あら本当に来てたわね。いらっしゃいソウさん達
続けて俺はイロハッチとメープリーの防具について相談しようかと思った所で、応接室の方からマリッサとナリンセンがやってきた。
「あら本当に来てたわね。いらっしゃいソウさん達」
「掲示板情報嘘つかない。それよりソウさん、本当にハーレム建設?」
「いきなり不穏な事言うんじゃないナリンセン。彼女達の面倒はガントとシュンが見る事になっているんだ」
「ん、その2人見当たらない」
ナリンセンの言葉にえ、と振り向く。そこには双子姉妹とリフレ、ネスしかいなかった。
「あれ、あいつらどこいった?」
「あいつらなら店内見てくるって言ってました」
「あのバカ二人は」
リフレの言葉に頭痛を堪えて店内を見渡すと、一つのショーケースの前で観察しているガントとシュンがいた。
おもむろに二人の背後に立ち、拳骨を2つ食らわせる。頭を押さえて蹲った二人の首根っこを掴みカウンター前へと連行する。
「お前ら、彼女達の面倒見るって約束だよな。なに俺に任せて遊んでんだ」
「すいません、すいません」
「ちゃんとします、ごめんなさい」
「ソウさんにかかると、前線組のガントとシュンも形無しね」
「そういう訳で、この店の店長のマリッサだ。彼女達の装備に関して今後も相談するんだから、ちゃんと挨拶しておけ」
「ガントです、すいません」
「シュンです、よろしくおねがいします」
「店長のマリッサです、よろしくね」
ペコペコと頭を下げながら挨拶をするガントとシュンに、マリッサが苦笑しながら対応する。とりあえずこれで面通しは大丈夫か。
「それでお前ら、今後の活動方針はどうなってんだ」
「当分はこの街を中心に活動しようかと。ゲーム内時間で半月から一ヶ月くらいでしょうか。彼女達の防具を初期装備から更新しないといけないですから」
「という方針らしいので、こいつらが来たら力になってやってほしい」
「分かったわ。それであなた達の活動拠点は決まってるの?まだなら近場の良い所紹介するけど」
マリッサがそう言うと、シュンが首を振る。
「いえ、ソウさん達と同じ宿に泊まろうかと思って」
「ソウさん達のこの街での拠点は金の牡鹿亭よ?大丈夫なの?」
シュンの答えにマリッサが疑問混じりに問いかける。その言葉にシュンはえっ、と声を出した。
「金の牡鹿亭使ってるんですか?この国の最高級ホテルチェーンですよ?」
「なにそれ、聞いてないんだけど。俺はただ商業ギルドで紹介されたから利用しているだけで」
「多分ソウさんは知らないんだろうなって思ってたわ」
シュンの言葉に思わず素で返すと、マリッサがやれやれと言いたげに首を振る。俺はただ商業ギルドにあそこを使えって言われたから。
あんの商業ギルドの受付がぁ!
