雲竜 その6
ドクン。
空そのものが脈打ちました。
黒い穴がゆっくり開いていきます。
まるで巨大な口。
雲が吸い込まれ、
風が悲鳴を上げていました。
ゴォォォォ……。
サヨが震えます。
「空が……食べられてる……」
雲竜は完全に険しい顔。
『本体が目覚めた。』
ショウタが叫びます。
「今までの前座で空崩壊しかけてたの!?!?」
黒い穴の奥。
そこにいたのは――
“形が定まらない巨大存在”。
見るたびに姿が変わる。
龍。
鳥。
嵐。
闇。
空そのものみたいな怪物。
ショウタは顔を引きつらせました。
「情報量が多い!!」
その存在は、
ゆっくりピースケの風を見つめます。
そして――
『ナゼ、消エナイ』
風の中から、
ピースケの声が返りました。
『消えないですよぉ。』
『風ですからぁ。』
その瞬間。
空喰い本体が、
初めて“怒り”を見せました。
ゴォォォォォ!!
黒い波動が空全体へ広がります。
空島のいくつかが、
一気に崩れ始めました。
サヨが叫びます。
「島が落ちる!!」
山神が踏ん張ります。
『支えきれぬ!!』
雲竜も苦しそう。
『空の循環が壊される!』
ショウタが頭を抱えます。
「どうすりゃいいんだよぉぉ!!」
そのとき。
ミニピースケ軍団が、
なぜか円陣を組みました。
『会議ですぅ!』
『本体ピンチですぅ!』
『朝ごはん不足ですぅ!』
「最後やめろ!!」
でも。
一羽のミニピースケが、
ふっと空を見上げます。
『……でもですねぇ。』
『風って、一羽じゃないですぅ。』
静寂。
サヨが目を開きました。
「……あ。」
次の瞬間――
世界中の風が、
動き始めました。
山の風。
海の風。
森を抜ける風。
村を通る風。
全部が、
空へ向かって集まり始めます。
ゴォォォォ!!
ショウタが吹き飛ばされそうになります。
「うわぁぁぁ!!」
雲竜が震え声で言いました。
『空の風脈が……全部つながっている!?』
風の中から、
ピースケの声。
『空って、みんなで流れてるんですねぇ。』
その瞬間――
無数の風が、
巨大な“翼”の形を作りました。
空そのものより大きい翼。
サヨが涙目で見上げます。
「きれい……」
空喰い本体が初めて後退しました。
『理解不能』
『危険』
ショウタが叫びます。
「今さら危険認定!?!」
ピースケの声は、
もう空全体から聞こえてきます。
『食べるだけだと、空っぽになりますよぉ。』
『風は、流れるから続くんですぅ。』
そして――
巨大な風の翼が羽ばたきました。
バサァァァァァッ!!
世界中の風が、
一斉に空喰いへ吹き込んでいきます。
黒い侵食が揺らぎました。
空が、
少しだけ青さを取り戻します。
ショウタが叫びました。
「押してる!! 押してるぞぉぉ!!」
しかし。
その代わりに、
ピースケの声が少しずつ遠くなっていきました。
サヨの顔が青ざめます。
「……ピースケ?」
返事が、
少し遅れます。
『……だいじょうぶですよぉ。』
でも。
その声は、
風に溶けかけていました。




