剣舞のこと・舞姫は十字星に翔ぶ54(終)
2025-0625
口絵追加
凍てついた君の時間をこじ開ける。
つないだ二人の心、愛が動き出す。
10年の因果が終わったあの夜から、一週間が経過した。
一連の騒動は、首都圏一帯の交通、電波障害のニュースに掻き消されて、有耶無耶になった。
都内での銃撃戦だの爆発だのは見間違い、あるいは集団パニックによる幻覚という方向で処理された。
医薬庁庁舎跡の崩壊、地盤の液状化に関しても、ただの手抜き工事による事故というのが公の発表だった。
報道だけでなく、シュリンクスを始めとしたSNSでも、大衆の疑問や不安に対する“もっともらしい回答”が提示されて、人々は何事もなく日常に戻っていた。
少数の物好きが真面目に事件を検証しても、いつの間にか入り込んだオカルトマニア、陰謀論者によって滅茶苦茶な設定が付け足されて、事件の話をすること自体が陳腐化していった。
黒衣の怪人サザンクロスが怪物と戦っていた――なんていう荒唐無稽な話は、陳腐化に更に拍車をかけた。
騒動から数日後に、千葉県の南端部で総務省と内閣府の職員二名が溺死しているのが発見された――という妙な事件もあった。
これに関しては
〈二人は酒を飲んで酔っ払って東京湾を手漕ぎボートで横断できると思って横須賀市から出航したものの、酔いから海に転落。そのまま二人とも溺死〉
――という、ツッコミ所満載のシナリオが報道された。
警察も「事件性なし」と判断して、それで全てが終わった。
もちろん、ネット上では不自然な点を指摘する意見が噴出したが、続報も何もないので、すぐに大衆の感心はなくなった。
スマホに映るニュースサイトの日付は、三日前。
とっくにトップから外れた古い記事なので、コメント欄の更新も止まっている。
「ま、そういうことだろうな……」
と、納得したように呟いて、園衛はスマホのタブを閉じた。
要するに、”自殺”させられた二人の官僚はケジメを取らされた……あるいはトカゲの尻尾切りというワケだ。
南郷と園衛をピンポイントで狙う暗殺のはずが大騒動になって、それで口封じも兼ねた責任を取らされた。
同時に、園衛に対しても「これは二人の木端官僚が独断でやったことなので、そいつらの命で手打ちにして頂きたい」という無言の政治的ポーズなのだと解釈できる。
なんとも平和ボケした、社内政治だけが得意な小役人らしい考えだ。小賢しい言い訳で責任逃れできると思っているのだろう。
園衛は、後で二、三人……もう少し偉い奴を見せしめに殴り殺すつもりでいた。
平静に物騒なことを考えながら、園衛は病院の自動ドアを潜った。
崩壊する廃墟から脱出後……園衛は南郷を宮元家の息がかかった都内の自衛隊病院に担ぎ込んだ。
交通インフラは障害から立ち直っておらず、電車もタクシーも使えず、救急車もいつ来るか分からない状況だったので、園衛が直に運び込んだ。
夜中に女が半死半生のコスプレ男を担いで病院に乗り込むという異常事態であった。
幸い、園衛と面識のあるベテラン医師と看護師長のおかげで騒ぎにはならなかったのだが。
南郷は緊急手術を受け、現在は容態も安定している――と、園衛は診察室で医師から説明を受けていた。
「腹部の裂傷は出血が派手ですが、内蔵へのダメージはありません。貫通刺創でコレは運が良いとしか……」
レントゲン写真を背に、医師は困惑した様子で説明を続けた。
「内臓の損傷も軽微です。左の肺は軽い気胸がありましたが、安静にしていれば自然と塞がります」
「彼は随分と血を吐いていましたが?」
「食道からの出血ですね。確かに胸に打撲の痕はありますが……」
「全体的に……傷が浅いと?」
