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罪を歩く旅を知らぬ者  作者: 小夜 新成
ファストボーン編
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第9話 ロックタートル



 切り替えるように溜息を落した俺は、剣を引き抜いた。


「さっき言ったこと、思い出して頑張れ。もしだめだったら、私がすぐに首を切り落とすから安心して」

「頑張れよ、兄ちゃん!」

 俺は剣を握り直し、亀獣を目指して歩き始める。


 能力の使い方は、道中にルフィアから教わっていた。

 感覚的な言葉が多く、あまり理解が出来なかったが、「使ってみれば分かる」と締めくくられたがな……。

 普通、何もないところで試さねえか?

 そんな文句が浮かんだ頃に、亀獣の側までやってきてしまった。


 伸びた頭がゆっくりと俺に向くと、瞬時に手足を甲羅に隠して防御態勢に入る亀獣。

 ルフィアの言う通り、防御力を生かしたカウンターが狙いのようだ。

 とは言え、そう長くは待ってくれない。

 甲羅の側に立った俺は早々に剣を構え、深呼吸。後方で、ルフィアが短剣を抜く音が微かに響く。


 いや、自分に集中だ。


 瞳を閉ざした俺は、体内に溜め込んだオドを探る。

『心臓の熱を感じたら、一番認識しやすい防具に流し込むイメージね』

 俺の場合だと、ガントレットに巻き付いた角が持って来いだ。

(心臓の熱……心臓の熱……)

 この間に噛まれたらバキバキだ。

 無駄な思考が意識を妨げ、掌にじわっと汗が滲んだ。


(オド……白い靄……熱……)

 連想でイメージを固めていると、心臓付近に煙のような淡い熱を感じとった。

(これを腕に……腕に……)

 その途端、体内の煙が暴れ出し、額の石へと強引に吸い寄せられた。

(なんだっ!?)

 次の瞬間、熱は腕へと瞬時に移動。

(きたっ!!)

 勢いよく瞼を持ち上げた俺は、剣を振り上げ、全力で振り下ろした。


『キンッ!!』

 コアの感触に触れた直後。

『ドォオオンッ!!』

 衝撃の波が大気を伝い、強風が発生。

 舞い上がった草や砂埃が俺の視界を遮る。


 砂埃に襲われた俺は、瞼を閉じて咳き込んでいると、背から二人の足音が迫った。

「おい、兄ちゃん! やべえって!」

「なに……その力……」

 二人の声で、薄く瞼を持ち上げる。その途端、俺は目を見開いた。

「これ……俺がやったんだよな?」


 蒼い瞳に映った光景。それは、俺を起点に扇状に浅く抉れた草原だ。

「すげえ威力だったぞ! ほら、ロックタートルも一瞬で素材だ!」

 興奮するシスリーは、元気に素材化した甲羅の一部を拾い上げた。だが、ルフィアは俺と共に動揺が溢れ出している。


「つ、強くね? この能力……」

 必死に冷静を装おうとするが、あまりの威力に手の震えが収まらない。

「ありえない威力じゃないけど、オドの量と明らかに釣り合ってない……」

 すると、ルフィアが思い出したように、慌てて俺の頭を掴んだ。


「さっき、おでこ光ってた。ノイル? ねえ、なんで」

 ルフィアの異常な取り乱し様。俺の額の布をやけくそに外そうとする。だが、俺は必死に抗った。

 よくない物だと思ったからだ。

「おい、やめろっ——」

 その時、ルフィアの指が黒い布に引っかかり、俺の頭からさらりと解けた。


 額の白い石が露出。

 その途端、ルフィアの瞳孔が開き、震えた息を呑んだ。

「なんで、能石が……」

「これはっ、その……」

 心拍数が上がり、言葉が喉元に引っかかる。

「ねえ、誰にやられたのっ! ノイル!」

 目を血走らせ、声を荒げる。俺は、咄嗟にルフィアの肩に両手を置いた。


「ちょっと落ち着け。 説明するから、な?」

 俺達のやり取りを不安気に眺めるシスリー。

「おい、どうしたんだよ?」

「シスリー、ちょっと待っててくれ」

 呼吸が乱れるルフィアに視線を戻した俺は、大粒の唾を飲み、説明を始めた。


「この石は一年前に目を覚ました時、白い男に埋め込まれたんだ」

 俺の発言に、短く息を飲むルフィア。

 おそらく、何か知っているのだろう。

「悪い奴かはわからなかったけど、役に立つ力だって言ってた」

 震えが収まったルフィアは、薄い声を落とす。


「白で間違いないのね?」

 俺は静かに頷く。

「他には何か言われた?」

 顎に手を添え、瞳を閉ざして記憶を辿る。

「確か……山頂を目指せ——終わらせよう。って言ってたと思う」

 その言葉に、ルフィアはほっとしたように長い溜息を落とした。


「体に異常はない? 自我を失ったり、何か強い目的があったり」

「いや、特にないな。強いて言うなら……山頂に行きたいって思うくらいだな」

「おい、兄ちゃん。それは俺もだぜ?」

 シスリーが退屈そうに口を挟む。

「大事な話だから静かにしてなさい!」

 舌を打ち鳴らす音が鼓膜に触れる。

 シスリーは過酷な環境で育ったのだ、仕方ない。怒るなよ、俺。


 そんなことを考えていると、視線を落とし、頭を悩ましていたルフィアが俺の目を見つめた。

「とりあえずは、問題なさそう。多分」

 冷や汗が引いたルフィアは、そっと黒い布を差し出す。

 多分、かよ……。安心していいのか?

