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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第二章

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侍女


「ジャスミン様、お手伝いさせて頂くことはございませんか?」


「うん、大丈夫! ありがとう!」


 侍女のエナはとっても親切。

 本当はミザール付きの侍女さんなんだけど、一昨日から色々と私のお世話をしてくれてる。

 この可愛い髪型だって、さっきエナに結ってもらったんだよね。

 クルクルって巻いて、フワフワって持ち上げて綺麗なピンで留めてるんだ。


 それでこうやってお裁縫してると、すごく女の子らしい気分。

 手芸は私の数少ない特技なんだよね。

 一番得意なのはかぎ針で作る編みぐるみだけど、刺繍も好き。

 まあ、今はグッドアイデアな変身グッズを作ってるんだけど。

 エナは側に座って綺麗なお花の刺繍をしてる。


「あの……差し出がましいことをお伺い致しますが……」


「うん、なに?」


 遠慮がちに言うエナに応えたけど、なんだか自分が偉そうで嫌だな。

 でも敬語はやめて欲しいってお願いしたら、全力で断られちゃった。

 だから私も敬語は使えないけどなるべく丁寧に話そうとしたら、全力で嫌がられちゃった。

 難しいね、色々と。


「ジャスミン様は……ベネト様のことを、どのように思われているのでしょうか?」


「ベネト?」


 って、誰だっけ?

 聞き慣れない名前に一瞬混乱したけど、カイドのことだってどうにか思い出した。

 そうだ。小鳥さん達やお城の人達はカイドのことをベネトって呼んでるんだった。

 で、エナの質問はカイドのことをどう思ってるかだよね。

 そんなの簡単。


「とっても良い人!」


 大きくて温かくて優しくて、すごく安心できる私の大好きな人。

 もちろん、リオトもミザールも大好き。ファドもまあ、好き。

 みんなのことを考えるだけで、勝手にニコニコ笑顔になっちゃうよ。


「……さようでございますか」


 私の返事を聞いたエナは頷いて、ニッコリ微笑み返してくれた。

 なんでそんなことを訊いてきたのかはわからないけど、まあいいか。

 エナは手元に視線を戻したし、私もあと少しで仕上がるから頑張ろうっと。



   * * *



「よし、完成!」


 むふふ。これでとっさの時の変身も大丈夫。

 名付けて変身ブランケット!

 ムズムズしてきたら、これをかぶって変身すればいいんだよ。


 そうすればスッポンポンでもすぐにこれを巻き付けて、着替えを準備すればいいからね。

 普段は小さく折りたたんで縫い付けた紐で結んで、お部屋から出る時にはリュックみたいに背負えばバッチリ。

 ちょっと動きにくいかもだけど、なんとかなるよね。


「エナ、お裁縫道具を貸してくれて、ありがとう」


「いいえ、お役に立ててようございました」


 エナはニッコリ微笑んでお裁縫道具を片付けに部屋から出て行った。

 刺繍はレディのたしなみの一つなんだって。

 これはラッキーだよね。エナがしてたステッチはちょっと難しそうだったけど、たぶんすぐに覚えられると思うし。

 そういえば、毛糸ってあるのかな? また編みぐるみも作りたいなあ。

 かぎ針がなかったら指編みでもいいよねえ。


 ウキウキ気分で窓からお外を眺める。

 雨は昨日の夜のうちにやんで、今日はとってもいいお天気。

 うーん。久しぶりにお外で遊びたいなあ。

 でもワガママは言わないって決めたから、我慢しよう。

 それにもうすぐお昼ご飯だしね。




     * * *




 みんなでお昼ご飯を食べたあとに、ネズミに戻った私はたっぷりお昼寝をした。

 だから夕方には気持ちよく目が覚めて、のんびり大あくび。

 でもお城全体が少し騒がしいことに気付いて、クッションから顔を出した。


 なんだろう?

 ちょっと気になりつつ、お腹がすいたなあって考えてたら、エナがどこか慌てた様子でお部屋に入って来た。


「ジャスミン様、騎士様のお二人が到着されました。お会いする前にお姿を整えさせて下さいませ」


「うん、わかった」


 騎士さん二人が着いたから、お城も賑やかなんだね。

 ソファからえいっと飛び降りて、エナが待つハンカチの小部屋へと入る。

 そこで自分がネズミだったことを思い出した。


 あ、姿を整えるって毛づくろいくらいだよね?

 それなら自分で出来るよって言おうと思って振り向いたら、居間へのドアがバタンと閉じられた。

 なんだか急に不安になって見上げると、エナはすごく怖い顔で私を睨んでた。

 ついさっきまでニッコリ微笑んでたのに。


「ネズミだなんて、本当に汚らわしい!」


 私に向かって吐き捨てられた言葉。

 優しかったエナが別人になったみたいで信じられない。

 本能が危険を告げてるのに、また金縛りになって動けない。

 だんだん近付いてくるエナの目はとても冷たいのにギラギラしてる。


「卑しいネズミが女神様のわけないじゃない。それなのに、ベネト様やリオト様に取り入って忌々しいったら。しかも、ミザール様のお心まで惑わすなんて、絶対に許せないわ!」


 足はガクガクして動けなかったけど、伸ばされてきた手にはどうにか噛みついた。

 だけど小さく呻いたエナがすぐに手を払いのけたから、私は激しく床に叩きつけられてしまった。

 頭はガンガンするし、体も痛くて動けないよ。


「汚らわしいネズミなんて、オオカミにいたぶられて殺されてしまえばいいのよ」


 意識は朦朧としてたけど、エナが大きな袋を持っているのは見えた。

 もしかして、あの中に詰め込まれちゃうのかもしれない。

 なんとか逃げなきゃって頑張って体を動かしたのに、エナが私のおひげを掴んで引っ張り上げた。


 痛い! 痛いよ!


 あまりにも痛くて、声さえも出ない。

 もうダメ。もうムリだよ。




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