ゴブリン その2
「弟子にするか。」
ベルフェルのその一言で――
空気が止まりました。
ショウタが叫びます。
「いやいやいや!!」
サヨも目をぱちぱち。
「ゴブリンがパン屋さんになるの!?」
小ゴブリンたちは顔を見合わせています。
「パ、パン……?」
ベルフェルは真面目でした。
「盗むより焼いたほうがいい。」
エリシアが腕を組みます。
「理論は正しいですね。」
魔王までうなずきました。
「働くのはよいことだ。」
ショウタが頭を抱えます。
「なんでみんな乗り気なんだよ!」
しかし――
ゴブリン将軍は怒っていました。
「フザケルナ。」
ドォン!!
巨大な足で地面を踏み鳴らします。
「ゴブリンハ奪ウ者ダ!」
小ゴブリンたちはびくっと震えました。
将軍は斧を持ち上げます。
「弱イヤツハ価値ガナイ!」
その言葉に、
リーダーゴブリンは悔しそうに歯を食いしばりました。
「……。」
ピースケは静かに将軍を見つめます。
「本当にそうでしょうか。」
将軍がにらみ返しました。
「ナニ?」
ピースケは穏やかな声で続けます。
「誰かを傷つける強さだけが、価値ではありませんよ。」
風が吹きます。
将軍は鼻を鳴らしました。
「キレイ事ダ。」
すると。
ベルフェルが前へ出ます。
「なら勝負するか。」
ショウタが振り向きました。
「えっ。」
ベルフェルは真顔です。
「パン勝負だ。」
「パン勝負ぉ!?」
将軍も固まります。
「……ハ?」
ベルフェルは腕を組みました。
「うまいパンを作れた側が正しい。」
ショウタが頭を抱えました。
「なんでこの世界、最終的にパンで解決しようとするんだよ!!」
しかし。
小ゴブリンたちの目はキラキラしていました。
「パン勝負……!」
「熱イ!」
「燃エル!」
サヨはなぜか応援モードです。
「がんばれー!」
将軍はしばらく黙っていましたが――
ニヤリ。
「……面白イ。」
巨大な斧を肩へ担ぎます。
「受ケテ立ツ。」
こうして。
なぜか――
“第一回ゴブリン・パン対決”が始まったのでした。
場所は『ベーカリー・ヘルズゲート』前。
村人たちも集まり、大騒ぎです。
「なんだあれ。」 「ゴブリンいるぞ。」 「パン対決?」
ショウタが遠い目をします。
「オレも意味わかんない。」
ベルフェルチーム。
メンバー: ベルフェル、小ゴブリン5匹、ピースケ補助。
将軍チーム。
メンバー: ゴブリン将軍ひとり。
「一人!?」
将軍は胸を張ります。
「強者ハ単独!」
「パン作りにその理論ある!?」
勝負開始。
ベルフェルたちは生地をこね始めました。
小ゴブリンたちも一生懸命。
「コネコネ!」
「粉飛ンダ!」
「目ニ入ッタ!」
めちゃくちゃですが楽しそうです。
一方。
将軍。
ドン!!
力任せに生地を叩きます。
ドゴン!!
台が壊れました。
ショウタが叫びます。
「パン作り向いてねぇ!!」
魔王が真顔で分析します。
「火力タイプだな。」
サヨは笑い転げています。
やがて――
焼き上がり。
ベルフェルチームは、
ふわふわ野菜パン。
いい香り。
一方、将軍チーム。
黒い。
めちゃくちゃ黒い。
煙も出ています。
エリシアが静かに言いました。
「炭ですね。」
「パンダ!!」
将軍は汗だくでした。
「ナゼダァァ!!」
審査員は村人たち。
そしてピースケ。
村人たちはベルフェルチームのパンを食べ――
「おいしい!」 「ふわふわ!」 「また食べたい!」
大好評。
一方、将軍パン。
「苦い!!」 「かたい!!」 「武器!?」
ショウタが吹き出しました。
「武器パンはダメだろ!」
結果。
圧勝。
小ゴブリンたちは飛び跳ねました。
「勝ッタァ!!」
ベルフェルも少し満足そうです。
将軍は呆然としていました。
「……負ケタ。」
リーダーゴブリンは、震えながら前へ出ます。
「将軍。」
「……。」
「オレタチ、盗ムヨリ、作ル方ガ楽シイ。」
夕日が村を赤く染めていました。
将軍は長い沈黙のあと――
ぼそっと言います。
「……パン、難シイ。」
ショウタが笑いました。
「そこかよ!」
すると。
サヨが笑顔でパンを差し出します。
「一緒に食べよ!」
将軍は驚いた顔をしました。
でも。
恐る恐る、一口。
もぐ。
「……。」
全員が見守ります。
将軍はしばらく黙っていましたが――
小さくつぶやきました。
「……ウマイ。」
その瞬間。
小ゴブリンたちが大歓声。
「将軍ガ食ベタ!!」
ベルフェルは静かに言いました。
「ようこそパンの道へ。」
ショウタが叫びます。
「宗教みたいに言うな!!」
夕焼け空の下。
巨大ゴブリン将軍は、
ちょっと焦げたパンをもぐもぐ食べながら、
人生について少し考え始めていました。
どうやら今日もまた――
ピースケたちは、誰かの“新しい道”を運んだようでした。




