表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

第2章・第7話 真面目な話

「まあ、久しぶりの感動の再会はここまでにして」

「感動はしていません」

サン・ジェルミの言葉を即座にアイナは否定する。


「うん、本当にここから真面目な話なんだけどね。

どうやら軍部がまた動き出しているらしい」


唐突に話を変えたサン・ジェルミに、兄弟は即座にはついていけなかった。

が、アイナは違っていた。その内容に眉をひそめる。


「執拗にうちを訪れては、軍部へ来いと言っていますが、それだけではなく?」

サン・ジェルミは目を細め、冷たい声で続けた。

「ああ、アイナ、君を、また使おうとしている」

「……話を聞きましょう」

アイナも真面目な顔になった。


「今度は、おそらく政治闘争や、情報戦だね」

「私が向いているとは、とうてい思えませんが…」


言葉を濁すアイナだが、それを言ったらアイナは政治は言うにおよばず、軍事にも向いていない。

象牙の塔にこもって、研究に没頭している以外に似合う姿が思いつかない。


「向いていなくても、彼らにとって利用価値がある、だから、君は道具として駆り出される」


アイナは額に手をやり、深く深くため息をついた。

アイナの錬成は、心を折る。

沈んでいく感情と思考能力は、下手をすれば指導者すら何もできなくなるだろう。

兄弟たちは二人とも、その感情錬成を受けたことがあるため、わかる。確かに、戦争でなくとも、利用価値はあるだろう。

ディータも、やりきれないように息を吐く。


「なまじっかな戦争よりも陰湿になるだろうね。

相手国に直接手を汚さずに損害を与えるには、最適の兵器だからね。

――弱体の錬金術師さん」


サン・ジェルミの、その言葉に全員が眉をひそめる。


「だからね、一緒に軍部を壊そう。アイナ。

君をまた“兵器”として扱おうとする連中は、一人残らず許しておけない」


微笑みながら言い放ったその言葉に、空気が凍りつく。

そして、どこか空虚な笑みを浮かべて、空を見上げた後、ポケットから一枚の紙切れを取り出す。

差し出されたそれは、破れかけた報告書の一部だった。


『旧・特殊軍人、No.07(アイナ)について。

 現状は地方にて非戦闘行動中。

 感情術式の安定性は確認済み。

 現在、対外的影響工作における再適用を検討。

 第三部局が接触を試みるものとする。』


「……いつまで経っても、私は“ただの錬金術師”には、なれない、ということですか……」


アイナの言葉を聞きながら、サン・ジェルミはその紙を再びポケットにしまい込んだ。

「あの芸人――あれは僕の弟子であり、密偵なんだけどね、数日前に、あの子がつかんできた情報さ」

「ああ、そういえば、さっきの芸人」

アイナは思い出したように言った。


「彼が見せていた胴の細長いキツネのような生き物、あれは合成獣(キメラ)ではないのですか?」


今までの空気を壊し、己の聞きたいことを言うアイナに、サン・ジェルミは腹を抱えて笑い出した。

「さすがアイナ! 今、このタイミングで、その話をするか!」

アルノーも、ディータも、うーん…と目をつぶっている。


「エリサは細いぬいぐるみを糸と指で操っているのではないか、と思っているようですが。

糸と指で動かすことのできる範囲外も行動していたので、あれは行動範囲が極端に狭い生き物ではないか、と。

そして、あのような生き物は見たことが無いので合成獣(キメラ)かと」


「さすがアイナ、動きをよく見ている。

けれど惜しいね、合成獣(キメラ)ではなく、親指くらいの大きさの人造人間(ホムンクルス)さ。

作ったのは弟子の、あの子だよ」

人造人間(ホムンクルス)…? それにしては…」

「ああ。あれはぬいぐるみの頭付近に入っているんだ。

胴から尻尾までは弟子が動かしていた」

「ほぉ……その、ぬいぐるみの作りに興味がありますね」

「今度見せよう」


話がどんどん関係のない方向へ転がっていっている。

「その話はあとにしようよ!」

アルノーの声に、ああ、とサン・ジェルミは笑った。

アイナも、まあ、そうですね、と頷いた。


「それにしても、軍部はしつこいですねえ……。

いいでしょう、わかりました、”人造人間(ホムンクルス)の”。

あまり気は進みませんけれども、軍を潰すのを手伝いますよ」

「いいねえ、アイナ、そうこなくちゃ」

微笑みながらアイナを見るサン・ジェルミだが、アイナは、わかっていない。

眼差しの優しさを……。


「日数的に、どれぐらいかかるでしょうね……」

アイナの呟きに、どうだろうねえ、とサン・ジェルミも呟く。


「この船に大道芸人として乗っていた僕の弟子、あのような存在がすでに相当数、軍内部に入っている。

特殊軍人ではなかったとしても、軍に不満を持つ錬金術師や技術者は多い。

彼らの手もあるから、アイナの予想以上には早いと思うよ」

「そうですか…というか、いつから計画してたのですか」

「さあね」

「その分だと、軍がなくなった後の機関の事も考えていますね」

「どうだろうね」

のらりくらりとかわすサン・ジェルミに冷たい視線を落とすアイナ。


彼女は少しの間何かを考えていたが、ディータとアルノーへと視線を向けた。

「一度、あの町に来た事があったのですよね。でしたらば、申し訳ありませんが、エリサの事を、あの町まで送って行ってもらえないでしょうか」

「それは構わないが……、送っていくだけでいいのか?」

ディータにそう聞かれ、アイナは、ええ、とりあえずは、と頷いた。

「”合成獣(キメラ)の”と一緒にいてもらいます。

彼女の家なら、隠し地下の5つや6つあるでしょうから」


あー、あの本だらけの家の……

と兄弟は思い出していたが、地下?と首をひねった。

「え?地下? ノーラの家に地下? なんのために? 読まなくなった本を所蔵するため?」

アルノーの問いかけに、アイナは答えなかった。

「まあ、入り口は本をどかさなければ出てこないかとは思いますが……」

「いや、アイナ、ねえ、どうして隠し地下……?」

アルノーの問いは、ことごとく無視される。


「ノーラも、一応は特殊軍人だったからねえ」

と遠い目をしているサン・ジェルミ。

これは深く聞かない方がいいのか……?

とディータもアルノーも、それ以上は聞かなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