いでビスケットを食べないと。


 どうにか残りの二つを食べ終えて、お水を飲む。

 ふう、やれやれ。

 ゆっくり味わうことはできなかったけど、それでもすごく美味しかった。

 二日ぶりの幸せを満喫していると、ドアのすぐ向こうでリオトの声がした。


「ジャスミン、もういいかな?」


「うん! もういいよ!」


 ここはリオトの部屋なのに、気を使わせて悪いことしちゃったな。

 今更ながら申し訳ない気持ちでいっぱいになったけど、戻ってきたリオトは気にした様子もなく笑ってた。


「ビスケットはおいしかった?」


「うん、すごく!」


「そう、良かったね」


「うん、ありがとう!」


 リオトって本当に優しくて気配り上手だなあ。

 これが大人の余裕なのかも。

 よし、私も頑張って、素敵な大人になろう。

 って、あれ? そういえば……。


「ねえ、リオト」


「なんだい?」


「リオトは何歳なの?」


「ああ、そうか。僕はね、二十歳だよ」


「じゃあ、やっぱり大人なんだね!」


「大人? 成人という意味なら十六歳からだから、ジャスミンもだよ」


「そうなの?」


「そうだよ。ちなみに、兄さんは二十一歳で姉さんが二十四歳。ファドが二十六歳だね」


「へ~!」


 みんな大人だなあ。

 それに十六歳で成人なんて、すごいよ。

 あ、でも確か、前世でも女の子は十六歳から結婚できたような……。

 ん? 結婚?


 えーっと、なんだっけ?

 何か忘れてる気がするけど、まあいいか。

 大切なことならまた思い出すよね。

 なんて考えてたら、リオトが何か思い出したみたいに話を続けた。


「ああ、そうそう。それでね、さっき報せが届いたんだけど、あと二人の騎士が明後日には到着するそうだよ。それをジャスミンに伝えに来たんだ。まあ、雨が苦手なあの子は予定より遅れるかも知れないけどね」


「あの子? 残りの騎士さんってどんな人達なの?」


「んー、少し変わっているから説明するのは難しいな。とにかく会えばわかるよ」


「え~」


 なんだかすごく気になっちゃうよ。

 リオトに変わってるって言われるなんて、よっぽどなのかもしれない。

 よし、ファドの時みたいにパニックにならないように心構えしておかなきゃ。

 今度こそ落ち着いて、お姫様らしくするんだ。

 だって、もう私は大人なんだからね!




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