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あの頃は若かったんだ。俺もまだ青かった


 しばらく車の中で他愛のない話をしながら、智香子がポチポチとガジェットを触る。やがて目当てのものを見つけたのかそれを読み上げた。


「全日本学生武術大会三連覇、『鬼神』九堂宗吾、ねぇ。まさかそんな人と一緒にゲームしてたとはね」


「あの頃は若かったんだ。俺もまだ青かった」


「懐かしいね。一目見ようと道場に人が押し寄せた時期があったね」


 昔の話を振られて思わず振り返る。あの頃は何か形になるものが欲しくて、大会に出てみたのだ。そうして三連覇。『鬼神』などと呼ばれたが、あの頃より今の方がよっぽど強くなっている。まだまだ青かった頃の話だ。


「まぁ色々今日で納得したわ。あなたの強さに関してもね」


「智香子はなんかそういうネタないのか」


「ウチの道場自体のネタはあるけれど、私は特に何も。大会とか出たことないし」


「なんだ、弄れるネタ探してやろうと思ったのに」


「殴るわよ」


 そんなくだらないやり取りをしていると、家へと到着する。俺の家を見て智香子は何かうんうんと頷いていた。


「私の家よりも遥かにでかいわね。それはそうよね」


「何か納得したのはいいが、先に挨拶を済ませてくれ」


 門の前には俺の母と涼子が紬を着て待っていた。他にも拳児とかがいるが、そちらは全員稽古着のままだ。俺が智香子を促すと、智香子は緊張した顔で頭を下げる。


「奥様。根須智香子と申します。本日よりお世話になります。何卒よろしくお願いいたします」


「まぁまぁまぁ可愛らしい方ね!宗吾の母の美智恵です、どうぞよろしくね。ほら涼子、自己紹介しなさい」


「はい、三谷涼子です、よろしくおねがいします智香子さん」


 そうしてお互いに頭を下げるのを確認して、親父はパンと一つ手を打った。


「はいそれじゃあ涼子達はこのまま部屋への案内を。他の者は全員車から荷物を運ぶ。智香子さんは荷物が運び終わったら一旦普段着に着替えて欲しい。そしたらまずは食事だ。ほれ行動開始!」


 親父の挨拶と共に拳児達がわーっと車のトランクに押し寄せる。そんなに人数いらんだろ、10人もいれば十分だ。まぁやる気があるのはいい。頑張ってくれ。

 俺は自分の部屋に戻り、色紋付から普段の紬に着替える。紋付は疲れるわぁ。楽な格好に着替えた所で食堂に入ると自分の席に座る。

 しばらく待つと、各々普段着に着替えて自分の席へと着いた。最後に智香子が涼子と共に食堂に入り、涼子の隣に座る。若干現状に戸惑っているようだ。

 そうして全員着席したのを確認してから、親父が食事の合図を出す。全員の食事が揃うと親父が口を開いた。


「面倒くさい話はまとめて行うので食事の後で。まずは食事だ。いただきます」


『いただきます』


 そうして食事を終えて一服。どうやら今日の智香子には少しボリュームが多かったようだ。大丈夫、身体を動かせば食べられるようになるから。

 そうしてまったりした空気の流れる中で、さて、と親父は師範の顔に戻り説明する。


「さて、みんな分かっているとは思うが、本日より我が九堂武術道場に参加して貰う根須智香子さんだ。智香子さん、自己紹介を」


「は、はいっ。根須、智香子と申します。本日よりどうぞよろしくお願いいたします」


「彼女は招請して来ていただいた『根須体操術』の者だ。今後は我が道場の中から才のある者、意欲のある者を中心に指導および自己の研鑽を積んでもらう。扱いは師範代相当、鍛錬指導の時間は宗吾や内弟子と同じとする。将来的には我が道場の血肉となって貰うのでそのつもりで。まずは本日の午後の我が道場の鍛錬を見学して貰いたい。それから明日の朝鍛錬にて『根須体操術』を一通り見せてもらう。以後、よろしく頼む」


「せ、精一杯務めさせていただきます」


 緊張した声で頭を下げる智香子に、全員で頭を下げる。これで一通り終わりだ。午後の鍛錬を行う。

 いつも通り道場で午後の鍛錬を行い、指導する。その様子を智香子は道場の壁際で見学していた。さていい汗かいたーと風呂に入りお茶を飲んでからいつも通りゲームにログインしようかと思い茶の間へ行くと、そこには拳児、隼人、涼子と智香子がいた。


