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ほう、なるほどなるほど


 昔映画で見たコロシアム、それに近い円形の闘技場にいくつかの土を少し盛った四角いリングがある。その上で複数の人間がお互いに立ち会いをしていた。初めて入った闘技場を見た感想はまさしく、映画みたい、だった。

 その内の一つのリングの上で、二人の人間が相対している。その顔立ちも、構えも、仕草も、見知ったものだ。拳児と隼人。この世界ではガントとシュン、だったか。

 お互いに睨み合い立ち合い、手に持つ獲物は真剣だ。ガントは太刀、シュンは、あれはガントレットか。その姿を俺とリフレ以外にも、複数の観客が見守っている。ジリジリとお互い少しずつ詰合い、先に動いたのはガントだ。正眼の構えから一足で踏み込み上段に振り上げる。


「ふっ!」


 振り下ろされた太刀を余裕を持って避け、交差するようにシュンが拳を胴へと突く。それを横に跳ぶ事で避けながら左への薙ぎ払い。ジャンプして上からの蹴り落としで対応したシュンに、頭を下げて前転する事でかわす。

 振り返った勢いのまま突きを放つが、シュンはそれをガントレットで受け流した。受け流されたガントはその体勢のまま真正面にシュンの突きを受け、後ろに吹き飛ぶ。ゴロゴロと回転止まった後には、シュンの目の前に『Win』の文字が表示された。


「今のはPvPのルール設定で一撃先制です。どちらかが一撃を先に当てたら勝ちになります。その他にも細々としたルール設定ができるようになってるんですよ」


「ほう、なるほどなるほど」


 周囲の観客がおぉーと声をあげる中、リフレの説明にこくこくと頷く。なるほど、こういうルール設定が可能なのか。しかし、まぁ。


「こういう所はさすが、ゲームだなぁ」


「リフレ、とし――ソウさん、ですね。見ていましたか」


「あてて。てめぇシュン、少し加減しろや」


 こちらに気付いたシュンが俺達に声をかけると、ガントがむくりと起き上がり頭を押さえる。どうやら後頭部を打ったようだ。それでちょっと痛そう、なだけに見えるのはさすがゲーム、だな。だが確かにこれで、謎は解けた。


「真剣での立ち合い、か。これってPvPで死んだ場合はどうなるんだ?」


「えっと、闘技場内でのPvPに限っては、その場で復活します」


「なるほどな。それでしのぎを削っていた訳か」


 どうせこの世界だ、斬った感触とかも妙にリアルだったりするのだろう。そういう所は外してこなさそうに思う。ところで。


「シュン、なんでお前はガントレットを?」


「あー、えーと。剣や槍の相手をするには、ですね」


「ふーん」


 まぁ、それがシュンの選択ならばそれでいいか、とも思う。確かに刃物相手に手甲や素手では難しかろう、今のシュンでは。ただそれに慣れすぎるのも少し問題ではあるか。


「ならばシュン、立ち合うか」


「え……ソウさんと……ですか……?」


「そうだ。ガント、太刀を貸せ」


「は、はい」


 ガントの代わりに舞台へと上がり、ガントから差し出された太刀を受け取る。鞘から引き抜いた太刀は二尺五寸、よくあるものだ。重心も特に問題は無い。しかしこれ、鉄ではないのだな。まぁいい。


「それで、PvPとはどうやるんだ?」


「えっと、ちょっと待って下さい。僕の方で申請します」


 シュンがメニューを開いて申請してきた内容としては、先程と同じ一撃先制。そして決着後復帰というもの。とりあえずこれでいいのか。


『PvPの申請を受領しますか Yes/No』


 迷わずYesを押し、決闘開始だ。太刀を脇構えにし、シュンに告げる。


「そのガントレットで受けてみろ」


「は、はいっ」


 そう言って一足でシュンへと踏み込む。シュンは慌てて両手のガントレットで右からの振りに備え、足を踏ん張る。重心に問題は無い。普通ならば守れるのだろう構えだ。


「シッ!」


 そこへ目掛けて裂帛と共に太刀を振る。繋ぎ目の無いガントレットその一番細い部分。手首の可動域部を、寸断する。


「あっ――」


 一瞬声を上げたシュンと同時に、その身体が光に包まれる。一拍置いて光の中から現れたシュンの両手は、きちんと揃っていた。それと同時に俺の目の前に現れる『Win』の文字。これで決着か。


