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真意を見据えて

 リリスと俺は笑いながら話を続け、ゆっくりと酒場を離れて歩いていた。酔いも手伝って、だいぶ打ち解けた気がする。まあ、リリスが冗談を言うとは思わなかったけど、それが意外に面白くて、俺もついつい乗ってしまった。


「しかし、魔王城であの料理人が働く姿を想像すると、なんだかシュールだな。」俺はポツリと呟いた。


「そうか?私は至って真剣だ。あの唐揚げが毎日食べられるなら、誰でも歓迎する。」リリスは真顔で言い放つ。


「いやいや、そもそも魔王城ってどんなところなんだ?唐揚げが似合う場所か?」


「ふむ……血と死の匂いが漂う場所だな。だが、唐揚げの香りが加われば、少しは和らぐかもしれん。」リリスは不敵な笑みを浮かべた。


「唐揚げの香りで和らぐ魔王城って、想像つかねえよ!」俺は笑いながらツッコミを入れた。


 リリスは少し考え込むように黙ったが、その後でふっと笑った。「まあ、確かにその通りかもしれん。唐揚げの香りがしたところで、恐怖は消えないだろう。」


「それに、料理人もビビって仕事どころじゃなくなるぞ?『命の危険を感じながら唐揚げを揚げる日々』なんて、そんなの誰も望んでないだろう。」


 リリスは目を細め、肩をすくめた。「そうかもしれんが、私は戦いの場でも食事は重要だと思っている。食事がなければ、戦士も力を出せん。」


「それは確かに正論だな。けど、せっかく魔王城に行くなら、もっと豪華なものを食わせてもらえるんじゃないのか?」


「豪華な料理か……。だが、唐揚げには勝てないだろう。あのサクサク感は独特だ。」


「ははは、唐揚げの虜になったみたいだな。じゃあ、次は魔王城に唐揚げ専門店でも作るか?」


「それは名案だな。魔王城の新たな名物として広めよう。」リリスは冗談とも本気ともつかない口調で言った。


 俺は肩をすくめて笑いながら、リリスの横顔を見た。彼女はいつもクールで冷酷な印象を持っていたが、こんな風に 軽い会話をする姿は新鮮だった。ふとした瞬間に、人間らしさが見えるのがなんとも不思議だ。


「お前、意外とこういう冗談も言えるんだな。」俺は正直な感想を口にした。


 リリスはちらりと俺を見て、少し眉をひそめた。「何が言いたい?」


「いや、なんかこう……もっと無表情で怖い奴だと思ってたけど、こうして話してみると、普通に面白い奴だなって。」


「ふむ。私は魔族だ。お前たち人間と違って、感情を露わにすることは少ない。それでも、話をすることくらいはできる。」リリスは少し照れたように目をそらした。


「まあ、確かにそうかもしれないけど、俺から見れば、今のお前はただの普通の女の子に見えるよ。」俺は軽くからかうように言った。


「女の子だと?私が?」リリスは驚いたように目を見開いた。


「いや、悪い意味じゃないぞ。ちょっとした冗談だ。でも、そういう柔らかい一面もあった方が親しみやすいと思うぜ。」


 リリスは少し考え込んでから、「親しみやすい……か。そんな言葉は私には縁がないと思っていた。」とつぶやいた。


「いや、誰にでもあるさ。お前も、俺とこんな風に話してるんだし、意外と親しみやすい魔族だと思うぜ?」


「……そうか。」リリスは少し照れくさそうに視線を下げた。


「ところで、唐揚げの話は置いといて、お前は普段どんなもん食ってるんだ?さっき、命知らずを食ってるなんて言ってたけど、本当かよ?」俺は話題を変えてみた。


「ふむ……まあ、嘘ではない。戦いの中で倒した者の命を糧にする。それが私の本来の食事だ。」


「マジかよ。って、それも冗談だろ?」


 リリスは真顔で首を横に振った。「嘘ではない。ただ、今日のような食事も悪くはない。」


「おいおい、そういう怖いことをサラッと言うなよ。心臓に悪いから!」俺は半ば本気で驚いたが、リリスの微妙に口角が上がっているのを見て、少し安心した。


 リリスは不意に立ち止まり、俺を見つめた。「……カイル、私は今まで誰ともこうして普通に話をしたことがない。お前は……奇妙な存在だな。」


「奇妙って、いい意味でか?」


「悪い意味ではない。ただ、お前のような人間は珍しい。戦いを恐れず、私に近づいてくる者は、今までいなかった。」


「まあ、そう言われると光栄だな。けど、俺もお前に興味があるってだけだよ。」俺は笑って言った。


「興味……か。」リリスはしばらく考え込んでから、「お前の存在、今まで出会った誰とも違う。これからもお前と……このように話すことがあれば、悪くはないだろう。」と小さく呟いた。


