賢者の埋蔵金 その20
ぽわぁぁぁ……。
ピースケのリュックが、
やさしく光っています。
しかも。
ふわぁぁ……っと、
ものすごくいい匂い。
シチュー。
焼きたてパン。
ちょっとハーブ。
寒い日に帰宅した瞬間みたいな匂い。
白もふ、即反応。
『ごはん!!!』
黒いヒヨコも目きらきら。
『いい匂いですぅ!!』
巨大猫ですら起きました。
『……強い』
ショウタが後ずさります。
「やばい……なんか本能が引き寄せられる……」
トンネル博士もふらふら。
「す、少しだけなら……」
エルドランが慌てて杖を振りました。
『近づきすぎるなー!!』
しかし遅かった。
ピースケのリュック、
ぱかっ。
中から、
小さな銀色の鍋が飛び出します。
ころん。
地面へ着地。
そして。
ぷくぷくぷく……。
勝手にシチューを煮込み始めました。
ショウタ絶叫。
「自動調理ぃぃ!!」
鍋は小さい。
でも。
香りだけで空気が変わる。
時霧の谷にいた時計妖精たちが、
一斉に振り向きました。
『……ごはん?』
ダイチモグラも鼻をひくひく。
巨大亀まで目を細めます。
『懐かしい匂いだ』
エルドラン、頭抱え。
『だから封印したのにぃ……』
サヨが笑いをこらえています。
「賢者さま、ほんと何やってたの……」
すると。
鍋のフタが、
カタカタ動き始めました。
カタ。
カタカタ。
ショウタが青ざめます。
「なんか出る!?」
ぽんっ!!
フタが開き、
湯気が空へ舞い上がります。
そしてその湯気が、
空に巨大な文字を作りました。
《みんなで食べよう》
静寂。
ショウタ。
「メッセージ性が強い!」
その瞬間――
谷のあちこちから、
人影が集まり始めます。
時計妖精。
旅人。
迷子のコンパスたち。
どこから来たのか分からない鳥。
さらには。
前に会った冒険者たちまで。
『なんかいい匂いがして……』
『気づいたら来てた』
ショウタ半泣き。
「磁力か!?」
夜の龍が空から見下ろしました。
『集マッテイル』
クロックがモノクルを確認。
『空間越しに匂いが届いてます』
「シチューで!?」
白もふはもう座っています。
『いただきます!』
「早い!」
しかしそのとき。
鍋の火が、
ぼぅっと青く変わりました。
エルドランの顔色が変わります。
『まずい』
巨大亀も低くうなります。
『……腹が減り始めたか』
ショウタ、停止。
「え?」
エルドランが青ざめました。
『永遠のシチューは、“食べる人が多いほど大きくなる”』
静寂。
ショウタ。
「……はい?」
次の瞬間――
ゴォォォォ!!
鍋、巨大化。
直径1m。
3m。
5m。
どんどん大きくなる。
白もふ歓喜。
『夢!!』
ショウタ絶叫。
「違う違う違う!!」
さらに。
谷じゅうから人が集まってきます。
『いい匂いー!』
『ちょっと一口だけ!』
『三杯目ください!』
鍋、さらに巨大化。
ドゴォォン!!
ついに、
“家サイズ”になりました。
シチューが波みたいに揺れています。
サヨが叫びます。
「止まらない!」
エルドランが震え声。
『このままだと……』
巨大亀が真顔で続けました。
『世界中が鍋を囲み始める』




