第三十五話 神星闘気
『マナ!?逃げて!!』
アンドロメダの声が聞こえる。
しかし俺の意識は朦朧としてきていた…。
「な、なんで……。」
そう、意味が分からなかった。
このミストの体はこの世界での攻撃手段、物理と魔法を全て無効化する力を持っていた。
しかし…なぜ目の前にいるこの男、大魔王アストラは俺の土手っ腹に大穴開けることができたんだ…?
それにコイツが纏ってるオーラ…。
これはまるで…勇者の力だ…!
「''なんで?''って顔してんなあ。仕方ねえ教えてやるよ!」
崩れた城に声が響き渡る。
青髪をなびかせた若い男。
見た目だけではチャラい奴に見えるかもしれない。
だがコイツこそ見た目で侮るなを司った敵だろう。直感でわかる、コイツには勝てない…!
「ガハッ…!!」
バタンッ
「じゃ、ジャック!カーフェ!!」
いつのまにか二人が地面へと倒れた。
そこにはアストラが立っている。
怪我しているとはいえあの二人だぞ?
瞬殺ってマジかよ…!
「ん?ああ、すまんすまん。コイツらも半端に意識があったらつれぇだろ?だから今は眠ってもらうのさ。」
クソ…!どれだけ力の差があるんだよ…!
とりあえず俺も回復しろ…!
魔力を削り取られた箇所にもう一度魔力を練り上げて固める。
漏れ出ていた魔力が止まり、体は元の通りとなった。
「はあ…はあ…はあ…。」
「お?自分で治せるのか!すげえじゃん!」
穴が塞がり元通りとなる。
しかし…どんだけ魔力を使わせるつもりだよ…!
体を治すだけなのに今ある大半の魔力を根こそぎごっそりと持っていかれた。
「''魔力生成''…!」
すかさず魔力を生成。アンドロメダと同時に行っているため、みるみるうちに溜まっていくがまだまだ足りない。
「ははは!確かにお前は強いぜ?殴っても効かない、魔法も効かない、相当めんどくせえ相手にはちげえねえ。だが、」
「…?」
アストラが笑い出す。
「''俺以外には''の話だな…!」
アストラの手に先ほどの水色に輝くオーラが集中。
まるで龍のようにうねり、とぐろを巻いている。
「俺の力は俺以外持ってねえ。だからこの世界のヤツらに防ぎようはねえのさ!」
突然、腕をこちらへ向けてくる。
グワオオッ!!
とぐろを巻いていた龍の如きオーラが俺の方へと飛んでくる。
「クソッ!」
咄嗟に空中へと避けて一命を取り留めたが…
避けた先、城の跡がある場所に命中すると、そこはもう、跡形もなくなっていた。
文字通り奴のオーラに触れ消滅してしまったんだ…!
「な、なんだありゃ…」
絶望感が俺を襲う。
なんだよあれ…どうすれば良いんだよ…!
考えろ…逃げ道を探すんだ…!
奴が油断している隙に今逃げるか…!?
いや、奴に油断なんてない。分かるんだ。
アイツは全てを見てる。
俺も、倒れてるジャックとカーフェも、この周辺全てを、だ。
「''神級''!!土+雷!!」
ズガガガガ…!!!
何はともあれ行動だ!
考えてる暇なんかないだろ!
神級魔術で造り上げた土魔術はもはや土ではなく、伝説とされたオリハルコンのように白く輝き、そして最上の守りを授ける一種の簡易的な城と言えるほどのものになっていた。
更にそこに雷魔術を付与。
俺を中心とした周りに鉄壁の電撃要塞が築かれ、天高く建築された。
神級の土魔術、触れたら即死の電撃を纏った壁…!これからそう簡単に手出しは出来ないだろ!!
そのまま上へと急いで飛び、空から逃げるという算段だ。
終わりが見えないほど上空まで建ち続ける要塞の中を飛び続け、ついに宇宙との境界線近くまで来た時、俺は外へと出た。
「よし…成功か…?」
追ってはこない。
しかし魔術に触れた感じもしない。
早く逃げるべきだと悟った俺は、振り返り後ろへと行こうとした。
ズオオオオオオオオオオオ!!!!!