「可動域はどうしても手薄になる。そこを狙われれば守った所でこうなる。ガントレットを意識せず立ち回れ」


「あ……はい……」


「返事」


「はっ、はいっ!」


 元気良くシュンが返事したのを確認して太刀を鞘に収め、ガントへと渡す。


「良い太刀だ。シュンのものと材質は同じか」


「あ、はい。ミスリルっていう素材なんですけど」


「あぁ、これがか。水減しなんかができるものなんだな。形だけ太刀にしたものではないな」


 中々興味深いものだ。ミスリルでの作刀、一度見てみたいな。そんな事を考えながら舞台を降りると、シュンも一緒に降りてくる。


「僕、初めて部位欠損した」


「ど、どうだった?」


「なんか、すごい。喪失感が」


 小声でそんな事を話しているシュン達に向かって声をかける。


「それで。この後は俺は何をすればいい」


「あ、はい。えと、ソウさんは、何かしたい事とかありますか?」


「そうだな……」


 リフレに言われて考える。拳児達の事態に関しては理解できた。なるほどこの環境なら確かに剣も鋭くなるだろう。なにせ実戦やり放題なのだ。斬る相手はいくらでもいるだろう。

 例えば俺達のやり取りを見物していた周囲の者達とか。こいつらも一緒だ、対人戦がやりたくてここに居る奴らだ。相手には困らないだろう。


「そういえばお前達は、普段どういうプレイをしているんだ? ここに籠もって対人戦か?」


「いえ、私達は基本、街の外で魔物を狩ったり狩猟をしたり、ですね。ガントとシュンと一緒に先に進むって感じですかね」


「先に進む……目的地とかあるのか?」


「いえ、そういうのは。気の向くままに、新しい街を訪れたりとか。冒険ですね」


「ふーむ」


 冒険、確かにそれはいい。魔物、ファンタジーじゃないか、いいな。狩猟、最近狩りとか行ってないからなぁ、それもいいな。


「ならば俺も。冒険だな。折角買ったんだし」


「そうですよね!冒険ですよね!」


「だがなぁ」


「なんですか?」


 疑問符を浮かべるリフレの言葉に合わせて、ガントとシュンも首を傾げる。


「ゲームの中でもお前達と一緒というのもな」


「なっ」


「あー、まぁ。そうっすね」


「確かにし――ソウさんが一緒だと、修行にはならないかも」


 俺の言葉に驚愕の声をあげるリフレとは裏腹に、ガントとシュンは一定の理解を示しうんうんと頷く。


「じゃ、まぁ。俺は基本ガンガンレベル上げアンド修行って感じで進んでいきますよ。実戦経験おいしいですから」


「そうですね。僕とガントは先へ先へ」


「わ、私も……その方が、いいでしょうか」


 ガントとシュンは先へ進むのを選択し、それに対してグズるリフレ。うーん、まぁしょうがないな。


「まだ今日始めたばかりだからな。アドバイザーは必要だ。リフレ、頼めるか」


「わっ、かりました。これでも一応の知識はありますので、任せて下さい!」


「お、おう。色々任せた」


「それじゃあまず、食事に行きましょう!ゲーム内でも空腹はあるんです。今動きましたから、スタミナも減ってるはずです!空腹とスタミナ回復に食事に行きましょう!」


「わーい。リフレさんゴチになりまーす」


「ごちそうさまです」


「あんた達は自分で払いなさいよっ!」


 そうしてわいのわいの騒ぎながら、俺達は闘技場を後にするのだった。

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