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衝撃は通る!まだ浅い!


 アダマンタイトゴーレム。鉱山ダンジョンのスペシャリストであるダンザとレイナードが震える程の相手。その難敵が目の前にいる。

 迎え撃つのは俺とリフレ、ネスのいつもの3人だ。正直こんな化け物に3人で挑むのは正気じゃないと思われるが、今は3人しかいないのだ。持てる戦力全てで、難敵を打ち砕くしかない。

 じりじりと間合いを詰めながら近づくと、ゴーレムが両手を振り上げる。それを合図に、俺達は3人で飛び出した。

 俺は全力で前へと踏み込むと、背後で大きく地面が揺れる。背中にビシビシと破片が当たるのを感じながら、正面からその胴体へ思い切り突きを放った。


「ぜっ!!」


 ドンという音と共に返ってきたのは硬い感触。先程の魔鋼ゴーレムより遥かに硬い。そして内部に徹った衝撃も、重いものだった。

 背中からブンという音がするのと同時に背後に飛び退く。一瞬先に居た場所には、ゴーレムの腕が通過していた。


「衝撃は通る!まだ浅い!」


 報告と共にリフレが魔鋼ゴーレムの時と同じく横に回り込み膝裏を払う。


「せぇっ!」


 声と共に放たれた槍の払いはしかし、硬い金属音と共に跳ね返された。


「通りませんっ!」


 一体どれだけの重量をしているのか、渾身のリフレの払いを弾き返したその足は膝を屈する事無く立ったままだ。そこへリフレの逆側から回り込んでいたネスが同じく膝の裏に呪符を貼り付け飛び退く。


「爆!」


 激しい爆発音と共に膝裏に衝撃が叩きつけられたはずが、しかしそれでもゴーレムの足は健在だった。

 そんな2人が鬱陶しかったのか、ゴーレムは腕を激しく横へ振る。だがそんな見え見えの攻撃、2人には通らない。一歩先にその場から飛び退くのを確認して、俺は再び正面からゴーレムの胸を殴りつけた。

 再びの衝撃、今度も重いが、それでも先程より通る。続けてもう一撃。左右の拳で勁を通した衝撃は、確実にゴーレムの芯に届いていた。しかしそれでも、まだ遠い。もう何発かは叩き込まないとこいつは倒せない。

