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王子と伯爵令嬢の仁義なき攻防(4)

 翌日、どこかぽぉっとしたままリネットは学園の門をくぐった。

 昨夜は、無事にメリアローズの代役として王子の相手を務められた……と思いたい。

 そのことを思いだすと、リネットの頬が自然と熱くなる。


 最初はガチガチに緊張して、少しでも粗相をすればその場で首を刎ねられるのではないかと怯えていたが……ユリシーズ王子は、そんなリネットに対しても親切で優しくしてくれたのだ。

 いつの間にかリネットは自分の役目も忘れ、王子との時間に夢中になっていたのである。


 ――やっぱり、評判通りに素敵な御方……


 この国の多くの少女が憧れるユリシーズ王子は、評判に違わぬ完璧王子だった。

 彼の声、笑顔、優しくリネットをエスコートしてくれたことなどを思い出すと……今でも顔から火が出そうになってしまう。


「……はっ! 私は何を!!」


 夢の世界に入りかけたところで、リネットは慌てて強く頭を振り、無理矢理現実に帰還した。


 ――王子は、メリアローズ様の婚約者なのだから。


 彼が自分に優しくしてくれたのは、自分がメリアローズの代わりとして赴いたからに他ならない。

 そうでなければ、彼がリネットを気に掛ける理由など何もないのだ。


「そうよ。やっぱり王子にはメリアローズ様が――」


 思わず小さくそう口にしてしまい、リネットは慌ててはっと手で口を覆う。

 だが幸いにして、彼女のそんな独り言を聞いたものはいなかったようだ。

 危ない危ない、と口を閉じて、リネットは何事もなかったかのように歩き出す。


 リネットたち「王子の恋を応援したい隊」は、ユリシーズ王子とジュリアの恋を成就させることを目標としている。

 だから、最終的に王子と結ばれるのはジュリアなのだ。ジュリアでなくてはならないのだ。

 そうわかっていても、リネットはどうしても王子とお似合いなのはメリアローズの方だと思ってしまうのだ。


 完璧な王子に、完璧なメリアローズ。

 他に比類する者もいないほど気高い二人には、やはりお互いが唯一の相手ではないのか。

 うっかり大臣の前で口に出したら首が飛びそうな考えを、どうしてもリネットは捨てられないでいる。


『メリアローズは、昔からここのシチューが大好きなんだ』


 そう口にした王子は、本当に嬉しそうな顔をしていた。

 彼だって、メリアローズに悪感情を持っているわけではないのだろう。

 もしそうなら、メリアローズの代役としてやって来たリネットにももう少し辛辣な態度を取ってもいいはずである。

 それなのに、王子はリネットにまるで夢のような時間をくれた。

 だが、本来その美しい時間を過ごすはずだったのはリネットではない。メリアローズなのだ。


 王子はジュリアに恋をしている。

 それが事実だとしても、リネットはやはり王子に見合うのはメリアローズしかいないと思ってしまう。


「なんとかならないかしら……」


 小さくため息をついて、リネットはそうとは悟られないように顔を上げて歩き出した。



 ◇◇◇



「ねぇ、大丈夫だった? 昨日」

「はっ、はい!」


 二人きりになった途端、メリアローズは当然のように昨日の話を切り出してきた。

 リネットも慌てて姿勢を正し、若干上ずった声で返答を返す。

 最初は緊張でどうにかなってしまうかと思ったが、最終的には大丈夫どころか、二度と経験することはないであろう至福の時間だったのだ。


「まるで、夢のようでした……。ほんの少しの間だけでも、私が王子の隣に立てるなんて……」


 気がつくと、リネットはそんなことを口走ってしまっていた。

 まずい、と思って慌てたが、意外にもメリアローズは満足そうにリネットの言葉に頷いているではないか。


「それはよかったわ。そうね、これからも私が行けない時はあなたにお願いしようかしら」


 更にメリアローズがとんでもないことを言いだしたので、リネットは慌ててしまう。


「そんな、無理ですよ! やっぱり王子の隣にふさわしいのはメリアローズ様ですっ!」

「ちょっとリネット、私たち『王子の恋を応援したい隊』の最終目的は?」

「……ユリシーズ様と、ジュリアの恋を成就させること、です」

「そうよ。王子の隣に立つのは、私でなくジュリアなのよ」


 メリアローズ自身は、王子と結ばれるべきなのはジュリアだと思っているようだ。

 だが、それでも……リネットはどうしても、王子の隣に立つのはメリアローズに他ならないと思ってしまうのだ。


「それでもやっぱり……王子の隣にふさわしいのはメリアローズ様だと思うんです」

「何言ってるのよ。王子が好きなのはジュリアなのよ?」

「それはわかりますけど……」

「まぁ、ジュリアも王子に正式に選ばれれば自覚が出てくるでしょう。王妃としての教育も受けさせられるだろうし……数年もすれば立派になるわ」


 確かに、メリアローズの言う通り、ジュリアはとてつもない輝きを秘めた少女だ。それはリネットにもよくわかっている。

 彼女は純粋で、明るく、美しい。

 きちんとした教育を受ければ、今の荒削りな彼女の魅力が更に輝き、誰もが視線を奪われるような淑女へと成長することだろう。


「ふふっ、あの田舎娘が王妃なんて……笑っちゃうわ」

「メリアローズ様……」

「リネット。王子はあんな、何を考えてるのかわからない御方だけど……見る目は確かなはずよ。きっとジュリアは、素晴らしい王妃になるわ」


 王子のお相手、王妃、素晴らしい王妃……。

 一体、素晴らしい王妃とはなんなのだろう。

 リネットにとっては、目の前のメリアローズこそが一番そのポジションにふさわしい者であると思えるのに。


「昨日は無理言って済まなかったわね。いつもありがとうリネット。感謝してるわ」

「メリアローズ様……!」


 リネットはどこか釈然としない思いを抱いていたが、そんな感情もメリアローズのねぎらいの一言で吹っ飛んでしまった。


 結局のところリネットは、メリアローズに対してはとんでもなくちょろかったのである。

 そして王子のお相手選びにまさか自分が大きくかかわってくるとは、この時のリネットは思いもしなかったのだ。




 ~おまけ~


「その、メリアローズ様。ちなみに今回の劇の演目にあれを選んだ理由は……」

「理由? 特にないわ。なんとなく目についたのがあれだったのよ」

(…………はっ! メリアローズ様のことだから、ああは言っても深い理由があったにちがいないわ。きっとこれは試練なのよ。私が、メリアローズ様の腹心に足る者かそうかを試していらっしゃるんだわ……! メリアローズ様、私きっとあなたの筆頭取り巻きにふさわしい働きをしてみせます!!)


 盛大な勘違いにより心の内で炎を燃え滾らせながら、リネットはのん気に鼻歌を歌うメリアローズの背中を追いかけた。

という感じの王子とリネットの馴れ初め話(?)でした!

この後もメリアローズの話で盛り上がりつつ距離を縮めてった感じです

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[一言] 次は当て馬か……。
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