第2章・第4話 得体のしれない青年
「あの芸人を気にしていたな…」
「エリサはおかしな感じがする、と言ってたね、口調からして、作り物じゃないかって疑ってるんじゃないかな」
「ああ、しかしアイナは曖昧にうなるだけだったな」
アイナたちが気にしていた人物へ目をやるも、その大道芸人は荷物を片付け始めているところだった。
「どうする?話しかけてみる?」
アルノーが兄の意見を聞こうと見上げ時だった。
「君たちはアイナとどういう関係?」
ふいに背後から声をかけられた。しかも、間近で、だ。
声をかけられるまで、近づいている気配はまるきりしなかった。
ディータもアルノーも、軍人でもなければ、隠密行動をとる職業ではない。なので、そこまで気配に敏感ではないが、それでも、こんなに間近に寄られるまで気が付かないということは、滅多にない。
急いで振り向くと、そこには年齢がわかりにくい少年とも青年とも見える男が一人、微笑みをたたえて立っていた。
細めた目は笑っているようでいて、どこか油断ならない雰囲気をまとっている。
「……数か月前に錬金術師が多くいる町に立ち寄ったんだけど、その時に少し縁ができた程度だね」
「まあ、見事に忘れられていたけれどもな」
アルノーの説明を、ディータが補足する。
青年は、ふぅん、そうなの、と首をかしげながら返事をしてきたが、納得はしていないようだ。
「そういう君は?」
一体誰なんだ?とディータが尋ねると、ああ、と青年は思い出したようにお辞儀をした。
「僕は…うん、サン・ジェルミ、とでも呼んでくれ。アイナとは軍部で知り合った」
伝説の不死者である錬金術師…?
いや、「とでも呼んでくれ」ということは、偽名か?
と兄弟はいぶかし気な視線を投げたが、相手は飄々とした顔をしてそれを受け流している。
「それで、何を話していたの?」
微笑みながら質問を重ねる青年からは明らかな圧がある。
「何って、大道芸を見ていたから、気になることでもあったのかと聞いていた。アイナは、とても曖昧なうなり声をあげていたけど」
「大道芸…ああ、あれか」
青年は納得したように頷いていた。
「そうかあ、アイナはうなり声ね、ふふ、なるほどね」
そうかそうか、と独り言を言いながら、うれしそうに笑っている。
なんなんだ、こいつ…
兄弟が彼を見る目は不可解なものを見るものに変わっていた。
「あ、もしかして、エリサが言ってた、手紙の相手って…もしかして…」
目の前の不可解で怪しい青年なら、アイナが不機嫌になるような手紙を送りかねない。
この短い時間でアルノーはそう判断した。
「エリサが何か言っていたかい? んー、差出人がやっかいな奴とか、無視できない相手、とかそんな感じかな」
と、またおもしろそうに笑っている。
本当になんなんだ、こいつ……。
ディータはその表情を隠しもせずに、目の前の青年を見た。
「うん、エリサの言ってた“手紙の差出人”――多分、それ、僕だよ」
ひとしきり笑ったあと、青年は事も無げにそう言った。