「はい……不自然なくらいに。もう退院できるくらいには回復してますよ、彼……」
納得できないといった感じで、医師は横っ鼻を掻いていた。
分かる話だ。
改造人間との肉弾戦で打ちのめされたにしては軽傷すぎる。相手はおよそ10トンものパンチ力。それの直撃なぞ、電磁反応装甲なしでは一撃でミンチと化している。
それでも南郷が生きている理由は――心当たりがあった。
「不死の呪い……か」
人気のない廊下を歩きながら、園衛は呟いた。
南郷の悪運の強さは生来のものだろうが、それを技量と呪いが更に強化している。故に、彼自身が死を望んでいようとも死難い体になっているのだろう。
彼に呪いをかけた竜の魔女とやらは、神に等しい魔力を持っていたのだろう。
そして、呪いには怨念以外の強い感情も込められていたのだと――分かってしまうのは。園衛が女だからだと思う。
「愛しき故に憎く、憎いが故に愛しい……。死してもなお、彼の心を束縛する呪い……。ああ……女というのは実に面倒臭い生き物……」
だからこそ――
「面倒な女にはなりたくないものだな」
自戒して、自覚して、なるべくカラッとした生き方を心がけたい。
ドロッとした女というのは、傍から見れば面白くても当事者には不快極まりないものだ。昔の昼ドラではあるまいし……。
と、仕様もないことを考えている内に、目的の病室に着いた。
部屋の中からは、二人分の気配がした。
「ごめんなさい……。私、南郷さんのこと全然分かってなくて……。たくさん、酷い言い方してしまって……っ」
聞き慣れた女の声がした。しかし聞き慣れない謝罪の言葉だった。
室内にいるのは、園衛の秘書を務める右大鏡花だった。
いつもクールを気取っている鏡花だが、今日に限っては生の感情を剥き出しにしていた。
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……!」
「うるさいね……あんた」
泣きそうな声を搾り出す鏡花に対して、南郷は鬱陶しそうに舌打ちした。
「チッ……悪いと思ってんなら入院先に来るなよ。俺はこのザマだよ? 寝たきりで反撃も出来ない男に、あんたは一方的に謝罪して、気持ちを押し付けて、『許してもらった』と自己マンに浸りに来たのか? いい御身分だな?」
「そ、そんなつもりじゃ……」
「それにね、身内を殺した相手に頭下げるのは……筋違いだと思うね」
南郷は辛辣な現実を叩きつけた。
鏡花の姉の胎内にいた赤子も含めれば、南郷は三人も彼女の身内を殺している。どちらかと言えば、加害者の部類だろう。
「でも、義兄も姉も……人間じゃ……なくなって……」
「言うな……! そんなこと関係ないだろ……。あんたにとって、あの人らは家族だった……。そういう思い出まで……壊す必要はないだろ」
南郷の荒い口調の中に、柔らかい思いやりのようなものを感じたのか、鏡花の口が戸惑いに震えた。
「あの、南郷さん……?」
「もういい……。目障りだから出ていけ。二度とここに来るんじゃあない……」
「でも……」
「しつこいな……。俺はあんたみたいに思い上がった小娘が大ッ嫌いでな。嫌いな奴とは、顔合わせないっつーのが一番利口な生き方……! 仲良しゴッコだの和解だのクソ食らえ……。チッ……ここまでハッキリ言えば分かるか、お利口なお嬢ちゃん? だから――」
まだ声を出すのが辛いのか、南郷は苦しげに息を切らして、山盛りの憎まれ口の果てに
「――帰って、墓参りにでも行けよ……」
やっとのことで、鏡花を病室から追い出した。
病室の扉が開いて、鏡花は南郷に会釈をして、退室した。
扉の前の園衛と鉢合わせて、一部始終を聞かれていたことにも気づいたらしい。
「園衛様……私、南郷さんに嫌われちゃいましたね……」