 受け取った俺は石を隠すように、慣れた手つきで額に巻いた。

「この石は何なんだ? 白い男も知ってんのか?」

 空を確認したルフィアは、ざっくりと説明を始めた。


「その石は能獣が持ってる能石とほとんど一緒。だけど、人間の場合、何かしらの能力が備わるの。その代わりに、自我を失ったり、何かの衝動が抑えられなくなったりするんだけど、稀に適合する人もいる。だとしても、一貫して体に能獣のような特徴が出たりするんだけど……」

 そう言って、ルフィアは俺の体をじっくりと観察した。

 恥ずかしいので辞めてもらいたい。


「ちょっと、服脱いで」

「脱げるか!」

 間髪入れずに断ると、ルフィアは首を傾げた。

「いや、おかしいのはあなたですよ! まあ、そこは心配しなくても大丈夫だ。俺の体のことは俺が一番よく知ってる。何もなってない。嘘じゃねえ」

 目を細めて疑うルフィア。その眼差しは下半身に集中する。


「おい、獣呼ばわりはやめろ……」

 すると、シスリーが食いついた。

「おっ! 兄ちゃんもかっこいいの持ってんのか?」

「かっこいいは知らねえ物差しだよ」

 やれやれ、と溜息を落とした俺は話を戻した。

「で、白い男は何者なんだ?」

「敵じゃない」

 その一言で説明が終わった。

 これもまた、何か言えない事情があるのだろう。

 気になるが、これ以上聞いても詳しく教えてくれない。だが、敵じゃないのなら一安心だ。


「何にせよ、無事ならいいの。能力だけが反映されてるみたいだから、むしろ好都合。白の男には感謝しないとね」

 肝心なことを聞き忘れていた。

「ちなみに、この能石は何の能力だ?」

「多分、能力の効果を増加する類だと思う」

「え、強くね?」

「万能ね」

 その言葉で俺の口角はグッと持ち上がった。


「おい兄ちゃん。その、気色悪い面はやめてくれ。なんか、不愉快」

「不愉快……」

 ニヤけただけなのに、心がダメージを負った。

「姉ちゃん! 話が済んだなら、俺の腕を見てくれよ!」

「そうね、行こ」

 俺の傷つく様に満足気なルフィアは、シスリーと共に歩き始めた。


 ロックタートルよ、君の能力で俺の心を固めてくれ。

 そんなことを考えながら、二人の背をとぼとぼと追った。




——




「何かいるかな」

 シスリーの腕を見定めるため、手頃な能獣を探して草原を踏み進める俺達。

 オドをまだ持たないシスリーの、単純な弓の力だけで討伐できる能獣となると、かなり絞られてしまう。


「あいつじゃダメなのか?」

 シスリーが空を指差して、何かを追うように指を動かす。だが、俺には認識できない。

「どれだ? 何もいねえぞ?」

「兄ちゃん、目が腐ってんじゃねえのか? よく見てみろ。あそこに鳥が飛んでるだろ?」

 目を細めて、シスリーの指差す先を追う。


「うわっ、見つけた! おい、あんなのよく見えたな。視力どうなってんだよ」

 空を飛び回る小鳥のような能獣。その体は半透明になっており、微かな輪郭だけが羽ばたいている。

 獣人は嗅覚と聴覚が鋭いとは聞いていたが、シスリーは視力までいいとは驚きだ。


「私もそんなに鬼じゃない。もう少し簡単なのにしよ」

 既に気づいていたルフィアだが、早々に別の能獣を探し始める。

 なんで二人とも普通に見えてんだよ。俺、視力には自信があったんだけどな……。

 目に自信を失いかけた時、シスリーの声が落ちた。

「なら、あの鳥貫いたら認めろよ」

 俺達は咄嗟に視線を飛ばす。


 シスリーは静かに弓を構え、腰元の矢を装填。力強く弦が引かれ、静寂の中にミチミチッと張り詰めた音だけが響く。

 小鳥の輪郭を追うように狙いを定める。

 紫紺の眼光が鋭く輝いた——次の瞬間。

『シュンッ!』

 矢が凄まじい速度で射出された直後。

『キンッ!』

 空中に甲高い音が弾けた。

「マジかよ……」

「嘘でしょ……」

 シスリーが放った矢は、見事にコアを貫いたのだ。


 オドは瞬時にシスリーへと吸い込まれ、空からは一枚の白い羽がひらひらと舞い降りた。

 羽を摘まみ上げたシスリーは、呆然と固まる俺達に満面の笑みを向けた。

「このくらい楽勝だぜ!」

 俺はルフィアと驚きの顔を見合わせる。

 あまりの凄技に、思わず笑いが込み上げた。


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