 左から風切り音。その場で跳躍してからゴーレムの顔を蹴り後ろに飛び退く。下にゴーレムの拳が通過するのを確認しながら背中に一つ汗を流す。


「全く、冗談きついなっ!」


「通ってるの!?」


「通ってる!!だがまだ何発か必要だ!!」


「もう何発も受けてるのに、本物の化け物じゃないですか!?」


 リフレの言う通り、こいつは本物の化け物だ。俺が一撃で打倒できない、この世界で初めて出会った本物の敵。

 それが怖い。それが嬉しい。それが楽しい。何発当てれば倒せる。何発でお前は倒れてくれる。何発お前は持つんだ。

 こんな感情久しぶりだ。久しく出会わなかった本物の敵に否が応でも感情が昂ぶる。ならばもっと、もっと加速する。もっと速く重く、俺の渾身を叩き込む。

 再びリフレが膝を狙う。ガキンという金属音と共に槍が弾かれ、それでもリフレは槍を前に突き出した。


「エクスプロージョンッ!」


 ドカンという衝撃音。リフレの元素魔法か。しかしこれでもゴーレムの足は健在。そこの逆側からネスが呪法魔法を放つ。


「ライトニング!!」


 パンという破裂音と同時に呪符から閃光が走る。しかしそれもゴーレムに届かない。通用しない。そこへ今度はネスはゴーレムの肩に呪符を貼り付けた。


「爆!」


 爆発を与えるが、これも通じないか。だがゴーレムはネスを鬱陶しがっている。腕をネスの方向に伸ばした所で、俺が再び踏み込んだ。再び胴体目掛け、左の拳で一撃を入れる。


「ぬぅんっ!!」


 確かな手応え、芯は捉えている。だがまだ足りないか。もう一撃を加えようとした所でネスに伸ばしたのと逆の腕を伸ばしてくる。裏拳だ。

 それを身を屈めて避けて、身体を起こすのと同時に右の拳を叩き込む。ドン、という衝撃と共に、やっと届いた感触が返ってきた。間違いなく、核に届いた。


「届いたぁっ!!」


 叫ぶと同時に背後に飛び退く。目の前をゴーレムの拳が通過する。それに合わせるように、リフレとネスが両側から同時に突っ込む。

 だがゴーレムの拳が止まらない。俺の前を通過し、それでも横に振るったまま。リフレとネスがゴーレムに近づくと同時に背筋にゾクリと怖気が走った。


「離れろっ!!」


 俺の叫びと同時に、ゴーレムの上半身だけがグルリと回転する。そうだ、こいつは人型をしているが人間じゃない。

 上半身だけ、腰から上だけをグルリと回転させ、両腕を大きく広げたその掌は、ネスとリフレを捉えてしまった。


「ぐっ!」


「がぁっ!!」


 ネスはクルクルと激しく横回転しながら地面に転がり、リフレは大きく壁に叩きつけられる。


「涼子!智香子!」


 違う、リフレとネスだ。いやどちらでもいい。2人の状況を確認するべくその場を動こうとすると、2人から声があがる。


「こっちは、大丈夫っ!」


「大丈夫、ですっ!」


 大丈夫、大丈夫か、そうか。今だに上半身をクルクルと回転させているゴーレムの様子を見ながら、2人を横目で確認する。

 2人はその場から確かに立ち上がった。ならば。俺はゴーレムに駆け寄りジャンプして、両腕の範囲外からゴーレムの頭に蹴りを放つ。


「だりゃぁっ!」


 いくら上半身が回転しようとも、その頭の位置は変わっていない。ならばそこに一撃を加えてやればいい。渾身の蹴りを放つと、ゴーレムはその動きをピタリと止めた。

 それを好機として、再び胴体に拳を放つ。次の衝撃は、確実に核にダメージを与えた。


「エクスプロージョンッ!」


「爆!」


 2人同時の爆発攻撃。衝撃がゴーレムを襲う。僅かに揺らいだ上半身に、再び拳を叩き込む。この手応え、もう少し!瞬間バックステップで身を躱し顔を防御する。

 目の前にゴーレムの左拳が降ってきて正面から地面を割った破片が襲いかかる。胴体は鎧があるから大丈夫。額に少し石が飛んだが気にしない。もう少しで倒せるのだ。

 着地と同時に前に出ると、それと同時にゴーレムの右拳が襲いかかる。ここは退かない、前に出る!


