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そいつらは一体、俺達に何の交渉材料を持っているんだろうな……


 『電脳遊戯倶楽部』に見張りを置いている複数のグループ。その目的ははっきりしている、アダマンタイトだ。だが見張りを置いてどうしたいのか、それが分からないのが不気味だ。ちょっと一旦整理しよう。


「今俺が持っているアダマンタイトを欲しがる属性の奴らって、どんな奴らだと思う?」


 俺の問いかけにこの場にいる4人がうーんと唸る。そうして各々が考える答えを教えてくれた。


「そうね、例えば前線で戦うプレイヤー。強力な武具を作れるアダマンタイトは欲しいと思うわ」


「鍛冶師プレイヤーもそうかしらね。同じくアダマンタイト製の武具を高値で売りつけたいと思う」


「商人プレイヤーはどうでしょう。間違いなく高値で取引できますし」


「ただの妬みの線もある。安値で買い取ってあいつ馬鹿じゃんと笑いものにしたいとか」


「そいつらは一体、俺達に何の交渉材料を持っているんだろうな……」


 結局そこに行き着いてしまう。これはもう、堂々巡りだ。考え出すと止まらないものになってしまう。そうだ、ちょっと待てよ。


「そういえばメールを見ていない。ちょっとメールを見てみる。何かヒントがあるかもしれない」


 そうしてメールウィンドウを開くと未読メールがずらりと並んでいる。そのカウント数は537件。

 今一番上のページに表示されているメールのタイトルには全てアダマンタイトの文字が並んでいた。結局俺はそのメールを一つも開く事無くメールメニューを閉じる。


「ごめん、全然ヒントにならなかったわ。ただ相当数がアダマンタイトが欲しいって事だけは分かった」


「そうでしょうね。結局、本人達に聞いてみるしかないかな」


「そうなるか。すまんな、結局俺が顔を出さんと何も解決しないみたいだ」


「仕方ないわ。今回の件に関してはウチの店の誰も、ソウさん達の所為にはしてないから」


 そう言ってくれると本当に助かる。この店に迷惑をかけたくないのだが、結局今のように迷惑をかけてしまっている現状では、その言葉が救いだ。

 ナリンセンの入れてくれたハーブティーを飲んでから、俺達は席を立った。


「それじゃ、行きましょうか」


「あぁ、何らかのアクションは起こしてくるだろう」


「店で暴れるようなら取り押さえるわ」


「私も手伝います」


 マリッサの決意の言葉に俺とネス、リフレで答えて会議室を出る。ナリンセンも含めた5人でリットンのいるカウンターに向かうと、リットンは一瞬驚いた表情を浮かべた後で、苦笑いをした。


「……まぁ、しょうがないですよね」


「えぇ、仕方ないわ」


 そう言ってリットンと分かり合う。そう、もう仕方ないのだ。こうしなければ、相手の意図も何も分からないのだから。察しの良いリットンはそれを瞬時に分かってくれるから助かる。

 そうしてしばらくリットンを交えてカウンターで話をしていると、店内に男が3人入ってきた。来たか。


「失礼します。こちらにソウさんがいると伺いました。私は商人ギルド【輝く黄金のソロバン】のギルドマスター、トルネルと申します」


「ソウなら俺だが」


「おぉ、ようやくお会いできました!是非あなたと一度お話をしたいと思いましてこちらに伺いました。よろしければウチのギルド員の店までご同伴願えないでしょうか」


 なるほど、礼儀に則った会話だ。しかしまぁ、ここはそのギルドに入っていない店なんだがな。俺はマリッサの顔を伺うと、マリッサは一つ頷いた。


「話ならここで聞こうか。別に問題ないだろう?」


「えぇ、私は別に問題ないわ。邪魔なら奥に引っ込んでるから、好きに話をして頂戴」


「という訳で、話をどうぞ」


「……わかりました。それではお話を。昨日の公式動画を拝見しまして、是非あなたと当ギルドで取引を行いたいと思い、こうして伺わせていただきました」


 あぁ、結構ストレートに言うんだな。己の目的を隠さないのは好印象だ。


「それで、具体的な取引の内容は?」


「そうですね、つきましてはあなたの保有するアダマンタイトを原資に、当ギルドから様々な物品を提供させていただきたいと思います。例えば武器防具、消費アイテム、当ギルドの保有する各街の商業ギルドとの信頼関係などですね」


「ふむ……特に魅力的なものがないのだが」


 武器防具はこの店で間に合ってるし、消費アイテムは必要そうなのはヒーリングポーションと毒消しポーションくらいだ。それだって調達可能だ。商業ギルドとの信頼関係なんてものに関してはもっと必要ない。

 俺がそう言うと、トルネルが片眉をピクリと動かした。


「た、例えば消費アイテムに関しては一時的に力を増加させるポーションや素早さを上げるポーションなど、他にも強くなれるアイテムがございます」


「アイテムの力で強くなろうとは思わん。俺の、いや俺達の目的はただ一つ。この世界で己の研鑽を積む事だ。そのために強い相手と戦う事が目的であり、手段だ。それを一時的にアイテムでブーストするなど本来の目的とは大きく外れている。また武器防具に関してもそうだ。己の力を最大限引き出すために装備を整えているのであって、武器防具の力で強くなろうとは思っていない。故に、あなたの提案は俺達にとっては何のメリットも無い」


