第110話 二人きり
立花は白いモーニングコートを着ていた。
そんな立花に鷹也は笑いながら肩を叩く。
「今日、君ほどめでたいやつが他にいるかよ」
鷹也の後ろには彩が立っており、そんな彼女も立花に声をかけた。
「ウチは三人目だからねぇ。おめでとうって言われてもなんかねぇ」
そう言いながら自分の下腹部をさすった。
「いえいえ。あやかりたいです。早く大きくなぁ〜れ」
立花は、近野の腹に目掛けて魔法をかけるように言った。
そんな立花を近野は笑いながら軽く叩いた。
鷹也の周りには鷹也の家族がいた。
彩はスーツ。鈴もピンク色のドレスを着用し、鷲也も高級スーツを重たそうに着て、何度も尻餅をついていた。
「今日は、オレばかりかウチのチビどもを花束贈呈に招いて頂いて申し訳ない」
「いえいえ。ウチの回りに小さい子供がいないんで助かります」
「まったく、やっぱり君には近野くんを搔っ攫われてしまったな」
「えー。奥さんがいるのにそんなこと言っていいんですか?」
「もちろん、仕事のパートナーとしてだ。近野くん、子どもが出来るまで辞めないでくれよ?」
「いやぁ、どうでしょう。今度の戦場は家庭だと思っておりますよ。私は」
「おいおい」
そんな合間に、鷲也はそこら中を歩き回り、立花の足にからみついていた。それを鈴が迷惑そうに追い回す。
「ちょっと。シューヤ。だめでしょ〜。おにいちゃんのお洋服が汚れるじゃない」
「いやいや、スズちゃん大丈夫だよ」
「でも、おにいちゃん。鼻水がついちゃうよ?」
「え?」
慌てて立花が抱え上げると、両方の穴から鼻水がたれていた。
「うぉぉぉおおおー! あっぶね〜! シューヤくん。ダメだよ〜。この服、借り物だから」
そう言いながら立花は鷹也に鷲也を手渡すと、鷹也は微笑みながら受け取って抱いた。
「もう! おねーちゃんばっかり大変だ。ああ忙しい。ああ忙しい」
鈴はそう言って大変そうに、鷲也の落とした革靴や靴下を集めて揃えていた。
その言い方はシゲルのいい方そっくりで、彩は笑っていた。
「さて。オレたちは向こうで待ってるよ。今日は頑張れよ! お二人さん」
鷹也は家族の背中を押して控え室から出て行った。
「よろしくお願いします」
立花が丁寧にドアに向かってお辞儀をしたが、その突き出したお尻側に近野はペタリと触った。
「い……ッ♡」
「うーん。おにーさん。筋肉質のいいお尻してるね〜」
「やめてよ。誰かに見られたらどうすんの?」
「見られない見られない。だってカズヒサのお尻好きなんだも〜ん」
「だっての意味が分からないでしょ。今から披露宴なのに」
「いーじゃん。いーじゃん。ねぇ。披露宴で飲み過ぎないでよ?」
「まぁ、二次会も友だちが予定してくれてるしね」
「その後よ〜」
「三次会?」
「違う違う。初、夜」
「初夜って……。昨日の晩も一緒にいたのに?」
「初夜でしよーや」
「ナニソレ?」
「面白いでしょ」
どうやらもう近野には、完全に立花しか見えていないようであった。