「おっ、これは次も誘っていいってことか?嬉しいねえ。」俺はニヤリと笑った。


 リリスは軽くため息をつきながらも、「……まあ、次の唐揚げが待っているならな。」と笑みを浮かべた。

 

 リリスと俺は、軽く酔った勢いでさらにふざけた会話を続けていた。俺はふと気になってリリスに問いかける。


「そういえば、お前っていくつなんだ?」


 リリスはしばらく黙った後、あっさりと答えた。「5021才だ。」


「……5021才!?それって、つまり21才ってことか?」俺は思わずツッコミを入れた。


「ふむ。人間の歳に換算すれば、だいたいそんなものかもしれん。」リリスは真顔でそう言った。


「マジかよ。5000年も生きてて見た目こんな若いとか、魔族ってすごいな。21才って言われても全然驚かねえけどさ。」俺は笑いながら肩をすくめた。


 リリスはふと微笑んだ。「5000年も生きていると、物事の流れが遅く感じることもある。だが、今日の夜は短く感じたな。」


「お、そりゃ嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。次はもっとゆっくり飲むか?」


「ふむ……そうだな。今度は私が奢ってやる。」


「なんだ、リリスって意外と金持ってんのか?」俺は少し驚いた様子で尋ねた。


 リリスは軽く笑いながら答えた。「いままで倒したやつらから奪った金が、たんまりある。使い道がないからな。」


「……あんまり聞きたくない話だな、それ。」俺は苦笑しながら肩をすくめた。


「そうか?お前たち人間も、戦利品を得て生活を支えることはあるだろう?」リリスは首を傾げた。


「そりゃあまあ、そういうこともあるかもしれないけどさ……倒した相手の金で酒を飲むってのは、ちょっと気分的に複雑だろ。」


「そうか。私は特に気にしたことはないが……」リリスは少し考え込んでから、「では、お前の人間社会の作法に従って、次に飲むときは、別の金で奢ろう。」と真剣に言った。


「はは、それでいいよ。普通に奢られるのが一番だ。」俺は肩をすくめて笑った。


 リリスはそのまま黙り込んだが、目にはどこか楽しそうな光が宿っていた。俺たちはまた歩き出し、軽く笑いながら街の通りを歩いていく。


「しかし、5021才の魔族が唐揚げ好きってのも面白いな。歳の割に、結構若々しい好みじゃねえか。」俺は軽口を叩きながら言った。


「歳は関係ない。唐揚げは誰でも美味いと思うものだ。」リリスは真剣に答えた。


「だよな。お前とはいろんなことが違うけど、こうして話してると、結構似たところもある気がするよ。」


「……そうかもしれん。」リリスは少し考え込むように言った。「お前のように、私に気軽に接してくる人間は珍しい。だが、悪い気分ではない。」


「それはよかった。次はもっといい酒場を紹介するよ。今度はどんな料理を試してみたい?」


「ふむ……唐揚げ以外にも、お前の世界にはまだまだ知らない美味いものがあるのだろうな。楽しみにしておこう。」


 カイルはリリスに対して意図的に打ち解け、親しげに接していた。彼女が無防備になり、少しずつ心の隙を見せるたび、カイルはその瞬間を逃さず冷静に見極めている。リリスのことを警戒しながらも、勇者としての使命が心の中で重く響いていた。彼には迷いはない。仲間の安全、そして自分の役割を果たすためにも、リリスに勝つ必要があるのだから。


「このまま油断させて、必ず勝機をつかむ」


 彼はそう自分に言い聞かせて、意志を固める。リリスの親しみやすい笑顔や、見せる一瞬の優しさも、カイルにはどこか危ういものに思える。それでも、彼の使命感は揺らがず、冷静にチャンスをうかがい続けるのだった。

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