「そういう事であれば、ご紹介いただけますでしょうか」
「えぇ、構わないわよ。はいこのお店。この紙持っていけばさらに3割引よ」
「ありがとうございます、助かります」
マリッサがカウンターから地図の書かれたチラシを取り出すと、シュンが嬉しげに受け取る。装備品更新が待っている彼女達からしても、拠点費用が節約できるなら助かるだろう。それにしても。
「俺、そんなん知らなかったんだが」
「まぁしょうがないですよ。この街に来た時点で商業ギルドに行く必要はあったんですし、商業ギルドに行くと金の牡鹿亭を紹介される事は決まってましたから」
「あんまり気にすることないわ。今はもうお金払っちゃってるんだから期間いっぱいまで泊まっておけばいいのよ」
暫し呆然と呟く俺を慰めるようにリフレとネスが言ってくれる。うぅ、その優しさが今は辛い。
「と、とりあえず今後のやる事と拠点、武具の調達に関しては決まったな。他にやっておく事はあるか?」
「そうですね、後はネスティフさんの今後の指導予定を共有いただけると」
「そうね、私達がこの街にいる間はリアル時間基準で平日は毎日午後の鍛錬後のログイン時、休日は午後のみでどうかしら。その後は状況によるとしか言えないわね」
「それで構いません。ご指導よろしくお願いいたします」
「ではネスがシュンを指導している間に、俺はイロハッチ達を指導しておこう。それでいいな」
ネスの予定にシュンが嬉しそうに頷いて、俺の言葉に他の面々が表情を硬くして頷く。なんだこの対比。
そんな俺達の様を見て、マリッサが頭痛を堪えるように額を押さえる。
「なんだかネスが指導官のようになっているんだけど……こんなに非常識な子だったかしら」
「マリッサ、ネスは元々持つ技術は常識的な範囲ではなかったぞ」
「ネスちゃんの指導、いいですね~。でも私が受けたら粉微塵になりそうです」
「シュンを一方的にボコボコにできるのは常識的じゃない」
ナリンセンの核心を突く言葉に思わず頷く。シュンだって幼い頃から研鑽を積み内弟子になった実力者。それを一方的に転がしているネスの実力は、並みの才覚と研鑽を積んだ者ではないという事だ。だからどちらかで言えば彼女は間違いなく非常識の部類に入る。俺も人の事は言えないが。
「さてそれでは諸々やる事は決まったな。まずは拠点の確保に行こう。それではマリッサ、世話になった」
「えぇ、今後ともウチの店をよろしくね」
『よろしくおねがいします』
ガントとシュン、双子姉妹が揃って頭を下げてからマリッサ達に見送られて店を出る。シュン達の拠点については、本当に『電脳遊戯倶楽部』からほど近い場所にあった。
ガントとシュンが受付で手続きを行いチェックインを完了する。それでは、次は。うむ、リアル時間で夕食まではまだ若干の時間があるな。
「それではゲーム内の食事を済ませてしまおうか。ネス、また案内お願いしていいか」
「えぇ、任せて」
「……なるべく普通の店を頼む」
「何言ってるの、昼も普通の店だったでしょ」
確かにそうではあるんだが、なんか違うような。ネスの言い分にちょっとモヤりながら先導してもらい店に入る。
ここは普通に、ファンタジー世界にありそうな一般的な店だった。団体で来た俺達を快く迎え入れてくれて、食事もそれなり以上だ。
「この酒は……美味しいれすね」
「ほんとにガントの酔い方見てると不安になってくるんだが」
「大丈夫ですよ、ちゃんと歩いて宿まで戻れますから」
「こいつにリアルで酒飲ませるの控えよう。いつか何かやらかしそうだ」
「それは確かにそうした方がいいと思います」
俺の感想にシュンが同意する。ゲーム内だからいいがリアルでこの酔い方されて何かやらかされても困る。ガントに飲ませるのは家の中だけだ。外では飲ません。
そんな事を俺が心の中で決定している間も、ネスやリフレは双子姉妹と楽しく談笑しながら食事を進める。そうしてゲーム内の空腹度を回復させた所で、ゲーム内ではお開きとした。酔ったガントを先導しながらシュンが双子姉妹と共に宿へと戻っていくのを見届けて、俺達も金の牡鹿亭へと戻る。
金の牡鹿亭へ戻ると、受付から声がかけられた。
「ソウ様。ご伝言がございます」
「あぁありがとう、どこからだ?」
「商業ギルドからです。馬車の売却は完了、鹵獲品の売却がまだ残っているので後一、二週間かかるとの事です」
「了解した。俺達のこの宿での残り宿泊日数は?」
「最初の契約から残り13日となっております」
