うーん、このお酒は……美味しいれすね
ここがゲームというのを忘れてしまいそうになるくらいには、この世界の食事は美味い。どうやらステータスに空腹はあっても満腹は無いらしい。いくらでも食える。そして、いくらでも呑める。だがこの世界、酩酊というステータスはあるようだ。これは個人の資質に依るらしい。
「うーん、このお酒は……美味しいれすね」
「ガント、それ三回目」
この世界じゃ飯には当たり前に酒が出てくるというか、基本的に飯を食う時には酒を飲むものらしい。それが本当に小さな子どもであればジュースになるのだが、俺達の前に当たり前のように出されたのはエールだった。木製のジョッキに注がれたエールを飲む、実にファンタジーらしい世界だ。
ガントは既に酩酊状態、シュンは黙々と飯を食っている。リフレはちびちびとエールを飲みながら、ご飯を食べていた。
「酩酊しすぎると強制ログアウトするから気をつけて下さいね」
「そんな機能もあるのか。便利だな」
「強制ログアウト食らうとリアル時間で6時間再ログインできないんで中々重いですよ。それにログアウトした瞬間肉体の酔いは覚めてるらしいので、冷静になって恥ずかしくなっちゃうとか」
「どうなってんだそれは。ほんと不思議だな」
不思議で溢れてるな、このゲームは。だがそれは面白い。ガントをもっと酔わせてやろうかと思いつつ、流石に可哀想なので辞めておく。それより、今は何時だろうかとメニューを開いてみて、現実時間で二時間程度しか経ってない事に驚く。ゲーム内では、もう夕方だ。
「うーん、中々ファンタジー」
「はい?それよりソウさん。ソウさん魔人種ですけど、制約どんなものにしたんですか?」
俺の言葉に一瞬疑問符を浮かべたリフレだが、それよりも気になることがあるのだろう。俺の制約について聞いてくる。まぁ別にこれは、隠すようなものじゃないだろう。
「精霊魔法以外の魔法を使えんようにした」
「……真っ向からファンタジーに喧嘩売りますね、ソウさん」
俺の言葉にシュンが唖然としつつ言う。だって、なぁ。別に魔法とかいらんし。本来なら精霊魔法もいらんと思ったんだが、魔法全部使えないのはまずいと言われたんでな。それならばと思ったのだ。
「そういうお前らは魔法使うのか?」
「私とシュンは元素魔法を。ガントは呪法魔法を使いますね。まぁ覚えようと思えば他の魔法も覚えられますけれど、基本的にはそんな感じです」
「元素魔法。攻撃魔法的なやつだよな」
「そうですね、基本攻撃です。ファイヤーボールとかアイスニードルとかライトニングとか」
「レベルが上がると回復魔法も一部覚えますけれど、基本攻撃ですね」
うーん、攻撃に魔法を使うという発想が無いのが、俺がファンタジーに喧嘩売ってる感じになるのか。攻撃っていうのは俺の中では、自分の技量で戦うものだからなぁ。
「精霊魔法、使わんの?」
「精霊魔法は補助、ですかね。本当に。風を送ったり土を盛り上げたりとか。草で敵を拘束したりとか」
「水上歩行なんかは精霊魔法の領域ですね。あとは空中で足場を作ったりとかそういうのも精霊魔法です」
「なんだ、便利じゃん精霊魔法」
「でもイメージ次第っていう感じなんで、結構そういうのが苦手な人には向いてないんですよねぇ」
なるほど、イメージ次第ね。そういうのは俺は結構得意かもしれない。イメージトレーニングなんかは何万回としてきているし。それにしても、だ。
「根本的な話になってしまうんだが。魔人種のメリットである技術の習得ボーナスってどういうものなんだ?」
「あー、そうですね。このゲームって基本レベルの概念がないので。やった事をやるだけそれを覚える、みたいな感じなんです」
「例えばですね、薬草を摘むじゃないですか。まずどれが薬草か分からないと、間違えて雑草を摘む事もありますし。そうやって薬草と雑草を見分けられるようになると、後々自然と『あれ薬草じゃん』てパッと分かるんです」
「なるほど、そういう技術の習得にボーナスがかかるのか。じゃあ俺はそういうのをガンガンやっていったほうがいいんだな」
「そうですね。その刺青の大きさだと相当大きいボーナスがついていると思うので、色々試していくのが良いかと」
なるほどなるほど、それは良い話を聞いた。まずは色々試してみるのが吉、と。ん、だがそうすると、戦闘技術とかはどうなるんだろうか。
「俺の基本身につけている戦闘技術についてはどうなるんだ?」
「それは……どうなんでしょう。急激に上がるような事ってあるのかな?」
「我々も基本実戦を経験して技量が上がった自覚はありますが……そういう部分ではボーナス補正とかないのでは」
「ま、そうだよな。日々の鍛錬だよな」
流石にそこにボーナスついてもな、とは思う。もしボーナスがついて現実と仮想の実力が乖離されてもそれは俺が困る。どちらにとっても不都合が発生しそうだ。
それにしても。
「おい、ガント寝てるぞ」
「いいですよ、放っておいて。大体いつもそうですから」
「二日酔いとかないので大丈夫です」
「ていうか、寝るとどうなるんだ?」
「普通に寝たのと同じような感じになります。寝てる間に強制ログアウトされると現実で目を覚ますんですけれどね。それに現実での眠気が無くなる訳ではないので」
「なるほど謎技術だなぁ」
ほんと謎だな、このゲーム。凄いな。そんな事に関心しながらこのゲームの仕様などに関して色々質問をして、その返答を貰う。
そんな事を繰り返していると、そろそろ現実での時間も夕方になってきた。
「じゃあそろそろ俺はログアウトだ」
「え、もうそんな時間ですか?」
「いや、まだ現実の夕食までは時間がある。お前達の事を報告せにゃならんのだ、師範達にな」
「あっ。それはその……お手数おかけします」
「いい。それが俺の役割だからな。お前達も程々に、夕食までにはログアウトしろよ」
「夕食!夕食の後は、どうしますか!?」
「そうだな……ゲーム内時間が朝になるまではログインせんかな」
「じゃあその後で、二時間くらいプレイしましょう!」
「はいはい、分かったよ」
「約束ですよっ!」
「分かった分かった」
しつこく念押ししてくるリフレに苦笑を浮かべながら、俺は一旦この世界からログアウトを行った。一瞬気絶するような感覚を覚え、次に意識がはっきりしたのはVRギアのバイザーが目の前にある状態だ。
「いやほんと、凄いな」
そう独り言ちてからVRギアを外す。リクライニングチェアから身を起こすと背筋を伸ばし、背中をコキコキ鳴らす。確かに肉体に関してはほとんど疲れを感じていない。高性能な椅子だなと思いながら椅子から降りる。
「さて、師範達への説明か。ま、ありのままを言うしか無いわな」
そうして、自室の扉を開けて、師範達の待つ広間へと向かうのだった。