「ッ!?な、なんだ…!!??」
鳴り響く轟音に今一度後ろを振り返る。
「う…うそ、だろ…?」
青く光る一筋の光。
それは宇宙の、銀河の咆哮とも言えるほど美しく、神秘的で、この世の全てがちっぽけなものに見えるほど絶望的だった。
俺の作った魔術の塔はいともあっさり消滅させられてしまったのだ。
「神級魔術か!中々やるじゃないか!」
光の最奥から出てきしは青髪の王。
もはや奴と比べてしまったら何もかもが矮小な存在に見えてしまうのではないか。
「なん…だよ…。なんなんだよお前!!」
「俺は大魔王アストラ。見てくれたか?俺の能力、''神星ノ覇気''を!!」
「っ…くそおおお!!!」
右手に神級の火魔術、左手に雷の魔術を込める。
本来ならば神級魔術など森羅万象を巻き起こすほどの力を持つ文字通り神々の力。
俺の手にそれぞれ宿った二つの魔術は双頭の龍の形へと姿を変えて破壊対象へと牙を剥く。
「死ねえええええ!!!」
カッ………ドゴオオオオオオオオンッ!!!
一線の閃光がアストラへと伸び、空を切り裂いた。
二つの魔術は重なり合い、双頭の龍が大きな口を開けて飲み込もうとしている。
「グオオオオオオ!!!」
「ヒュウッ!おもしれえ!」
対するアストラは終始余裕の表情。
オーラを纏った右手を挙げ、龍へと向ける。
「だが俺には無意味なんだぜェ!!!」
シュウウウウウウ……バゴオオオオン!!!
魔法はアストラに届く前に右手で掻き消され散り散りとなった。
まるで花びらが舞うかのように赤と黄の火花が奴の周りを包み込み、青へと帰されていく。
「そ、そんな…!」
『マナ…戦おうと思っちゃダメだよ…!あれは…あれはヤバい力だ…!!』
アンドロメダが忠告する。
俺だってそんな事は分かってる…。
でも…逃げれないんだよ!!
「俺のこの力、''神星ノ覇気''はな?''神星闘気''っていうエネルギーを創り出す能力だ。このオーラは全てを超越するモノ。よーするに俺の前では全ての事象が無効化されるんだぜ。」
「…んだよそれ。」
もう無理だ…どう足掻いても勝てない。
今まではロックスの時やイタイタスの時はなんとかなった。
だがそれは俺だけじゃなかったからだ。
村長やジャック達がいたからこそ掴めた勝利だ。
しかし今は俺とアンドロメダのみ。
どうやってこんなチート野郎に勝てば良いんだよ…!!
その時、突然俺の体から力が溢れてきた。
「…勇者の力?」
水色に光るオーラ、勇者の力だ。
「お?なんだお前が今は持ってたのか。」
「…?」
「それ、勇者の力はケトスが俺の''神星闘気''を解析するために人間に渡した劣化版なんだぜ。確かホシだっけ?アイツが今んところ一番扱いがうまかったな。」
…勇者の力がアストラの能力の劣化版だと?
なんなんだよそれ…なんなんだ…なんなんだ…!!!
「んじゃ楽しめたし殺すぜ。えーっと…本の虫のマナだったな!お前、強かったぜ!この世界でならうーん…七、八番目ぐらいだな!」
スゥーっとアストラがこちらへと飛んでやってくる。
もう逃げる気力なんかない…まず動けやしない。怖いんだ。俺は…コイツに恐怖してる。
「じゃあなー。」
ヒュンッ
振り下ろされた手刀。
手に纏われた''神星闘気''が流れるように俺の魔力の体を裂いていく。まるでケーキの入刀式のように…綺麗に…真っ二つに……
『マナ…!!マナ…!!』
アンドロメダの声が聞こえる…。
ごめん…あれだけ大見得きったのに…あっさりやられて…。
俺の体は真ん中から真っ二つに切り裂かれ、バラバラとなって宙に漂った。
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