竜宮城
カタカタという規則的な揺れと音で目が覚めた。
私用の馬車は片側がベンチ型、もう片側が小さなベッド型に変形するようになっていて、今はそちらに寝かされていたみたいだ。
「お嬢様、お加減はいかがでしょう、おつらくはありませんか?」
向かいにミリーナさんがいてお水を渡してくれた。外からはスポーツ観戦のような熱狂した人々の声がする。
「ん、ありがとう。外、すごい声。街中かな」
「王都にはいったのですわ。殿下は民衆に人気のある方ですから……」
カーテンに手を伸ばすとその手をやんわり握られる。
「窓は開けないようにと申しつかっております。カーテンも、そのままに」
「そうなの?」
そんな事、初めて言われたな。
お兄さんもテトも近くにいるなら顔を見たかったのに。
「これからお嬢様の住まう殿下の私邸に参ります。王城の敷地内ですから安全でございますよ。もうすこしでございます。お嬢様はまだお熱がありますから、そのまま横になっていて下さいまし」
お兄さんと会った昨日の夜から熱はどんどん下がってる。
彼の顔を見られるだけで、元気がでる。
何故突き飛ばしたの?とか、私が何か気に触る事をしたの?とかグルグルしていた思考がお兄さんの信じろの一言でクリアになっていく。
お兄さんから話を聞くまでは、考えない。
「お兄さん、具合が悪そうだったの……今朝は、大丈夫だった?」
「ええ、ピンピンしておりますよ」
「よかった」
群衆の声がだんだん遠くなって、何か大きな門が閉じるような引きずる音と共にピタリと喧騒が止んだので、王城に入ったのだとわかった。
降ろされた建物は平安時代のお屋敷を豪華にした竜宮城のような建物で、母屋ではなく離れにあたるようだった。
ミリーナさんが私を軽々抱え上げて、すごく広いお庭に面した離れの部屋に寝かせてくれた。
久しぶりの畳とお布団に、ちょっと落ち着く。
部屋には白地にさまざまな模様の刺繍がされたシンプルな布が目隠しとしてついたて代わりにかけられて、庭からの柔らかい風に揺れている。
「綺麗…………テト!?」
離れと母屋の間の広い庭で、テトがのんびり水を飲んでいる。
お布団から這い出て縁側にでると、私の知るどの縁側よりも広くて靴脱ぎ石まであった。
「テト!テト!!」
呼ぶとテトもこちらに駆け寄ってくる。いつもよりうんとながいスリスリがすごく可愛い。
「テト!心配かけてごめんね、会いにきてくれたの?ありがとう!」
「テルガード達の厩を離れの裏に急遽作っている最中ですわ。ここはテルガード達も自由に行き来出来るようにと殿下がご指示なさいましたの」
「わぁ!すごい!いつもそばにいられるねテト!」
「元々この中庭は玉砂利敷きでしたの。それもお嬢様とテルガードのために土に変えられたのですわ。これから木も植える予定だとか。お嬢様のお好きなお花も植えましょう。天馬は頭が良いので勝手にむしって食べたりはしないでしょう」
「天馬?翼は無さそうだけど、馬じゃないの?」
「魔力で翼を構築するのです。主人の命で必要な時に出すのですわ。馬車を引いていた方は普通の馬です。天馬は数が少ないですし、主従関係も結ぶのが難しい貴重な生き物なのです」
テトまでファンタジーだった!えぇえ……可愛いからいいけど。
「テト、すごいお馬さんだったんだねぇ……」
頭を撫でてやると、クルルと小さく鳴いた。すごく可愛い。