 俺がそこまで言い切ると、トルネルは今度こそ大きく顔を引きつらせる。なんだ、情報収集が甘いな。九堂武術道場は強ければ何でも良いなんてそんな集団じゃないんだ。


「そういう事で、お引取り願えるか。あなた達との取引に魅力を感じないのでな」


「……後悔する事になりますよ?」


 トルネルがそう言った。なるほどなるほど、どう後悔させてくれるのだろうか。その時を思い描いて笑みを浮かべると、トルネルと引き連れていた男二人が顔を引きつらせ後ろに下がった。


「なるほど。それで、何をどうすると?この店に嫌がらせでもするか?俺達に敵対するか?それもいいだろう、受けて立とう。我が九堂武術道場111名でもって、お前達との戦争、受けようじゃないか」


「ひゃ、ひゃく……そんな、聞いてない。いや、戦争なんてそんな事は考えていない!」


「ならば何をどう後悔させてくれるんだ。ぜひ聞かせてほしいものだな。ん?どうだ、教えてくれよ」


「じょ、冗談、冗談です!そんな事僕達は考えていません!」


「なんだ、冗談か。ならばその減らず口をしっかり閉めて、とっととこの店から消え失せろ!!」


 俺の一喝にトルネル達は文字通り尻尾を巻いて逃げていった。いや、脱兎のごとく、のほうが正しいかな。とりあえずこれで一件、片付いたな。


「もう本当怖い。ソウさんとは絶対敵対しないようにしよう」


「そんな機能ないはずなのにおしっこちびりそうでした」


「大丈夫だマリッサ、リットン。お前達が敵対するような事にならないように裏から手を回しておくから」


「それは何の慰めにもなっていない」


 ナリンセンの手厳しい突っ込みに思わず苦笑いを浮かべる。その間に、途中で隠形を使って姿を消していたネスが店に戻ってきた。


「朗報よ。今のでほとんどの見張りが居なくなったわ」


「それはそうでしょうね。今の会話は外にも聞こえていたはずだわ。特に最後の一喝なんか」


「まぁ、それでも残ってる見張りは一体どんな奴なんだって思いますけれど……ねぇソウさん。もしかしてあれじゃないですか?」


 喋っている途中だったリットンが外を本当に奇妙なものを見たという顔で眺めながら指差す。指の方向に視線を向けると、そこには妙に顔の良い長髪の男が、妙に肌色成分の多い服を着た女4人を引き連れて店にやってきた。


「あーっ!ソウさんだー!ソウさんですよね!初めて見たー!!」


「……いやごめん。逆にこれ対処困るんだけれど。どうすりゃいいのこれ」


「私の言った線が一番濃厚な奴が来た」


 俺が対応に困っているとナリンセンが呟く。ナリンセンの言ってた線ってあれか、妬みで俺から安く買い叩いてあいつばっかでーってしたい奴か。なんかそんな奴に見えてきた。

 そんな奴は俺の前に来ると下卑た笑みを浮かべながら自分の後ろに侍らせた女達を前に出す。


「お前ら本物のソウさんだぞー!公式動画乗っちゃう凄い人だ!お前らファンだろ!?」


「私達ソウさんのファンなんですーっ!」


「超好きなんですー!イケメンだし超かっこいーっ!!」


「えぇ……ごめん本当にごめん。対応に困る。本当に困る。これどうするのが正解なの?」


 いやこれ、本当に対応できない。なんだこの馬鹿みたいな奴らは!あまりに馬鹿すぎて対応に困るわ!!俺が本気で困惑していると、俺の前にリフレとネスが割って入ってきた。


「私、今PKになってもいいので、この人達殺してもいいですか」


「そうね、数日間の独房でも構わない。こいつら殺して自首してくるわ」


 俺からは表情が見えないが、彼女達は今どんな表情をしているのだろう。リフレは拳を構えネスはクナイを抜く。

 それを見た途端、馬鹿な男女はそれこそ脱兎のごとく店から逃げ出した。ポカンとしながら去っていく馬鹿を見送ると、ネスがクナイをしまいリフレは構えを解く。そして俺に振り返った。


「悪は去りました」


「成敗よ」


「あ、あぁ、ありがとう」


 輝かんばかりの笑顔で俺を見てくる2人を、俺はそう労う事しかできなかった。いやしかしなんというか、今のって。


「俺、あんな手に引っかかる奴だと思われてるって事?」


「いやあれは流石にただの馬鹿よ。自分が引っかかりそうな手に他人も引っかかると思っている類の奴ね」


「大丈夫ですよソウさん、自信をもって下さい。あれは本当にただの馬鹿だっただけなんです」


 マリッサとリットンの優しい言葉に自信を取り戻す。しかしまた酷いのが来たものだ。さてこれで最後かな。最後だったらいいな。


「終わったと思うか?」


「そうね。多分終わったんじゃないかしら」


「さすがにこれ以上はないんじゃない?」


 俺の問いかけにマリッサとネスが同意する。そうだよな。さすがに終わったよな。


「いや今回は本当に迷惑をかけた。すまなかった」


「いえ、いいのよ。さすがに公式動画になるなんて誰も予想できなかったし」


「そうですよ。誰のせいかっていうと今回の件一番は公式動画にした運営ですよ」


「少なくともソウさん達は誰も悪くない」


「そう言って貰えると助かるよ」


 迷惑をかけてしまった店の3人にそう言ってもらえると本当に助かる。今度何か御礼を考えておこう。


「それじゃあこの後で食事でもしましょう」


「いいですね、前みたいにケータリング頼んでもいいですし」


 ネスの提案にリフレが乗っかる。うん、そうするのも悪くはないな。そうして店の中に弛緩した空気が流れる。


「あれー!あんたやっぱりネチカじゃーん!」


 急に割って入った無粋な言葉に、俺達は勢いよく声の方向へと振り返った。

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