第4話 無自覚チート発覚!? 浄化魔法の隠された力
翌朝。厨房の片付けと朝食の仕込みを終えた私が、ふと窓から外の訓練場を覗き込むと……そこには目を疑うような光景が広がっていた。
「うおおおおおっ! 力が、力が無限に湧いてくるッス!! どりゃあああああっ!」
ドッガァァァン!!
「……え?」
ザックさんが適当に振り下ろした大剣が、訓練用の巨大な岩を文字通り粉々に粉砕したのである。
え、待って。剣って岩を砕く武器だっけ? 爆弾でも仕込んでた?
「はっはっは! 昨日までの腰の痛みが嘘のように消え失せたぞ! 体が羽のように軽い! これなら素手でドラゴンも倒せそうだぜ!」
「俺の持病だった膝の古傷も全く痛まねえ! 昨日食ったあの美味すぎる肉と米……米っていうんだっけ?、絶対になんかヤバい薬でも入ってたんだ!」
「いや入ってませんよ!? 人聞きの悪いこと言わないでください!」
窓から顔を出してツッコむと、昨日までの死んだ魚のような目はどこへやら、ピッカピカの笑顔を浮かべた強面騎士たちが一斉に私に手を振ってきた。
動きがキレッキレすぎて残像が見える。明らかに昨日とは別次元の身体能力だった。
「一体何がどうなってるんですか……?」
「お前が使った『浄化』スキルの賜物だよ」
背後から突然かけられた低く冷たい声に、私はビクッと肩を震わせた。
振り返ると、兵站担当のゴードンさんと共に、一人の男が立っていた。
漆黒の軍服に身を包み、銀色の髪の間から氷のように冷たく鋭い青い瞳が覗いている。
立っているだけで空気がピリッと張り詰めるような、圧倒的な存在感と威圧感。
「だ、団長! お連れしました! 彼女が昨日、あの奇跡のメシを作ったユイです!」
ゴードンさんが直立不動で敬礼する。
この人が、国境の最前線を束ねる最強の騎士団長、レオンハルト様……!
レオンハルト団長は私を見下ろし、じっと観察するように青い瞳を細めた。
「ユイと言ったな。昨日、魔物肉を調理する際、魔法を使ったか?」
「は、はい! お肉の血抜きと臭み取りのために『浄化』をかけましたけど……何かマズかったですか!?」
まさか、衛生基準違反とかで怒られる!?
怯える私に対し、団長はわずかに目を丸くした。
「……気づいていないのか? 魔物肉には微量の『疲労毒素』が含まれており、それが蓄積することで兵士たちの疲労や能力低下を引き起こしていた。だがお前の『浄化』は、その毒素を完全に消し去っただけではない」
団長は一歩、私に歩み寄った。
「毒素を失った魔物の肉は、純粋な魔力エネルギーの塊となる。お前の浄化と調理技術の掛け合わせが、結果的に兵士たちに極上の『バフ効果』をもたらしたのだ」
「バ、バフ効果……? つまり、身体能力がアップするご飯になったってことですか?」
「アップどころの騒ぎではない。先ほどの状況を見ただろう。古傷は癒え、疲労はゼロになり、身体能力はこれまでの三倍に跳ね上がっている」
えええええっ!?
私の地味な『浄化』スキル、そんなとんでもない隠し効果があったの!?
治癒魔法も使えないポンコツだと王宮を追い出されたのに、実は超優秀なバフ要員だったなんて……!
◇ ◇ ◇
「ユイ。お前はただの料理係ではない。我々紅蓮騎士団にとって、唯一無二の『生命線』だ」
レオンハルト団長は真剣な表情のまま、懐からずっしりと重い皮袋を取り出し、ドンッと調理台に置いた。
中からは、チャリンと澄んだ金貨の音が鳴る。
「今日からお前を、紅蓮騎士団の『専属料理人』として破格の待遇で正式に雇い入れる。給金は言い値で構わない。食材も予算も無制限だ」
「はっ、破格の待遇!? よ、予算無制限!?」
「ああ。金貨でも宝石でも、望むものを与えよう。ただし——」
団長は、スッと私との距離を詰めた。
顔が近い! 冷徹なはずの氷の瞳の奥に、なぜかギラギラとした熱い光が灯っている。
彼は大きな手で私の肩をガシッと掴むと、恐ろしく低い、しかしどこか甘い声で囁いた。
「お前のような規格外の力を持つ者を、他の部隊や、ましてや王宮の連中が放っておくはずがない。今日から俺が、お前の専属護衛につく」
「えっ? 団長自らですか!? そんな、忙しいでしょうに!」
「構わない。お前の身に何かあれば、俺たちの胃袋と命が危ういからな。厨房にいる時も、街へ行く時も、寝食を共にし、一秒たりとも俺の側から離さない」
「いや、寝食を共にはちょっと! 護衛の距離感がおかしいですよ!」
ツッコむ私をよそに、「俺の目の届く範囲に囲っておくのが一番安全だ」と真顔で頷く団長。
こうして私は、超パワーアップした強面騎士たちと、なんだか過保護すぎる最強団長に囲まれ、異世界での『専属料理人』としての生活を本格的にスタートさせることになったのである。