「おおおおぉっ!!」


 少し身体をずらして拳を避けて、渾身の一撃をゴーレムの胴体に放つ。ドゴン、という音と共に背中に痛みが走る。だが俺の拳は確実に、ゴーレムの核を捉えていた。

 一瞬の空白の後、ゴーレムの前から飛び退く。それと同時に、ゆっくりとゴーレムのパーツが崩れていく。

 ゴロゴロと音を立てながら、ゴーレムは騒がしく分解される。その様子を最後まで見て、拳を突き上げた。


「っしゃぁああああっ!!!!」


 久しぶりの、勝利の絶叫。心のままに叫ぶと、俺の周りにリフレとネスがやってきた。


「……勝ったのね」


「勝ちましたね」


「やったわね!」


「やりました!!」


『うおおおおおおおおっ!!』


 思わず3人で抱き合いながら再び絶叫する。勝利の雄叫びだ。そうしてしばらく喜んでいると、俺の視界が左半分、赤く染まった。


「あれ?」


「わぁっ!宗吾様!頭から血が!!」


「ちょっと出血!なにしてんの!?」


「あ、正面から破片が飛んできた時か」


「ちょ、宗吾様背中からも出血が!?」


「あぁ最後のゴーレムの攻撃。背中痛いなと思ったんだ」


「いいから鎧脱いで!って鎧背中ボロボロじゃない!?」


「マジか。シャマールに怒られるな」


 指示された通り鎧を脱ぐと、確かに背中がボロボロ、破片が突き刺さりまくっていた。あちゃ、これは修理どころの話じゃないぞ。


「あぁ背中に石が刺さりまくってます!!これ取らないと!!」


「ちょっと痛いかもしれないけど我慢しなさいよ!!」


 黙って2人の指示に従って背中を抉られる。ちょっと痛いけどそれくらいだ。痛覚軽減があるから全然我慢できる。

 そうして処置が終わると、ネスに背中と額に呪符を貼られた。


「治癒!これで継続回復するからしばらく大人しくして!」


「あぁ、ありがとう。俺はいいがお前らは大丈夫か?」


「私はちょっと鎧にゴーレムの手が掠ったくらいだったわ」


「私も槍でなんとか防御できました。衝撃はなんとか逃しましたが、槍が」


 そう言ってネスは自分の革鎧を見せてくる。結構大きく掠った跡があるじゃん。そしてリフレは、あぁ槍が曲がってしまっているな。それに少し鎧が凹んでいるか。

 これはみんな一度ドゥヴァリエに戻らないといけないな。そんな風に3人で話していると、ダンザとレイナードがやってきた。


「いや、あんたらすげぇよ。あれに勝っちまったんだよ」


「あぁ、素直に賞賛に値する」


「いやお前達が光源を確保してくれていないと勝てなかったよ。ありがとう」


「へへ、役に立てたなら何よりだ。それより早く回収してずらかろうぜ」


「今襲われたらひとたまりもない」


 2人の言う通り、今敵に遭遇したらひとたまりもない。俺達は急いでアダマンタイトゴーレムだった素材を回収した。


「よし、それじゃ帰ろうぜ。早く帰って団長に報告しねぇと」


「あぁ、そうだな。俺達も一度装備を整えないといけないし、戻るか」


 そうして俺達は鉱山ダンジョンを脱出した。ダンジョンを出て街に戻った頃はまだ昼過ぎくらい。日が明るい内の大冒険だったか。

 そうしてグランドールの拠点に向かうと、俺達は庭で待機するよう2人に言われた。何だろうかと思っていたら少しして2人がジェニスを連れてやってくる。


「やぁ、随分な大冒険だったらしいじゃないか」


「あぁ、本当に大冒険だったよ」


「早速だが、魔鋼ゴーレムとアダマンタイトゴーレムの頭だけ見せてくれないかい?」


 ジェニスに言われた通り、庭に魔鋼ゴーレムとアダマンタイトゴーレムの頭だけを広げる。ジェニスはそれを見ると、非常に嬉しそうな笑顔で言った。


「今回の報酬だが、この頭だけでいい」


「え、一割ならもっと割り当てあるだろ」


「いやこれ以上は貰いすぎになってしまうよ。それにこれだけでも市場が荒れかねない量がある。一割も貰って市場に流したら暴落する可能性もあるさ」


「そうか……市場に流すのはやめておこう」


「うん、是非そうしてくれたまえ。という訳でこちらとしては依頼は完遂という事でいいかな」


「そちらがそれでいいなら。ダンザとレイナードには本当に助けられた、ありがとう」


 俺が頭を下げるとリフレとネスも頭を下げる。その様子を見て、ジェニス達は頷いて微笑んだ。


「また何かあったら依頼してくれよ。グランドールはいつでも依頼人を待っているからね」


「あぁ、またよろしく頼むよ」


「それじゃあ君達もこれから忙しいだろうからこの辺で。またな」


「あぁ、またな」


 そう言って、ジェニスと自然と握手をする。そうして俺達はグランドールの拠点から一路、転移門の方向へと移動した。


「『電脳遊戯倶楽部』に行かないと。シャマールに怒られるかな」


「どうでしょうね。とにかく装備をなんとかしないとね」


「私も槍をメンテナンスしないと」


「お前、鎧もちょっと凹んでるからな」


「え?ほんとですか?」


「ほんとほんと」


 軽い会話を交わしながら転移門でドゥヴァリエに転移する。途端、空気が変わって完全にドゥヴァリエのものになった。


「……なんか、帰ってきたって感じがする」


「あ、わかります」


「そうね、そう感じるわね」


 そうして完全に見知った空気の中、俺達は『電脳遊戯倶楽部』へと向かうのだった。

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