滲む涙を拭きながら、しかし鏡花は笑っていた。
「私は……もう子供じゃなくて大人だから。しっかりしなきゃダメだって。楽な方に逃げちゃダメだって……南郷さんに怒られちゃいました」
南郷は自分を叱咤激励してくれたのだという……鏡花の解釈が正しいかどうかは、園衛が口を挟むことではない。
年長者がアレコレと知った顔の上から目線で薀蓄を垂れるのは、余計なお節介で野暮というものだ。
鏡花は人間として一皮剥けた。成長した。その結果があれば良い。
「そうか……」
故に、園衛が漏らしたのは肯定の一言のみ。
鏡花は感謝を込めて、園衛に一礼した。
「これから姉の墓参りに行きます。それから……実家の整理を」
「実家? 京都にか」
「はい。ずっと出しっ放しだった……リビングのベビーベッド……片付けようと思うんです」
それは、右大高次が我が子のために用意したものだった。
鏡花の中で、姉と義兄と、生まれることなく彼岸に還った甥あるいは姪に対する、気持ちの区切りがついた――ということなのだろう。
そして園衛は、鏡花に三日ほどの暇を出した。
三日もあれば、10年間ずっと保留されていた長いお別れも済むだろう。「ほど」というのは、追加で一日くらい自分探しの旅をしても良かろうという、思いやりの誤差だ。
鏡花は一人旅でも大丈夫だ。
彼女はもう……大人なのだから。
もう誰にも遠慮の必要がないので、園衛は病室のドアを叩いた。
「南郷くん、私だ。入るぞ」
返事を待たず、いつものように勝手に入室。
南郷の舌打ちが聞こえた。
「チッ……いきなり来るし……」
「いい加減に馴れたまえ。それと、鏡花への対応。もっと優しく言葉を選べなかったのか?」
「怪我人に説教は止めてほしいね」
「ああいう言い方、女の子に嫌われるぞ?」
「嫌われるために……言ってるんですよ」
南郷は園衛から目を背けた。
相変わらずだと……園衛は溜息混じりになった。
「わざと人を遠ざけようとする。死ぬも生きるも自分一人だから、他人と関わるのが無駄だと思っている……」
「分かったようなこと……」
「違わないだろう?」
南郷は答えなかった。
図星なのだ。かといって、はいそうですねと相槌を打って認めてしまうと、相手を受け入れることになる。他人と共調、共感をしたくないから、何も言わない。黙る。
強敵に対して共闘した仲だというのに、心技重ねて合体攻撃を決めた仲だというのに、死線を共に潜り抜けた仲だというのに、南郷に吊り橋効果は無効のようだ。
彼もまた、精神攻撃無効の耐性持ちというワケだ。
(男なのに面倒臭いな……)
と、園衛は半分呆れて、もう半分は愛おしく思った。
酷いコミュ障でネクラで、無職で、社会不適合者……。それが南郷の現実だ。客観的事実だ。見下しているワケではない。
そんな彼だから……放っておけない。
絶対に救わねばならないと……改めて思う。
「キミがそんな感じなのは……人生がつまらないから、だと思う」
「……だから?」
「私がキミのこれからの人生、楽しくしてやろう。生き甲斐を与えてやろう」
「偉そうに……」
少し、反発された。
絶対に反感を買うと分かっていたから、これまで面と向かって言わなかった。
傲慢で、思い上がった勘違い女だと思われたくなかったから、ずっと我慢していた。
そういう面倒臭い誤魔化しは……もう止めることにした。
軽く、息を吐いて、園衛は少し話題を変える。
「昨日、空理恵と墓参りをしたよ」
「ン……?」
空理恵の名前を出すと、南郷の反発が弱まったのを感じた。
「キミと見た、あの石碑……。骨も何もない、空っぽの墓……。あそこに、もう一人の空理恵が眠っているからな」
「空理恵は……」