ふむ、二週間必要だった場合、若干あぶれるかもしれないか。まぁ実際どれだけ日数が必要なのかわからんからな、商業ギルド次第だ。
「分かった、ありがとう」
「いえ」
受付にチップを渡して部屋へ戻る。今はとりあえず宿泊期間の延長は行わなかった。部屋でシャワーを浴びてからログアウトし、現実に戻る。
うむ、ちょっとお茶して夕食だな。そう思い茶の間へ行くと、やはり智香子と涼子が居た。
「お疲れ様、宗吾」
「お疲れ様です」
「あぁお疲れ智香子、涼子。俺にも茶をくれ」
そう言うと智香子がスッと湯呑を出して急須からお茶を注ぐ。こいつ準備していたな。
「宗吾の事だから来るんじゃないかって涼子さんと話していたの」
「当たりでしたね」
「よく分かってきたじゃないか」
智香子達の言葉に頷きながらお茶を飲んでいると、茶の間に近づいてくる気配がある。うむ、道場の経営陣の方だな。彼女は茶の間の手前の廊下に座ると俺に話しかけてきた。
「宗吾様。本日当主様奥様が食事会で外出されておりますので、よろしくお願いいたします」
「分かった、ありがとう」
「いえ」
ふむ、今夜は親父達は外出か。あの人も忙しい人だからこういう日はよくある。こういう日の俺には、次期当主としての仕事がある。それでは。
「涼子、智香子。食堂へ行くぞ」
「はい、師範代」
「分かったわ」
そうして俺達は連れ立って食堂へと入る。いつもの自分の席に座り食事の時間に合わせて全員が来るのを待ってから、普段一緒に食事をしている全員に声をかける。
「さて、それでは。見て分かる通り、本日親父と母さんは外出だ。なのでいつも通り、今夜は酒を出す。各々好きなものを頼むように」
「……お酒?」
「当主様が不在の時、夕食時にお酒を出して道場の者を慰労するのが次期当主様の役割なのです」
俺の宣言に智香子が小声で首を傾げながら呟くと、隣の涼子が説明する。うむ、こうして道場の人間を結束させるという役割があるのだ。
「それでは食事としよう。いただきます」
『いただきます』
こうして普段より若干賑やかな夕食が始まる。他の師範代達も各々好きな酒を頼み、飲み始める。俺はご飯を食べながら酒を飲むというのは苦手なので、一通り食事を終えてから酒を飲み始める。おつまみは枝豆だ。
差し出されたおつまみを受け取り瓶ビールを手酌しようとすると、すっと横から瓶が奪われる。
「師範代、お注ぎします」
「あぁ、わかった」
横から瓶を奪った主、涼子によってコップにビールが注がれそれを飲む。ゲーム内のエールとはまた違う味に息を一つ吐く。
「お前は食事ちゃんと終わらせたか?」
「はい、私はもう。智香子さんも終わらせております」
「そうか、お前も飲むか?」
「はい。ですが師範代からいただく事はできません」
そう言うと涼子は別の瓶を取り自分で手酌して一口飲む。こいつはいつもこういう席ではこうだ。
そんな俺達の元に食事を終わらせた智香子がやってくる。
「……このような習わしがあるのね」
「あぁ、智香子はまだ来たばかりだからな。お前も飲むか?」
「その……現実でビールって、飲んだ事ないのよ。ちょっと不安で」
少し頬を赤らめて言う智香子においおいと心の中で呟く。本当にこいつはいいとこのお嬢様然と育てられたんだな。
そんな智香子の前にコップを置き、涼子がビールを注ぐ。
「一口飲んでみて、苦手だったら無理しないで大丈夫ですよ。ビールが苦手な方っていらっしゃいますから」
「そう……そうね、わかった」
そう言ってゴクリと生唾を飲み込んでから、智香子が一口ビールを飲む。一瞬その刺激に驚いた智香子だが、ゆっくりと一口含んだビールを飲み下した。
「……ゲーム内のエールとは全然違うのね。刺激が強いわ」
「どうです?飲めそうですか?」
「えぇ、そうね。嫌いではないわ」
そう言ってまた一口ビールを飲む。そんな智香子に枝豆を差し出すと、智香子は黙って受け取り鞘から豆を取り出して食べる。
「あぁそうだ。今夜のログインは無理だな。俺にはこの場を監督する必要がある」
「そうね、無理してログインする必要はないわ」
「ですね。リアルでお酒飲んだ後にログインするのもなんか怖いですし」
涼子に言われて確かにと思う。ゲーム内の酔いはリアルに帰ってくると治るが、リアルでの酔いはゲーム内でどのように判断されるのか分からない所がある。
「まぁ今夜はとりあえず、ゆっくり飲むか」
俺はそう言って、ビールを一気に飲み干した。