「涼子と智香子はともかく、拳児と隼人がこの時間にここに居るのは珍しいな」


「師範代、お疲れ様です。智香子さんに色々聞いておりました」


「はい、『根須体操術』の指導などにつきまして」


「そうか、意欲的なのは良いことだ。涼子、俺にも茶を」


 俺が空いている席に座ると目の前に俺の湯呑を置かれ、そこにお茶が注がれる。それを一口飲んでから、智香子に聞いてみる。


「それで、ウチの道場の鍛錬はどうだった?」


「どう、というかなんというか。私の家の道場とは熱意も腕も桁違いというか。本当に私がここで指導なんてしていいのかしら」


「お前さんはその才を見込まれて招請されたんだ、もっと自信を持っておけ。でなければ他の師範代への侮辱となるぞ」


「そう、そうよね。うん、分かったわ。頑張ってみる」


 そう納得した所で、智香子が俺を不思議な目で見る。


「それにしても、あなた。徒手空拳は元より刀も槍もいけるのね」


「一通りな。だが俺が一番好きなのは無手だ」


「そうなんでしょうけど、はぁ。あなたを見ていると自信無くしそうなのよ、指導する身としては」


「師範代と比べちゃ駄目ですよ。鬼神なんですから」


 あはは、と笑う涼子の額にデコピンを一発お見舞いする。こいつは偶に俺の事を鬼神弄りするからな。


「少なくともお前さんは、『根須体操術』については俺を超える物を備えている。そこに自信を持て」


「えぇ、頑張ってみるわ」


「うむ頑張ってくれ。それで、ゲームの方は今日はログインできそうか?」


「えぇ、VRギアは持ってきてるし、布団は部屋にあるから大丈夫よ」


 智香子のその言葉に頷く。


「それじゃ、これからログインだ。俺達は普段この時間からログインして夕食まで。夕食後の風呂から寝る前までプレイしている。それに合わせられるならそのタイミングで」


「了解よ」


「それで師範代、俺達はいつネスティフさんと手合わせができるんですか?」


 そんな拳児の言葉に智香子がえっ、と呟く。そういえば何も言ってなかったわ。うーんと考えて、拳児に答えた。


「第2の街まで来るなら近日中かな」


「よっしゃ頑張ろう!」


「それまでは鍛錬をしておきます」


「うむ、そうしておけ」


 そう言って茶の間を出ていった拳児達を見送った後、じとっとした視線を向ける智香子にとりあえず謝る。


「すまん、手合わせだけ、そんなに頻繁にじゃないから」


「はぁ……まぁいいわよ。現実でもゲーム内でも指導できるなら便利なのは確かだし」


「そうですね。それじゃあとりあえず私達もログインしましょうか」


「えぇ。それでは向こうでね」


 そう言って茶の間を出ていく二人に続き、俺も自分の部屋へと戻る。そうしてゲーム内へとログインした。

 金の牡鹿亭の自室を確認してから着替えを行い、部屋の鍵を開けた所で扉がノックされる。すぐに扉を開けると、ネスとリフレが揃って困ったような顔をしていた。


「どうした?」


「今朝からの怒涛の展開で全然連絡できていなかったのだけれど。マリッサ達にどう説明しようかしら」


「あー……あー……どうするかなー」


「少なくともネスさんの所はともかく、ウチの道場に関しては説明しないと誰も納得しないと思うんですよね……」


「だよなぁ」


 ここで何も説明しない、というのは悪手だろう。義理を欠くし何よりネスを大事に思っているマリッサ達を敵に回したくない。ネスもそれは嫌だろう。致し方ない、か。


「分かった、道場に関しては俺が説明しよう。ネスは少なくともマリッサ達へのフォローを頼む」


「そうね、分かったわ」


「よし、じゃあ行こう。『電脳遊戯倶楽部』へ」


 そうして俺達は、『電脳遊戯倶楽部』を再び訪問する事になった。再び訪れた『電脳遊戯倶楽部』は相変わらずまばらに客はいて、常連の獲得は順調にできているようだ。

 今日はカウンター内に居たリットンが俺達に気付いて声をかけてくる。


「やっほーネスちゃん、お2人も。最近よく来ますね~」


「えぇ、そうねリットン。そういえばソウ達の装備のメンテナンス、あとどの程度かかりそう?」


「ゲーム内時間で明日明後日には終わる予定ですよ~。それで今日は一体どんなご用事で?」


 気楽にそう訪ねてくるリットンに、ネスが近づいて小声で喋りかける。


「私のリアルでもゲームでも両方に関わる、重要事を報告したいのよ」


「……なるほどなるほど。お姉ちゃんに素直に報告に来てくれる妹で何よりです~。シャマール……は忙しいか。ベルカス!!ちょっとカウンターお願い!!」


「えーっ!なんで俺が!!」


「あんた今素材の選別してるだけでしょ!!小一時間くらいカウンターにいなさい!!こっちは重要な話があるの!!」


 そう言ってリットンは俺達を応接室へと先導する。そうして先導された先には、ナリンセンとマリッサが思い思いの場所で作業をしていた。


「あら、3人とも。最近よく会うわね」


「あぁ、なんだか最近会わなきゃいけない用事が多くてな」


 マリッサの言葉に苦笑を浮かべて応接室のソファーに腰掛ける。ネスを中心に俺とリフレで挟む構図だ。

 そんな俺達の前にマリッサが腰掛け、ナリンセンが隣に座る。リットンはお茶を持ってやってきた。自分を含めて6人全員のお茶を置き終えたリットンも俺達の前へと座り、お茶を飲み始める。