「もう大丈夫だ。全部、受け入れてくれた。だが一つだけお願いをされたよ」
「どんな……?」
「もう一人の自分と、あそこに名前のある全員の墓を、一つずつ作ってほしいと……な」
南郷は黙って、俯き加減に顔を落とした。
表情を見せまいとしているが、彼が笑っているのは分かる。
はにかむように、少しだけ口元を緩めて、南郷十字は笑っていた。
今日は……それだけで十分だと思った。
「南郷くん……空理恵もキミを待っている。退院したら、一緒に肉を食いにいこう」
園衛は病室のドアに体を向けた。
怪我人と長話をするつもりはない。サッパリと行きたい。
そして退室の間際、少しだけ足を止めた。
「私の所で働いてくれるか否か……。次に……答を聞かせてほしい」
大事な、とても大事なことを伝えて、園衛は病室を後にした。
園衛には予感が……いや、確信があった。
彼はきっと、答えてくれないと。
結果を分かっていながら、園衛は悶々と時を過ごした。
(彼は……私をどう判断しただろうか)
(私は彼に相応しい雇い主だろうか……)
(私は……また失敗したのかな)
意味のない自問自答。全くもって面倒臭い女。
地元には帰らず、病院の周囲で無為に時間を潰した。
意味もなく、のろのろと進む夕方の道路を右往左往したり、カフェの座り心地の悪い椅子に尻をつけて大して旨くもない変な名前のコーヒーをすすったり、意味もなくアクアラインを渡ったりした。
海上のサービスエリアに駐車して、なんとなく冷たい海風に当たっていると、スマホにメールが届いた。
空理恵からだった。
(アニキの具合、どうだった?)
(いつ帰ってきてくれる?)
(みんなで行くんでしょ? お肉食べにさ!)
スマホがやけに重く……感じた。
ディスプレイを消灯して、重々しく項垂れる。
「人の期待は……こんなにも重くて……支えきれんなあ……。たった一人の願いなのに……」
長いこと忘れていた、人間一人の重さが肩に圧し掛かる。
こんな思いを裏切りたくないから、南郷は人を遠ざける。一人になろうとする。一人で生きて、一人で死んでいこうとする。
分かる話だ。
「分かるから……どんなに重くたって、私もキミも、期待に応えるんだ。そうだろう……南郷くん」
無意識に、涙声で呟いていた。
鼻をすすって、園衛は顔を上げた。
首都の夜光に目を向けて、またあそこに戻るのだと。戻らねばならないと、決心した。
東京に、夜の帳は降りてこない。
深夜三時を回っても、首都の空は薄い光を反射していた。
世田谷区内の自衛隊病院にしても、周囲はマンションに囲まれて、すぐ近くの国道から車の音が聞こえてくる。
そんな落ち着かない闇の中、街灯の灯りを避けるようにして、ゆらゆらと歩く人影があった。
「はぁ……はぁ……」
息を切らして、肌寒い夜道を往く、入院服の男がいた。
南郷十字だった。
結局、これが南郷の答だった。
戦いを生き残っても、その先の人生が見えない。何も見えない。生き甲斐もない。目的もない。食う術もない。バケモノを殺すための技術が、生きていく上で何の役に立つのか。誰に誇れるというのか。
金もない。
家もない。
愛する人もいない。
無だ
未来は、完全な無だ。
こんな無様な息をするだけの死体……誰に合わせる顔もない。
俺の帰りを待つなんて、ただの気の迷いだ。
悲しませるのは悪いとは思う。だが忘れてほしい。
どうか……忘れてほしい。
「ごめんな……空理恵……」
いつの間にか、妹のように思っていた少女の名を呟いた。
もう一人……運命を共にする覚悟を示してくれた人のことは、胸の内にしまっておくことにした。
彼女の期待を裏切った自分が……名前を呼ぶ資格などない。
「グッ……」
歩道脇の塀に体を擦るように、南郷は歩いていく。