「それで、会わなきゃいけない用事っていうのは?」


「なんかネスちゃんの、リアルでもゲームでも両方に関わる重要事らしいですよ~」


「とりあえずお茶を手に持つな。口に含んで話を聞くな。危ないから、一旦全員ティーカップをテーブルに置いてくれ」


 俺の注意に3人とも不思議そうな顔で一旦ティーカップをテーブルに置く。よし、これで不測の事態は大丈夫だろう。


「よし、ネス。話してくれ」


「えぇ。とりあえず3人とも、落ち着いて聞いてね。リアル時間で今日の事なのだけれど……今日から私は、リアルでソウ、リフレと一緒の家で暮らす事になったわ」


 その瞬間、ティーカップの中身が俺にぶっかけられる。


「うあっちゃぁっ!!なにすんだリットン!!」


「ソウさーんっ!!どうやらち○こもぎ取る時が来たようですねーっ!!」


「落ち着け、一旦落ち着けリットン!!詳しい事情は話すから!!」


「そうよ、落ち着いてリットン。詳しい説明をするわ」


 フーッ、フーッとまるで興奮した動物のように肩を怒らせたリットンを落ち着くよう説得する。一瞬唖然としていたマリッサ達も再起動して、リットンを抑えてくれた。


「どうどう、落ち着いてリットン。全ての話を聞いてからでも遅くはないわ」


「リットン落ち着く。後でもち○こはもぎ取れる」


「だからもぎ取ろうとするのをまずやめような」


 ナリンセンの言葉に突っ込みを入れつつ、リットンが落ち着くのを待つ。やがて周囲の説得に応じたリットンが落ち着いて席に座り、胡乱げな目で俺を睨みつける。それを横目で見てから、マリッサが続きを促した。


「それで、ちゃんと説明してくれるんでしょうね」


「勿論だ。まずは事の経緯を説明すると、きっかけは公式動画だ」


「公式動画?」


 不思議そうに問いかけるナリンセンに黙って頷く。


「野盗の時のアレな。公開されてからそこまでリアルでの日数は経っていないが、ウチの道場の師範が公式動画を見て、ネスに興味を持った」


「……続けて」


「そうして調べてみる、と言って実際に調べた。その結果、リアルでのネスに辿り着いた。ここまではいいか?」


「あの動画だけで?どうやって?」


「詳しい事は分からん。が、ネスが顔のパーツを弄っていないのが災いしたのは確かだ」


 リットンからの問いかけに素直に答える。俺にもどんな手段を使ったかは詳しい事はまだ分からんのだ、他に答えようがない。


「そして、リアルでのネスに辿り着いた後で、その実家との話にもカタをつけた。その結果、今日俺はリアルでネスと対面、そのままネスはウチに来る事になった。そうして現在に至る、という訳だ」


「……ちょっと待って。色々非常識すぎて。まずネスの実家は、そんなに分かりやすいの?」


「タネを知っている俺からすれば、検索サイトで特定キーワード打てばすぐヒットする。それにネスの実家は特殊でな、その技術を持つ家柄はそう多くはない」


「そう、そうなのね。そこはまず分かったわ。次の疑問なのだけれど、そんな事をしてしまえるソウさんの家は、どんな家なの?」


 マリッサの言葉に深く溜息をつく。やはり問題はそこだ。正直言って、そんな事ができる家なんていうのもそう多くはない。

 だがここで腹をくくって言わなければいけない。深く深呼吸をして、俺は告げた。


「――九堂武術道場と言えば分かるか?」


「……あー、あーっ!!九堂家!!色んな所にパイプがあるという武術の伝統工芸!!」


「まぁ、そう言われる事もある」


 マリッサの絶叫に小さく答える。リットンは目を見開き、ナリンセンは何が起こっているのか理解できていない顔だ。するとマリッサが立ち上がり俺に肩を怒らせて叫ぶ。


「バカじゃないの!なんでそんな家の人がこんなゲームやってんのよ!!もっとリアルで色々やってなさいよ!!」


「いや、別にゲームくらいいいじゃん」


「そういう事言ってんじゃないわよ!!それであんた誰なのよ!!」


 マリッサの叫びについ息を詰まらせる。そんな俺の後を引き継いでくれたのは、リフレだった。


「この方は、九堂武術道場次期師範及び九堂家次期当主、九堂宗吾様です」


「…………あー、もう、最悪。ガチのリアルチート様じゃん。じゃあリフレさんもそうなんじゃん」


「はい、私は分家の一つ、三谷家の次女、三谷涼子と申します」


 ペコリと頭を下げたリフレを見て、マリッサは虚脱状態でソファーに腰を落とす。しばらくこれは、話ができそうにない、かなぁ。

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[一言] 宇宙猫になるマリッサさんwwwwww
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