行くあてなど、どこにもない。
このままどこか人気のない所で、一人でひっそりと野垂れ死ぬつもりだった。
だというのに――
「逃がさんぞ、南郷くん」
また、あの人が――宮元園衛が、死に向かう黄泉路に立ち塞がった。
「男なら女性との約束、守りたまえよ?」
言うと、園衛は南郷に肩を貸して、車の助手席に押し込んだ。
「強引に……俺を連れ戻す気ですか……?」
「力づく……それもまた良し。だが私は、キミの意思を尊重するよ」
何を思っているのか、園衛は運転席に乗り込むと、車を発進させた。
南郷は、妙な気分だった。
まるで幼子の頃に、わけも分からず車に乗せられて、遠方の親戚の家への挨拶に連れて行かれるような、妙な不安と高揚感があった。
俺はどうなるのか。この人は俺をどうしたいのか――と。
車内では、お互いに言葉を発することはなかった。
世間話、無駄口、腹の探り合い、言い訳、詮索……全てが野暮で無意味だった。
車は高速道路に乗って、北に向かっていた。
進路と道路上の標識から、園衛は地元に帰るつもりなのだと分かった。
閑散とした夜道を走り、車はインターチェンジを降りて、田舎道を抜けていく。
白み始めた夜空の下には、南郷が以前に見た風景が流れていく。
田植えの時期には大きな水鏡になるという田園地帯を越えて、園衛が守りたいと言った街を過ぎ、学校の横を抜けて――いつかの、あの丘の上に来ていた。
誰もいない、霜降りの展望台に、車が停まる。
眼下には、朝もやに包まれた街。冷えた空気に、車のドアが開いた。
南郷が車外に出ると、園衛が待っていた。
「南郷くん……私たちは、色々なモノを失い過ぎたな……」
胸の疼きを堪えるような声で、園衛は南郷に語りかけた。
そこには、嘘偽りのない赤心があった。同じ痛みを知る本音があった
彼女は南郷を待っている。答を待っている。
南郷に、もう逃げる気はなかった。
「だから……南郷くん。これからは、人生を取り戻す番だ」
「どうやって?」
「ここでなら、キミは人生を取り戻せるよ。失ったモノの代わりじゃない。新しい人生……当たり前の幸せを……」
園衛の指が、南郷の手に触れた。
冷たい手に、少しだけ温かい指が絡んで、柔らかく包み込んだ。
反射的に逃げようとした南郷を、園衛は身を寄せて繋ぎ止める。
「まどろっこしいから……もう、ハッキリ言う! 私はキミが欲しい! 人間として! 人材として! 異性として! ああ、もう……とにかく、その、色んな意味でキミは私に必要な人なんだよ! 私が私を救うために! この街を守るために! あぅ、その……なんていうか……ッッッ」
威勢よく切り出した割に、小娘のように赤面して言葉に詰まる園衛が、なんだかおかしく見えて……愛おしく思えて、南郷はふっと吹き出した。
この気高い女性に、恥をかかせぬように言葉を選んでやる。
「俺に……一緒に働いてほしい?」
「そっ……そう! そうだ! イエスか? それとも……ノォか?」
また、生娘みたいに期待と不安に表情をコロコロ変えるのが、空理恵にソックリだった。
胸の奥にじわりと滲む熱い感情を押し込めながら
〈俺はもう往くよ……佳澄ちゃん〉
もうどこにもいない思い出の少女に、遠い過去に別れを告げた。
「いいですよ……。俺は、ここで生きていきます……」
繋いだ手から、園衛の鼓動が伝わってくる。
バカ正直に心臓が、手が震えていて、どんな顔をしているのか直視できなくて――
南郷は園衛の肩越しに、朝焼けの街を眺めていた。
黒髪が……愛しさを覚え始めたその人の香りが――頬に触れるのを感じた。
昨日に死に、今日に甦り、明日に生きる。
かつて主人公だった男の、再生の物語――。




